2013年初頭に発売されたボルボV40が2回目のモデルイヤーを迎え、2015年型として登場した。そのトップバッターとしてスポーツモデルのV40 T5 R-DESIGNが発売されたが、中身は想像した以上に進化していた。
ボルボのエントリーモデルであり、スポーツ・プレミアム・コンパクトと位置付けられるV40のラインアップは、ベースモデル、スポーツ・モデルのT5 R-DESIGN、クロスオーバーのT5 クロスカントリーという3車種だが、T5モデルはこれまでは2.0L・5気筒ターボ/6速ATを搭載していた。
しかし、2015年モデルのT5 R-DESIGNはエンジンとトランスミッションを一新した。ボルボ最新のDrive-Eエンジンを搭載したのだ。Drive-EエンジンはこれまでにXC60、S60/V60に搭載されており、V40が3番目の採用となる。Drive-Eは、新世代のモジュラー化&ダウンサイジングコンセプトに基づく2.0L・4気筒直噴ターボで、ハイパワーと低燃費を両立させたエンジンだ。またこのDrive-Eエンジンとの組み合わせには、アイシン製の8速ATを採用する。走り、燃費ともにパフォーマンスを大幅に高めているのだ。
Drive-Eエンジン、正式にはB420型は、200バールの燃焼室センター直噴、鋼板製排気マニホールド&ターボハウシング、電動ウォーターポンプ、バランスシャフト+振動ダンパー付きクランクプーリーなど最新技術を駆使しており、従来の5気筒ターボ(213ps)より30ps以上アップの245ps、トルクも大幅に向上させ350Nmとしている。つまりパワーは15%アップ、トルクは17%アップ、一方で燃費は14%改善され、JC08モード燃費は15.1km/Lとなっている。
トランスミッションは従来の6速ATから8速ATに進化し、スポーツモード付き、ロックアップ率の向上、ECO+モードではコースティングの採用、よりきめ細かく走行条件に適合させたアイドリングストップ制御などを盛り込み、大幅な進化を感じさせる。
V40 T5 R-DESIGNは、エクステリアも専用で、シルクメタルのフロントグリル、リヤはディフューザーと90mm径のテールパイプの組み合わせ、専用デザインの18インチホイールなど、控えめながらR-DESIGNの個性を主張している。
インテリアは高級なナッパレザー張りの本革シートが標準装備される。また専用のステッチ付きスポーツ・ステアリング、専用デザインのセンタースタックを装備。一般的なスポーツイメージ一辺倒ではなく、上質なシックさ、エレガントさを混じさせるのがスカンジナビアンデザインの、R-DESIGNの特徴である。
インフォテイメントシステムも大幅に進化し、ボルボが新開発したプラットフォーム上に三菱電機製のナビゲーションがインストールされている。最近の高級車のインフォテイメントの操作はタッチスクリーン、コマンドボタン&手書き文字入力が流行しているが、ボルボはそうした手法ではなく音声コントロールを重視している。このT5 R-DESIGNのナビの操作も、音声とステアリングホイール上のジョグダイヤルだけで完了できるように進化しているのだ。
T5 R-DESIGNのシャシーはスポーツ・サスペンションが装備される。正確に言えばこれはスーパースポーツ・サスペンションで、V40のベースモデルがダイナミック(スポーツ)サスペンション、T5クロスカントリーが標準サスペンションという相違がある。普通のクルマの基準に合わせれば、T5 R-DESIGNの足回りはかなりスポーツ度の高いサスペンションであり、ベースのダイナミック・サスペンションに比べてスプリングレートはフロントで10%、リヤで7%のアップ。もちろんダンパーも強化され、リヤはモノチューブ式+大径スタビライザーを採用している。
走り始めてまず気が付くのがエンジンは低速から強力なトルクを発生し、きわめて力強いことと、静かで滑らかに吹け上がる気持ちよいフィーリングだ。この新型エンジンの開発時には、BMWの2.0L直噴ターボエンジンが性能ターゲットとされ、結果的に出力、トルクともにBMW 328iのエンジンと同じだ。しかし、フィーリングとしてはこのDrive-Eの方が吹け上がりがより滑らかで、現時点で最も洗練された4気筒ターボエンジンといえる。
なお車両重量は、BMW328iの1560kgに対して、このV40 T5 R-DESIGNは1510kgと、大人1人分ほど軽い。そのために加速フィーリングは痛快そのものだ。新採用された8速ATはシームレスで、マニュアルシフトを選んでも変速ショックを感じられない洗練されたフィーリングに仕上がっている。従来型の6速ATは変速時に短時間ながらスリップ感がある旧世代のユニットという印象があったが、この8速ATはスリップ感がなく、自在に滑らかに変速し、ATの進化の著しい進化を感じさせてくれる。
T5 R-DESIGNのハンドリングの気持ちよさ、ドライビングプレジャーはセグメントの中で間違いなくトップレンジにある。直進時の抜群の安定感、ステアリングの落ち着き、そして微小に操舵した時には穏やかに反応し、ステアリングを切り込むほど鋭い切れ味に、正確に路面のインフォメーションを伝える…といったステアリングとクルマの反応が見事に調和しているのだ。このあたりはクルマの味付けのツボを知り尽くしたプロフェッショナルなエンジニアの手によって、繊細にチューニングされていることが感じられる。
サスペンションは、R-DESIGN専用のスポーツ・サスペンションだが、この2015年モデルは一段と洗練されていることに気が付いた。路面の継ぎ目でのショックの入力が優しくなり従来よりしなやかさがあるのだ。もちろん、車体の大きな動きは一発で収まるオーバーダンピング的なスポーツ・サスペンション特有の減衰感はそのままで、これもスポーツモデルらしい。市街地で日常的に乗るとごつごつ感がなく、車速が上がるほどダイレクト感のある締まった乗り心地となるというフィーリングなのだ。さらに、走行中にボディ全体から伝わるしっかりとした剛性感も、数あるプレミアム・コンパクトセグメントの中でも傑出している。
V40 T5 R-DESIGNは、一目見ただけでは普通のV40に見え、極端なアグレッシブさはないものの、スポーティな走りの質の高さ目を見張るものがある。またその一方でトップレベルのドライバー支援システムをフル装備し、日常のシーンでリラックスしたドライビングに身を委ねることができる、もう一つの面も備えている。
またインテリアの質感のよさ、細部まで作り込まれた心地よさもこのクルマの持ち味だろう。ドイツ車とは異なるデザインテイスト、トリムの触感、がっちりとしていながら身体に馴染む本革シートなども、もう一つの魅力だと思う。
V40のT5 R-DESIGN以外の2015年モデルもまもなく導入されるはずで、こちらの進化ぶりも大いに気になるところだ。