2013年2月に国内発売となった新型ボルボV40。このクルマの前に立つと、ボルボというブランドが大きく変革していることを実感させられる。もともとボルボのクルマ造りでは、デザインと安全性がクルマの開発にあたっての2本の柱であった。そのデザイン哲学は、機能美と北欧のデザインセンスを融合させたもの。一方の安全性は、どの自動車メーカーより真正面から取り組んだ歴史的な実績がある。そしてピーター・ホルバリー氏がボルボ社のデザインの指揮を執り、最終的にはデザイン担当副社長になる過程で、デザイン、ブランド戦略は新たな方向に舵を切った。それはより存在感を強めたダイナミックなデザイン、スポーツ性に満ちた運動性能を備えたプレミアムブランドを確立することが目標となっている。
現在のボルボのクルマ造りの哲学には「人間中心(human-centric)」という基本コンセプトがあり、その下で開発が行われている。新型V40は、より新しいデザインの実現、ダイナミック感あふれる走り、傑出した先進の安全性とパッケージングの両立などが開発テーマだ。V40はボルボのラインアップの中で最も小さなクルマとなるが、存在感のある「プレミアム・コンパクト・ハッチバック」という位置付け。そしてマーケットとしてはCセグメントに投入されるため「ベスト・イン・クラス(クラストップの性能)」使命も課せられている。これはプレミアムCセグメントの中でトップであることを意味し、Cセグメント全体の中にあっては圧倒的な高性能、付加価値を与えられている。
V40のデザインは、フロントはワイド&ロー、リヤは強い踏ん張り感のあるたくましいロワボディと大きく絞り込んだアッパーボディの組み合わせにより、スポーツクーペのような存在感を見せつけている。実利的な2ボックス・ハッチバック・デザインになりがちなCセグメントの中で異彩を放つ。シンプルなライン構成でありながら、ダイナミックで強い存在感を目指し、ひと目見ただけでV40というデザインでありながら、細部のディテールはボルボの伝統とDNAを受け継いでいるという巧みなエクステリアだ。ちなみにデザインの開発時にインスパイアされたのは、かつてのボルボP1800ES(1971年=カロッツェリア・ギアのデザイン)で、そのボディのプレスラインが継承されている。
プラットフォームはフォードC1プラットフォームを受け継いでいるが、ボディの造りはボルボならではの強固なもので、それはドアの開閉音だけでも実感することができる。インテリアは、フロント席の左右の間隔が広く、リヤ席はやや左右方向に寄せられているものの、広さ感は十分にある。ドライバー中心にデザインされたダッシュボードやメーターの配置、シートの着座位置などのレイアウトは、アップライトすぎず、低すぎず、それでいてドライビングに集中しやすい。またシートの質感の高さと、体圧分布が優れ身体にフィットし、しっかりと支えるという機能性は文句なしだ。長時間乗っていても疲れないシートの典型だろう。
シート、インスツルメントパネル、ドア内側などのデザイン、質感はラテンのクルマともドイツ車とも異なるテイストで、まさに北欧風に洗練されたラグジュアリーさと言ってよい雰囲気だ。過剰なデザインではなく、機能性やシンプルさを重視しており、長く使っても飽きがこないしっとりした感覚と言ってよいかもしれない。ドアポケットや大きなセンターコンソール(センタースタックと呼ぶ)の裏側もよく考えられた収納スペースとして機能するのも特筆できる。エアコンは駐車後に乗り込む場合、ドアロックを解除すると自動換気運転をするシステムなどもクラスの常識を上回る装備だ。
プレミアム・コンパクト・ハッチバックというからにはインテリアの質感だけではなく、リヤのラゲッジスペースの質感も気になるところだが、ラゲッジスペースの内装の仕上げ、質感、折り畳んで多用な使い方のできるフロアボードの使い勝手などは確かにクラス随一といえる。
一方、モダンなデザインのメーターパネルはフル液晶式で、ドライバーは気分に合わせて、エレガンス(琥珀色)、エコ(ブルー)、パフォーマンス(レッド)とスイッチで切り替えられれる。単に発光色が変化するだけではなくメーターのデザインも変化する。また、室内照明(インテリア・シアターライト)は7色、または自動モードが選択できるシステムやイルミネーション付きギヤシフトノブも標準装備される。
電動パワーステアリングの操舵力も好みの設定が可能だ。センターディスプレィの車両設定メニューで、「ハイ」、「ミディアム」、「ロー」を選択できる。ただし、「ハイ」はきわめて重めの設定になるので通常の運転には適さず、女性には厳しいだろう。実用上はやや重めの「ミディアム」か、軽めの「ロー」にするのが妥当だ。
搭載されるエンジンは通称「エコブースト」と呼ばれる1.6LのGTDIエンジンで直噴ターボを備えたダウンサイジング・コンセプトのエンジンであるが、パワーは180ps、最大トルクは240Nmで1600rpmから5000rpmの間で発揮され、これもクラスの平均を上回っている。もちろんスタート&ストップ、減速エネルギー回生システムも備えている。トランスミッションはスポーツモード付き「ギヤトロニック」(6速湿式DCT)となっている。
