VW 1.2 TSIエンジン探求

3月にゴルフTSIトレンドラインが追加発売され、1.2LのTSIエンジンが採用されたが、このほどポロにも1.2TSIエンジンが採用され、昨年来暫定的に搭載されていた1.4Lエンジンは姿を消した。
この1.2TSIは自然吸気の1.6Lエンジンにとってかわるもので、400ccのダウンサイズを行っているわけだ。

ダウンサイジング・コンセプトの旗印のもとに開発されたTSIエンジンの最小版がこの1.2TSIとなる。ゴルフやポロのメインエンジンで、ヨーロッパではゴルフの最量販モデルはこの1.2Lとなるだろう。またこの1.2TSIはアウディ、シュコダ、セアトの量販車種にも搭載されるので、生産規模はとてつもなく大規模で、ドイツのケムニッツ工場で1.2L(EA111型ファミリー)だけで年間150万基とされ、さらに中国での生産ラインも始動するという大規模なもので、量産移行に当たっては、仕向け地仕様を設定する工数もけたはずれであったという。圧縮比10.0で高過給を行うにもかかわらず、ロシア、中国などオクタン価89にも対応する必要があったのだ。
ちなみに日本のガソリンは、レギュラー=92〜90、ハイオクタン=100だが、ヨーロッパでは98オクタン、95オクタン、91オクタンの3種類が販売されており、どれを使用しても問題ないが、通常は95オクタンが選択される。

1.2TSIの開発コンセプトは、従来のTSIコンセプトに加えて、軽量化、低フリクション化、そしてコストダウンが追及されている。もっともコストダウンは日本式とはずいぶん異なるのだが。
排気量は1197cc、ボア・ストロークは71.0×75.6mmで、ストロークは1.4TSIと共通になっている。
1.2TSIエンジンの構造は、チェーン駆動SOHC、ローラーロッカーアームによる2バルブ、アルミ製4連サイアミーズ式オープンデッキタイプのシリンダーブロックで、ねずみ鋳鉄ライナーを鋳包にしている。ライナーは溝加工されアルミ製ブロックとしっかり噛合し、ブロック全体の剛性を高めている。

1.4TSIエンジンはシリンダーブロックは高い燃焼圧に耐えるため薄肉軽量のねずみ鋳鉄製であるが、1.2TSIは量産性を考慮したアルミ製とし、エンジン重量は89.5kgと超軽量に仕上げられている。これは日本車の同等クラスと比べても圧倒的に軽い。
フロントカバーは下側がマグネシウム鋳造製、上側は樹脂製。
またオイルセパレーターはブロック一体型としている。
こうした軽量化とコストダウンコンセプトのために、SOHC・2バルブが選ばれたようだ。
バルブ挟み角は24度と極めて狭く、浅皿型ピストンと組み合わせ、10.0の圧縮比だ。コンパクト燃焼室にして急速燃焼を狙っていることがわかる。 ピストンリングは低張力化され、ピストン自体も軽量タイプ。側面はモリブデンコートされている。
ローラーロッカーアームで作動する吸排気バルブはオフセットされ、吸気バルブの隣に直噴インジェクター、排気バルブの隣に点火プラグが配置される。点火システムはさすがにダイレクト式ではなくトランジスター配電式だ。
噴射圧は最高150気圧。なおインジェクターノ位置が燃焼室中心よりオフセットされているため、6ポートの噴射口は中心部に向かってオフセットされる。
また燃料噴射は3000回転までは2段噴射を行う。つまり吸気流速が遅い領域でのミクスチャーを向上させ、燃焼速度を高めている。
排気バルブはナトリウム封入式で、950度の耐熱温度とされている。

クランクシャフトはスチール製で、メインジャーナル径は42mmと細軸化。軽量化のためにバランスシャフトは装備しない。クランクシャフトの支持は通常のキャップ式だ。
オイルポンプはチェーン駆動によるギヤ式で、減速駆動によりオイルポンプを低回転化させ、オイル容量の減少、低油圧化をはかることでフリクションを低減。また本格的なオイルセパレーター/ブローバイを装備することで、クランク室内の圧力低減も行っている。
このへんの低福利ション対策も徹底している。
ターボはTSIシリーズで最も小型なもので、排気マニホールド一体型の鋳鋼製である。
ウエストゲート作動はTSIシリーズで始めて電子制御式が採用され、吸気上流とインテークマニホールド内にそれぞれ圧力センサーを配置。加速域でのウエストゲートからの排気漏れを抑えることで過給圧の上昇速度を高めているのだ。
最高過給圧は0.9気圧。
インテーク側は、インテークマニホールド一体型の水冷インタークーラーを装備。
インテークポートの形状はバルブシート周辺でスワール流を発生させる形状とし、その一方でポートはストレートと優れた形だ。

動画↓

//www.youtube.com/v/PY91c8JCwv0&hl=ja_JP&fs=1&

最高出力は105ps(77kW)/5000回転、回転上限は6000回転、最大トルクは175Nm/1500〜4100回転、リッター当たり出力は87.5ps、リッター当たりトルクは146Nmという高い出力レベルと完全フラットな低中速トルクを実現。
なおポロの10・15モード燃費は20km/Lで、実用燃費でも80%以上のレベルで達成でき、走行シーンによってはハイブリッド車を上回る実力だ。CO2排出量は日本モードで116g、欧州モードで124g。
このようにみるとコストダウン戦略のもとで開発されたとされるが、日本の1.6Lクラスと比較してコストは決して安くはないと思われるが、驚くほどの大量生産力を前提にしていることが真のコストダウンといえるのかもしれない。
なお、将来的には900ccクラスの3気筒TSIも登場する可能性が高い。一方で、日本でダウンサイジング・コンセプトを実行しようとするメーカーはない。

文:松本晴比古

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