ボルボのSUV、「XC」シリーズのトップモデル「XC90」にディーゼル・エンジンを搭載した「D5」が加わった。全長4950mm、全幅1960mm、車両重量2000kgプラスというサイズのXC90に、強力な低速トルクを発生するディーゼルエンジンはのマッチングは? ということで早速試乗してみた。
走りの質感は一段と向上
2.0Lディーゼル・ターボのD5エンジンを搭載するXC90には、ベースグレードの「モメンタム」と上級グレードの「インスクリプション」が設定されているが、試乗したのはインスクリプションで、エアサス+連続可変ダンパーのサスペンションを備えている。タイヤはモメンタムが235/55R19、インスプリクションは275/45R20という違いがある。
2016年当時にガソリンエンジン・モデルのエアサス仕様に試乗した時には、思いの外にサスペンションのチューニングがスポーティ指向で、ステアリングのレスポンスも鋭い傾向だったが、今回改めて乗ってみると、路面のあたりがソフトで乗り心地が向上していることが確認できた。
XC90の持つ性格に合わせて、よりシャシーのバランスを良くし、フラットな姿勢で一体感がありながらも、快適さはトップレベルという味付けが熟成していた。装着するタイヤはコンチネンタル・スポーツコンタク5というハイパフォーマンスタイヤで、しかもサイズは275/45R20という巨大サイズなのだが、このタイヤを見事に履きこなしていた。こうしたハイレベルの快適さこそ、このクラスのSUVには必要だ。これなら、競合するプレミアムSUVに勝るとも劣らないレベルに達していると感じた。
走行中のボディの剛性感、操作系の扱いやすさなど運転のしやすさ、キャビン内の静粛性なども、このクラスの中でも高いレベルにある。
ボルボの個性を感じるの作り込み
インテリアの質感は、他のプレミアム・クラスとは全く違う世界観で統一されており、これもXC90の魅力だ。しっかりとした作りで体によくフィットするシート、本アルミのサテン仕上げや侘び寂びを感じさせるドリフトウッド(流木の本杢)、ステッチ処理などトリム類の仕上げの良さなどはボルボの大きな特長だ。こうした北欧デザインのセンスと、高い質感のインテリアを実現している点は、このクルマならではの価値といえる。
実際、日本の市場でも競合するBMW X5、メルセデス・ベンツGLE、アウディQ7といったクルマの中でXC90は確固たるポジションを築いているだろう。それはデザインセンスやインテリアの質感が日本人の感性に合うだろうから。
それ以外に「インテリ・セーフ」と名付けられた先進安全システムがフルに標準装備されていることや、安全性が高いというブランド・イメージが確立されている点も、XC90ののもう一つの価値となっている。
SUVならではの視界の良さや、7人乗りと大きなラゲッジスペースの両立など居住性、使い勝手のよさ、そして過剰でない、抑制されたデザインなど、これまでのXC90の持ち味に加え、ディーゼルエンジンを搭載したこのXC90 D5モデルは、XC90シリーズの中での本命といえるし、価格を含めた商品力が高いということができる。
滑らかな高出力ディーゼル
XC90は、ボルボの新世代スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)プラットフォームを採用した新生ボルボの第1弾モデルで、日本への導入は2016年だから3年を経過している。そしてようやくクリーン・ディーゼルが投入されたわけだ。もちろんこのディーゼルエンジンも、2.0L・4気筒のDrive-Eシリーズのバリエーションだ。
ドイツ系の2.0L・4気筒ディーゼルの出力は180ps〜190ps/400Nmあたりで横並びになっているが、XC90は2トンの車両重量に適合させるために、搭載する「D5(D4204T型)」はクラストップの235ps/480Nmを叩き出している。シーケンシャル・ツインターボを採用しているのは従来からのディーゼルと同じだが、より高い過給圧をかけ、より高い出力を発生させるエンジンになっている。重量のあるボディと組み合わせための高出力化は当然だが、やはり過給圧が十分高まらない低回転域ではレスポンスが悪くなるという高過給圧エンジン特有の問題が生じる。
秘密兵器の搭載
そのため、このXC90用のD5エンジンは「パワー・パルス」というちょっと変わった秘密兵器を備えているのだ。このシステムは、1速または2速ギヤで、エンジンが2000pm以下、アクセル開度が1/3以上で急激にアクセルを踏み込んだ時・・・つまり低速からの発進や急加速の時に、あらかじめコンプレッサーで圧縮して貯蔵されている19barの圧縮エアをEGR用の配管を逆流させ、タービン翼に流してタービン回転を加速アシストさせる仕組みを持っている。
低速からの急加速時といったシチュエーションで、瞬間的な圧縮エアを送ることでターボのレスポンス遅れを解消するというユニークなシステムだ。もちろん通常の市街地で、ゆったりとした発進ではこのシステムは稼働しない。急加速する時や、渋滞時の車間調整、アクセルを急に踏んだときなどのシーンでストレスのない加速を生み出すわけだ。
アクセルを強めにアクセルを踏み込み、急加速させても、もたつきがなくスムーズに加速することは体感できるが、この「パワー・パルス」が働いているということはドライバーにはまったくわからない。低速からの加速レスポンスを高める黒子的な存在なのだ。
動力性能は、8速ATと低速トルクの強力なディーゼルのため、この大きく重い車体をストレスなく走らせることができる。またディーゼルながら、滑らかで室内の静粛性は高いので長距離のドライブでもストレスがなく、しかも燃費的に経済的なのだから、XC90のラインアップの中ではベストチョイスのモデルといえるだろう。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>