このエンジンは振動がよく抑えられて滑らかで、低速からのトルク感の大きさは印象的だ。ゆっくり流れに乗って走る時は2000pm以下で十分だ。またアクセルを踏み込むと瞬時に力強いトルクを感じることができる。試乗した日は小雨が降っていたが、発進時にアクセルを1/2ほど踏み込むとすぐにトラクションコントロールが効くほどの力強さがある。
DCTのつながり、変速はスムーズかつクイックで気持ちが良い。微低速での滑らかさ、アクセルを戻した直後の最加速などで、ためらいも振動もなく熟成されたシステムといえる。なおJC08モード燃費は16.2km/Lでボルボ車でベストだが、実用燃費は低速トルクを生かして走ればこれを上回ることも難しくないだろう。
高速巡航では100km/hで2000rpm程度の回転で、室内は静かで快適だ。
スポーティに走る場合はSモードにしてマニュアルシフトも楽しめるが、Dレンジでもドライバーの意志が正確にギヤシフトに反映されるので、Dレンジのままでもスポーツ走行で違和感はない。またスポーツ走行でのブレーキの効き味もマニアックで、踏力に応じたプログレッシブな減速感が得られ、シャシーのアンチダイブ特性も優れているのでフラットに沈み込みながら安定感のあるブレーキだ。
シャシーの運動性能の高さとしっとりとした質感も特筆できる。直進時にはステアリングの締まり、落ち着きがあり、高速直進安定性は見事だ。またステアリングをわずかに切るという操舵初期の応答は穏やかで、さらに切り込むとダイレクトにボディが反応する。またタイヤからステアリングに伝わってくる、ほどよいインフォメーションも心地よい。こうした電動パワーステアリングらしからぬ操舵の質感の高さは、TRW製のベルト駆動/ボール循環式の電気・機械式パワーステアリングと、シャシー剛性の高さの相乗効果といえる。ボルボのいうクラス最高のダイナミックスの多くはこの気持ちよく、エキサイティングなステアリング・フィーリングにある。
サスペンションのセッティングはボルボ社では3種類持っているが、V40 は「ダイナミック」、つまりスポーティな仕様が選ばれており、クルマのコンセプトやエンジンの動力性能のバランスを考えるとジャストフィットしている。乗り味は締まったダンピング感の高いフラット・フィーリングだ。適度なストローク感とダンピング感、乗り心地がうまくバランスしており、長時間のドライビングでも疲れにくいと感じた。そしてクルマから語りかけるインフォメーションをドライバーが楽しむことができ、飽きさせないのだ。
実はV40のサスペンションは、特別に際立ったシステムや機構を持っているわけではないが、スポーティさとしっとりした質感を両立させているのはシャシー、ボディ全体の剛性の高さから来るものだろう。また単にスポーティ・フィーリングというだけではなく、ESP一体式のトルクベクタリング、LSD機能、雪道などでの過大なエンジンブレーキを抑制するエンジン・ドラッグコントロールなどCセグメントの常識を破るシャシーコントロール・デバイスを備えており、ドライビングの心地よさと安定感、安心感は際立っている。
V40の存在感を高めるもう一つの要素が安全システム、ドライバー支援システムの充実にある。50km/hまでカバーする対物衝突回避システムのシティセーフティが標準装備され、プラス20万円のセーフティパッケージを選択すると、上級モデルを凌駕するフル装備となる。
その特徴は、人間や自転車を判別できる高精度カメラと4個のレーダーを組み合わせていることで、単に衝突を回避できる自動ブレーキシステムというより、通常は全車速追従型クルーズコントロールや、バック時の後方左右の車両検知、速度標識の自動認識、後方から接近する車両の警告などなど傑出したドライバー支援システムとしてのメリットが大きい。さらにプラス6万円で、世界初の歩行者エアバッグも装備できる。
最も使用頻度が高いクルーズコントロール(ACC)は作動が自然で、すぐに慣れることができるし、速度標識の読み取り(RSI)警告も予想以上に有効だ。
ボルボは2020年までに交通事故リスクをゼロにするという壮大なプロジェクトを展開しているが、それと同時にACCを使用してみて、ドライバーの心理にうまく合致したドライバー支援システムの熟成という点でも傑出してると感じた。
ボルボV40は、プレミアムCセグメントに割って入ることを目指しているが、価格は「V40 T4」が269万円、「V40 T4 SE」が309万円とCセグメント全体を見回した戦略的な価格付けを行っている。この価格の標準装備を考えてもCセグメントで突出した存在だが、V40の存在価値をより高めるためにはドライバー支援システムがすべてパッケージ化されたセーフティパッケージ(20万円)は選びたい。このオプションを加えた価格/装備は、同セグメントの他車を圧倒するのは言うまでもない。
またV40は走りの質感のレベルの高さ、爽快なスポーツ・フィーリングや運動性能もこのセグメントの中で大きなインパクトを与えることになると思う。「ベスト・イン・クラス」という開発のキーワードに偽りはなく、何よりもクルマ好きといわれる人々に強い印象を与える力を持っていることが実感でき、もう一つの選択肢というよりCセグメントのベンチマークになったと考えて良いと思う。