ボルボ・カーズ本社は2022年5月31日、気候変動対策のリーダーとしての立場を明確にするため、化石燃料を使用しない鉄鋼の需要を高め、世界の鉄鋼業界におけるカーボンニュートラルへの移行を加速させることを目的とした「スチール・ゼロ イニシアチブ」に加盟した最初の自動車メーカーになったと発表した。
ボルボ・カーズはスチール・ゼロに署名することで、2030年までにCO2ベースの厳しい鉄鋼材調達要件を満たすことを明確にした。これにより2050年までに調達するすべての鉄鋼材をネット・ゼロ・スチールにする必要があり、これは2040年までにカーボンニュートラルな企業になるというボルボ・カーズの目標とも一致しているというわけだ。
鉄鋼生産は自動車産業の主要なCO2排出源となっており、2021年のボルボの新車の生産関連排出量の平均は33%に上る。世界的に見ると、鉄鋼生産は全温室効果ガス排出量の約7%を占めており、鉄鋼の生産、製鉄で大量のCO2を発生させていることがわかる。
ボルボ・カーズの最高調達責任者であるカースティン・エノッソン氏は、「鉄鋼製造への持続可能なアプローチは、環境にとって良いニュースであるだけでなく、将来の気候リスクや規制への抵触を制限する面において良い事業でもあります。私たちは、スチール・ゼロ・イニシアチブに参加し、鉄鋼業界を変革するという高い目標を支持できることを嬉しく思います。責任を持って調達された低炭素鋼やゼロカーボン鋼に対する我々の需要を示すことで、我々のセクターへの供給の増加を促進できます」と述べている。
クライメート・グループの産業部門責任者であるイェン・カーソン氏は、「ボルボ・カーズのスチール・ゼロへの参加は、低排出ガスとネット・ゼロ・スチールに対する世界的な需要シグナルに重要な変化をもたらし、自動車産業にとって極めて重要な節目となります。この取り組みは鉄鋼のネット・ゼロ移行を推進する中心的な役割を担っており、脱炭素の鉄鋼市場の創出を国際的に支援しています。これにより、この取り組みによりは自らのネット・ゼロ目標を達成し、気候変動問題に本当に合致した製品を提供することができるのです」と述べている。
化石燃料を使用しない鋼材開発に向けて
スチール・ゼロは、鉄鋼業界全体の規格・認証機関である「レスポンシブルスチール」と提携して気候変動対策チームが立ち上げたものだ。ボルボ・カーズは、「レスポンシブルスチール」を通じて、鉄鋼サプライチェーンと関連するサステナビリティ認証に関する信頼性の高い第三者認証および監査情報を入手し、責任ある鉄鋼調達の確保に役立てることができるようになっている。
さらに「レスポンシブルスチール」は、CO2削減だけでなく、労働や人権、地域社会との関わり、水の使用、生物多様性への影響など、鉄鋼サプライチェーンにおけるその他の重要な問題にも焦点を当てている。
なおスチール・ゼロは、2050年までに100%化石燃料を使用しない鉄鋼を調達するという長期的な目標に加えて、署名企業は、2030年までに鉄鋼調達量の50%が所定の基準の少なくとも1つを満たすことが必要となる。
今回の「レスポンシブルスチール」への署名は、自動車製造における最も大きなCO2排出源に取り組むボルボ・カーズによる最新の取り組みの一つだが、実は昨年、スウェーデンの鉄鋼メーカーSSABと協力し、SSABのハイブリット・イニシアチブを通じて、自動車産業で使用する化石燃料を使用しない高品質鋼の開発を共同で探求することを発表している。
ボルボ・カーズは、SSABおよびハイブリットと協力する最初の自動車メーカーとなり、これにより化石燃料を使用しない鋼材開発における野心的かつ先進的なプロジェクトが動き出した。ハイブリットは、従来は鉄鉱石を原料とする製鉄に必要だった原料炭を、化石燃料を使わない電気と水素で代替することを目的としている。その結果、二酸化炭素排出量を実質的にゼロにする、世界初の化石燃料を使用しない製鉄技術となることが期待されているのだ。
ボルボのカーボンニュートラル目標
ボルボ・カーズは、2040年までにカーボンニュートラルな社会を実現するという目標を掲げており、これは自動車業界で最も野心的な気候変動対策計画となっている。ボルボ・カーズは2030年までに完全な電気自動車メーカーになることを目指しており、今後数年間で新しい電気自動車シリーズを展開する計画であることは周知だが、電動化計画は、2018年から2025年の間に、自動車1台あたりのライフサイクル炭素排出量を40%削減するという目標の一部で、さらに2025年までにサプライチェーンにおける炭素排出量を25%削減するという目標も含まれている。
ボルボの事業活動では、2025年までに気候変動に左右されない製造体制を構築することを目指しており、現在、すでにボルボ・カーズのヨーロッパの全工場は100%クリーンな電力で稼働。スウェーデンのトースランダ工場は完全にカーボンニュートラルな工場となっている。また、中国の成都と大慶の工場では、カーボンニュートラルな電力を使用している。
そしてボルボ・カーズは昨年、事業全体から排出される炭素1トンにつき1000SEK(スウェーデンクローネ。日本円:約1万3080円)の社内の内部炭素価格を導入した。こうした制度を全事業に導入した自動車メーカーとしては初の試みだ。その目的は、将来的に炭素価格(カーボン・プライシング:課税や炭素価格取引制度)を導入する政府が増えると予想されるため、組織の将来性を高め、規制の先手を打つためとしている。
この制度では、すべての自動車プロジェクトが持続可能性のチェックを受け、自動車のライフサイクルを通じて予想される炭素排出量1トンにつきCO2コストが課せられるというものだ。その目的は、厳しい炭素価格制度の下でも各車種が利益を上げられることを確認し、すべてのプロジェクトと調達の決定を、最も持続可能な選択肢へと導くことにあるとされている。