新世代のボルボのフラッグシップであり、オールニューモデルの第1弾となるXC90が日本に導入され、試乗するチャンスがやってきた。新型XC90はT5エンジンを搭載するモメンタム、T6エンジンを搭載するR-DESIGNとインスクリプション、そしてT6エンジンとモーターを組合わせたツインエンジン「T8」を搭載するPHEVのT8インスクリプションという4車種があるが、今回試乗できたのはT6インスクリプション・エアサスペンション仕様だ。<レポート松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
PHEVのT8インスクリプションは2016年5月頃に日本に導入される予定で、このモデルや他のグレードの試乗会は改めて行なわれる予定だ。新型XC90は、新世代のDrive-Eエンジンと、新開発のプラットフォーム「SPA」を採用し、トーマス・インゲンラートの最新デザインを採用し、従来モデルと決別し新たなフェーズに入ったモデルとなっている。
XC90はアメリカではミッドサイズと呼ばれるSUVだが、エクステリアはライバルのSUVモデルとは違ってオーバーフェンダーや見よがしのスキッドプレートなどSUVの定番デザインを抑制し、滑らかでシンプルでクリーンなフォルムとなっている。定型的な強い存在感を意図的に削ぎ落とし、内に秘めたパワーを感じさせるデザインだ。
一見するとスムーズで単調に見えるが、近くで見るとボディパネルの張りは結構ボリューム感が感じられる。ボディサイズは、全長5mを少し切り、全幅は1960mm、全高1775mmで、いわゆるアメリカ・ミッドサイズ。日本の都市部では相当に大きなボディサイズと感じることは確かだ。
なお写真では最低地上高が乗用車的に低く見えるが、これは+30万円のオプションのエアサスペンションのためで、標準状態より40mmローダウンした乗降ポジション(エントリーアシスト)になっているからだ。このエア・サスペンションはコンフォートモード時がデフォルトの最低地上高で、ECOモードでは-10~20mm、ダイナミックモードで-20mm、エントリーアシストで-40mm、荷積モードで-50mm、オフロードモードで+40mmに地上高が変化する。
インテリアも従来のテイストが一新され、より上質になり、細部にまでこだわった仕上げや質感は、プレミアム・ブランドであることを物語っている。もちろんデザイン・テイストはあくまでもスカンジナビア・デザインで、ドイツ製のプレミアムとはかなり風合いが違うのだが、表面クリア処理なしの本木目やアルミ材を組み合わせたトリム処理は繊細で美しい。
SUVらしい高めのシートに座り、アクセルを踏み込む。2.0tクラスの巨体がするすると走り出す。Drive-Eシリーズの中で最もパワフルな2.0L・4気筒でスーパーチャージャー+ターボ過給のT6エンジンは2200rpmから最大トルクを発生するフラットトルク型で扱いやすい。
アクセルを深く踏み込むと、エンジンは滑らかに、力強く吹け上がる。もちろん8速ATはきめ細かに制御され、変速も素早く、ショックもない。ちなみにライバルのBMW X5 35dは258ps/560Nm、X5 35i(3.0L・直6ターボ)は306ps/400Nm、アウディQ7は2.0 TFSIで252ps/370Nm、3.0L・V6が333ps/440Nmという出力なので、XC90の320ps/400Nmは4気筒ながら6気筒クラスの出力で、十分にパワフルといえる存在なのだ。
このエンジンは、常用域では静かで滑らかで、アクセルを踏み込んで4000rpmあたりからは爽快なサウンドを聞かせてくれるといった具合で、質感という点でも4気筒ではトップクラスといえる。
ステアリングフィーリングも洗練されている。高速道路ではバツグンの直進安定性で、ステアリングの路面からの適度なインフォメーション、正確さも高いレベルにあり、大きなボディにもかかわらず軽快感も感じられる。フロントにダブルウイッシュボーンを採用し、ハンドリングの質感は一段と高められたといってよいだろう。
乗り心地は、少し硬めに感じる。275/45R20(ホイールは9J×20)という巨大なタイヤの影響もあるが、エアサスペンション特有の硬さと、エアスプリングが振動する感覚が伝わってくる。エアサスペンションは地上高を制御できるメリットがあるが、乗り心地的にはもう少し洗練を望みたい。また、標準のコイルスプリング仕様はエアサスペンションとどれほど乗り心地に違いがあるか、興味深い。
高速走行でのキャビン内の静粛さや、シートの座り心地のよさなど総合的な快適性のレベルは高く、さらに現時点では万全ともいえるドライバー支援システムを装備していることもあって、長距離ドライブなどでこのXC90の真価を味わうことができると思う。
パッケージでは、XC90のボディサイズでは2列目シートはもちろん、3列目シートも子供専用ではなく、大人がきちんと座ることができるスペースが確保されている。また3列目シートへの乗り降りも2列目シートが前方にスライドしながらシートバックが前に倒れる機構により、スムーズに行なうことができる。また、2列目シート中央にはインテグレーテッド・チャイルドシートが組み込まれているなど利便性も高い。もちろん各シートの作り、質感も文句なしだ。
ラゲッジ容積は、3列目シートを使用した状態で314L、3列目シートを畳むと692Lと大型セダンを上回る容量となり、さらに2列目シートも折り畳むと1868Lのラゲッジ容量が実現する。この容量はこのクラスならでは。
インフォテイメントは従来のボルボから一新され、センターディスプレイで車両の設定やナビ、スマートフォン連携、オーディ、空調などを操作できるようになり、ディスプレイは左右と下方向へのスワイプ操作で切り替える。ただし、基本的な操作はボイスコントロールとステアリングのスイッチで行なうことができるのは従来通りで、結果的に機械式ボタン、スイッチは8個にまで絞り込まれている。
試乗車は、まだ日本語の詳細データベースをインストールする前の状態だったため、ボイスコントロールなどの作動は不十分だったが、完全にインストールを終えた状態でのインフォテイメントの操作性、特に音声認識能力はこのクラスでもトップレベルといえるだろう。
XC90は、プレミアム・セグメントにアップグレードする意思を象徴するモデルだが、価格も一気にプレミアム・クラスに、というわけではなく装備やクオリティ、安全性などの性能とコストのバランスは相変わらず絶妙という点も、このニューモデルのアピールポイントになっている。