ボルボ デザイナーが最新のボルボ・デザインの哲学と戦略を語る

ボルボ上海デザインセンター長のジョナサン・ディズリー氏

2017年2月23日、ボルボの最新のデザインを手がけてきたボルボカー・グループのデザイン部門バイスプレジデントであり、現在は上海デザインセンター長のジョナサン・ディズリー氏が来日し、メディ向けに最新のボルボ、XC90、S90、V90、V90クロスカントリーに共通するデザイン、ブランド哲学と戦略を語った。

■ブランドの考察
周知のように現在のボルボのブランドの再定義とデザイン戦略は、2012年にトーマス・インゲンラートがボルボグループ・デザイン担当副社長に就任したことに始まる。元フォルクスワーゲン・グループのデザインを担当していたインゲンラート氏のもとに、多国籍なデザイナーが集結し、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート出身のジョナサン・ディズリー氏もその主要なスタッフとなっている。

ボルボ・グループのデザイン総責任者のトーマス・インゲンラート副社長

デザイン・チームがまず取り組んだのは、スカンジナビア・デザインの評価であった。そして、ボルボ・プロミスとして、他のプレミアムカー・メーカーとは違う存在であることを証明することが掲げられた。ボルボはプレミアムを目指すために、他社と同じような方向ではなく、独自の存在感を訴求することを決めたのだ。

元はベントレーのインテリア担当で、現在ボルボのインテリア・デザイン部門の責任者、ロビン・ペイジ氏

次は母国、スカンジナビア・デザインとは何かを問いかけることだった。スカンジナビア・デザインの独自性や特徴を考察したという。ドイツやイタリアなどの競合他社とどのような点が異なるのか、その違いに着目した上で、スウェーデンならでは、ボルボならではの存在を考えた。

スウェーデン、スカンジナビは非常にハイテクであり先進性のある国民性を備え、そうした特徴やユーザー層の属性を「スカンジナビアのオーソリティ」、「スカンジナビアのアクティビティ」、「スカンジナビアのクリエイティビティ」という3要素に絞り込んだ。

ボルボ車のオーナーには医師や弁護士など教養を備え、高い地位にある人が多く、そうした顧客層はデザインに対する関心が高いという。またボルボ車オーナーは活動的で、郊外やアウトドアでの生活を楽しむといったアクティビティや芸術などに関心を持って生活を楽しむクリエイティビティ指向の備えていると考えたのだ。

■エクステリア・デザインの具現化
こうした3要素を具現化したのが、2013年から順に発表された、コンセプト・クーペ、コンセプト・エステート、コンセプトXCクーペという一連のコンセプトカーであった。

コンセプト・クーペ

これらのコンセプトカーから、S90、V90、V90クロスカントリーが生まれたが、これらの市販モデルは驚くほどコンセプトカーのデザイン要素が忠実に再現されていることをディズリー氏は強調した。

コンセプト・エステート
コンセプトXCクーペ

また新世代の90シリーズは、ボルボのトップレンジに位置するため、エレガントさも追求されている。その原点は、新世代プラットフォーム「SPA」の採用で、その結果フロント・アクスルとトーボードの距離を十分に取ることができたのだ。これは横置きエンジン/横置きトランスミッションのクルマとして異例のことで、この距離を上級FR車なみに確保することで、エレガントな黄金比を持つボディフォルムが実現している。

ロールス・ロイスの前車軸とトーボードの距離
S90の前車軸とトーボードの距離

美しいフォルムを目指したデザインはハイテクの採用によって実現した要素も少なくない。例えば、北欧神話の雷神のハンマーの形をモチーフにしたヘッドライトは、最新のLEDライト、クリアランス・ランプ、ウインカーとして機能するLEDの光導管などを組み合わせ、遠くからでも明瞭に視認できる構造、形状に仕上げているのだ。

ヘッドライトの構成

そしてクルマにとっても重要なフロントマスクは、エレガントさと威厳を両立させ、その表情は王者の雰囲気を表現することを目指し、他車のようにヘッドライを側面に回り込む形にはせず、きちんと正面に正対させた配置にしている。

ライオンとビーバーの目の配置とヘッドライトのレイアウト

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フロントグリルは伝説のボルボP1800のディテールを再現している。P1800は、美しさの象徴であり、エキサイトさや、時代を超えるエレガンスを再現している。同じくボルボのアイアンマーク内のロゴと斜線の位置も見直し、初期のボルボのマークと共通するシンプルな形に変更されているが、従来のマークと違和感のないことは巧みな処理と言える。

ボルボP1800(1960年~1974年)
P1800と新型のグリルの対比

サイドビューは、高級ヨットをイメージし、フロントから後方にかけて直線のラインを刻み、クルマの長さ感を強調し、なめらかなカーブのルーフラインとの組み合わせにより、優雅で端正なシルエットを作り出している。もちろんフェンダーからドアパネルを通る一直線のエッジの効いたラインは、高いプレス技術と工場での精緻な組み立て精度に寄るところも大きい。

■ディテールにこだわったインテリア
インテリアは徹底して素材にこだわっている。木目パネルはウォールナット材だが、北欧の高級家具のように木目を生かし、表面にクリア塗装をしない仕上げに。もちろん木目をきちんと表現するためには、木目のラインの統一が必要で、ロールスロイス、ベントレーなど超高級車と同等レベルの手加工による仕上げとなっている。

ウォールナット本杢と左右に貫くサテンクロームの金属枠一体構造

インスツルメントパネルの左右を貫くサテン仕上げのクロームモールは、木目パネルなどを支える一体の構造材で、この独特の構造はiPhoneのアルミ骨格フレームに着想を得ているのだ。

エアコン吹き出し口の調整ダイヤル

クリスタルカットされたダイヤルやエアコンルーバー調整ダイヤルは、切削加工の美しさにこだわった結果、実現したという。

センターコンソールの9インチ縦型ディスプレイもデザイン、構造はiPadに触発されて生まれたもので、多数のスイッチ、ボタン類をなくし、タッチパネルのシンプルなフリック操作で各種の操作ができるようにしている。

最高級レザーと精緻な縫製

本革シートは、なめし革の素材にこだわり、蚊に刺されることのない標高の高い地域の牛の皮革を使用。その革質はエルメスのバッグと同じだという。また革シートのパンチング穴も一般的な丸ではなく通気性能に優れる四角穴に。最高級の縫製により見た目はもちろん、手触り、着座した時のフィット感を兼ね備えたシートとなっている。

ジョナサン・ディズリー氏は、現在のボルボのデザインは、エクステリアではプロポーションに、インテリアではディテールにこだわり、デザイン・トップのインゲンラート氏も徹底した精緻さを求め妥協を許さないと語っている。こうしたボルボのでデザインは、今後、より小型のプラットフォーム「CMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)」を採用するクルマにも次々と展開されることになっている。

 

ボルボS90/V90試乗レポート
ボルボS90/V90解説
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