2014年12月5日、ボルボはスウェーデンのボルボ・セーフティセンターで、新型XC90に標準装備される「ランオフ・ロード・プロテクション」(道路逸脱事故発生時における乗員保護)が作動する様子を初公開した。
ドライバーの不注意、過労、悪天候など様々な要因による道路逸脱事故は少なくない。日本のように路側部にガードレールが多用される国は珍しく、多くの国の道路では、道路逸脱がそのまま転落事故となる。アメリカでの交通事故死の半数はこうした道路逸脱事故によるもので、スウェーデンでの乗用車の交通事故でも重傷、死亡事故の1/3が単独での道路逸脱事故に起因しているというデータがある。この道路逸脱事故は、乗員の身体にランダムに力がかかる複雑な形態の事故のため、ドライバーの身体をしっかりと固定することが重要なのだ。
こうした道路逸脱事故に対応したシステムを開発するためには、様々なアプローチが試されていた。安全技術のスペシャリストであるアンドレス・アクセルソンは、思いも寄らない状況でそのシステムの素晴らしいアイデアを発見したのである。2007年に双子の娘を連れて遊園地へ行った彼は、遊園地にあった乗り物の「ロボコースター」からヒントを得て、道路からの逸脱事故時における乗員保護を追求するための効率的な試験方法のアイデアを思い付いた。
ロボコースターに乗った人達が様々な方向に振り回されるのを見て、その急激でランダムな動きが、道路逸脱事故の時の乗員にかかる衝撃に似ていることに気付いたのだ。彼のチームは、道路逸脱事故の実際のデータに基づき、各種の事故形態を分析し、側溝、空中、非舗装路面という3種類のテストが必要だと考えた。実車によるテストの前に、産業用ロボットを使用して道路逸脱事故での乗員の動きのパターンと入力を再現できると考えたのだ。
産業用多軸ロボットのアームの先にドライバーシートと拘束ベルトを装備し、ダミー人形を着座させて道路逸脱事故の再現を行ない、このような状態で有効な新たなシートベルトやシートの開発を行なった。そして事故の瞬間に電動でシートベルトを巻き上げるシステムと、シートのサイドサポートや衝撃吸収構造を生み出すことができたのだ。
なお、現在のところ各国の安全基準には、道路逸脱事故への対応システムを評価する基準やテスト法は存在していない。しかしボルボはこうした現状にもかかわらず独自にテスト法や効果的な対策を開発している。近年の車体構造の改良や安全システムの進化により安全性は確実に向上しているが、一方で事故における胸椎や腰椎を損傷するリスクはそれほど低減していないこと、これらは多重衝突事故や道路逸脱事故で発生しやすいことからボルボは新たな安全性向上対策としてフォーカスを当てたのだ。
ボルボは広範な事故調査のデータにより、脊椎に衝撃が伝わる時の乗員の姿勢と屈曲が重要で、衝撃が入力した時の乗車姿勢を適正化するためのシステムが開発された。新型XC90から採用されるランオフ・ロード・プロテクションは、シートベルトによる乗員の固定と、衝撃緩和により身体に加わる縦方向の衝撃を1/3にまで低減し、脊椎を保護するというものだ。
道路逸脱を検知するセンサーにより前部シートベルトは0.1秒で100mm巻き上げられ、身体のずれを防ぎしっかり拘束する。またシートとシートフレームの間にエネルギー吸収機構を設け、クルマが地面に叩き付けられた時の衝撃を緩和するシステムとしている。
もちろん、こうしたシステムが作動する前に、道路逸脱事故を起こさないためのドライバー支援システムも採用されている。レーンキーピングエイドとドライバーアラートコントロールを備え、ドライバーの疲労を警告し、車線を逸脱するようなケースではステアリングが自動操作され進路を修正するようになっていることはいうまでもない。