【ボルボ】V60 T4 R-DESIGN試乗記 プレミアム・スポーツワゴンに見たボルボの底力

マニアック評価vol111

V60 T4 R-DESIGN試乗記の画像

近年のボルボは、一段とプレミアム指向のポリシーを明確にし、メルセデス、BMW、アウディというドイツ車に対して正面から質的な勝負を挑んでいる。現在のボルボの柱となっているのが伝統をアイコンとして生かしつつ現代化させたピーター・ホールバリーによるダイナミックなデザイン、ドライビングプレジャーを重視したスポーティな走り、スカンジナビアのセンスに満ちた高い質感、そして伝統ともいえる高い安全性と燃費の向上だろう。

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ボルボのラインアップの中でも、S60/V60/XC60は最新のモデルラインだけに、より資質の高さや特徴が実感しやすい。このラインアップはアウディA4、メルセデスCクラス、BMW 3シリーズのコンペティターとなるが、今回発売されるV60/S60 T4 R-DESIGNは特別仕様車扱いながらより高い競争力が与えられている。

特別仕様車のT4 R-DESIGNは、3月にS60に設定され100台限定で発売されたが、すぐに完売したため、5月15日から新たにV60を700台、S600を300台を追加発売することになった。

もともとV60/S60シリーズは、ワゴンのV60が75%、セダンのS60が25%という販売比率で、ボルボ・ユーザーはワゴン比率が他社よりもはるかに高い特徴があるため、今回のV60 T4 R-DESIGNが本命登場ともいえる。

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R-DESIGNもともとは3.0LターボのS60/V60・T6に設定されているスポーツグレードなのだが、今回は1.6L直噴ターボのT4エンジンとRefinement Design(洗練されたデザイン)の要素を組み合わせてテーラーメイドされたスポーツモデルである。もともとV60はスポーツワゴン、S60はスポーツセダンというコンセプトで開発されているが、「R-DESIGN」はよりダイナミックな性能と装備を特化させたダイナミック性能重視のモデルという位置付けになる。

エクステリアでは、セダン、ワゴンともに専用のスポーティデザイン・バンパー、グリルを装備し、デュアル・エキゾーストパイプ、8×18サイズの専用ホイールと245/40R18タイヤを備える。動的なフォルムをさらにスポーティに特徴付け、並みのステーションワゴンとは一線を画するダイナミックな印象になっている。

インテリアは、本革スポーツシート、アルミ材を使用したメーターパネルやセンターコンソールトリム、ペダルなど。スポーティでしかも手触りや視覚的に上質さを感じることができる。

シャシーはシリーズで最もダイナミック性能を重視した専用のスポーツ・サスペンションを備え、ダンパー/スプリング、スタビライザー ブッシュ類が締め上げられ、リヤにはモノチューブ・ダンパーも採用するなど、かなり本格的だ。

V60 T4 R-DESIGN試乗記の画像V60 T4 R-DESIGN試乗記の画像

V60 、S60に搭載されるT4エンジン、正式にはB4164T型、また別称では「1.6 GTDi T4」とも呼ばれるが、1.6L(79.0×81.4mm)の排気量を持ち、直噴ターボシステム、ツインVVTを採用する。元を正せばフォード・エコブースト・シリーズの1機種で、ドライビングプレジャーとパワー、燃費を満足させるダウンサイジング・コンセプトで開発されている。そのためパワーは180ps、最大トルクは240Nmで1600rpm〜5000rpmのいうワイドレンジで発生する。またフル加速などではオーバーブースト機能により270Nmまでトルクがアップするようになっている。100気圧の燃圧をかける直噴システムで、6穴インジェクターは燃焼室中央部に最適配置されているのも特徴だ。

このエンジンは1600rpmという低回転から最大トルクを発生するため、6速パワーシフト(ゲトラグ、三菱、フォードで共同開発したDCT)でより高いギヤで走行できることや、ブレーキエネルギー回生などにより、実用燃費も高めることができることはいうまでもない。

実際のエンジン・フィールはとてもトルクフルで、一般道路で走行は2000rpm以下で十分交通の流れに乗ることができ、2000rpm程度まで踏み込むことで満足すべき加速が得られる。また高速道路でも2000rpmで100km/h巡航ができる。このため実用燃費で12.8km/Lというモード燃費を超えるのは容易だろう。

一方、アクセルペダルを大きく踏み込んだ時の加速力は期待以上で、加速の実力は200ps級のクルマなみだ。これにはオーバーブースと機能も寄与しているはずだが、動力性能としての気持ちよさは十分といえる。

もうひとつの美点は、回転がアップする時に振動を感じさせず滑らかで、心地よい加速の音質が体感でき、質感の高いエンジンフィーリングだと感じられる点だ。サウンドや回転フィーリングまでこめ細かくチューニングされていることを実感できるのだ。湿式6速DCTのパワーシフトも瞬時に変速して小気味よく、発進や再加速といったシーンでもつながりは滑らかだった。

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T4 R-DESIGNのハイライトはやはりハンドリング、ダイナミクスがもたらすドライビングプレジャーの質の高さだ。

V60はフォードECUDプラットフォームを用いているが、ボルボのシャシーチューニングは当初からヨーロッパ向けのダイナミック仕様と、その他の地域向けのツーリング仕様の2種類があり、その違いは前後のダンパーとサブフレームブッシュだ。ヨーロッパ仕様は当然ながら、よりクイック・レスポンスで上級ユーザーを満足させるチューニングになっている。これ以外に連続可変ダンパーを装備する「Four-C」も設定されている。このことからもわかるように、S60と同様にV60はハンドリングに関してマニアックともいえるほどのこだわりがあるのだ。

またステアリングギヤ比は旧モデルより10%クイックにされ、ステアリングコラムの薄肉化と合わせてねじり剛性を2倍にするなど、ステアリングはよりシャープなレスポンス、よりダイレクトで正確なフィーリングが得られるようにしている。

このような本質的なスポーティさを基調としながら、T4 R-DESIGNはさらにスプリングレート、スタビライザー径、マウント類を固めているわけだから、その運動性能のレベルは相当に尖っているといえる。

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実際にステアリング握ってみると、走り出してすぐにステアリングの手応えの気持ちよさが伝わってくる。ステアリングの中立付近はクリアで濁りがなく、微小な舵角に対しては軽く穏やかに反応するが、さらに切り込めばダイレクトにボディが反応する。言ってみれば道路上で1cm走行ラインをずらすことが容易にできる感じで、まさに意のままに反応する感じだ。

ダイレクト感やクイックさがありながらしっとりとした味があり、これぞ本物のスポーツモデルのフィーリングといえる。だからワインディングであろうが市街地であろうが、走るステージを選ばす運転する楽しさ、気持ちよさを味わうことができるはずだ。この操舵フィーリングの良さは電動油圧式パワーステアリングによるところも大きいとは思うが、シャシーの基本がしっかりしていることの証でもある。

タイヤはヨーロッパで定番のハイパフォーマンスタイヤであるコンチネンタル・スポーツコンタクト3で、サイズは235/40R18という、ある意味ではオーバーサイズなのだが、固められたサスペンション、このタイヤサイズにもかかわらず、路面の凹凸に対してのダンピングがよく、いわゆる「ひょこひょこ感」はあるが、入力が丸められ不快さがことごとくカットされている。

市街地では固めであることは感じるものの、車速が上がるにつれて車体全体のロードホールディングが高まり、しっとりした感覚が伝わってくる。ワゴンボディとはいえ、リヤセクションの剛性が高いのもこうしたフィーリングにつながっているのだろう。そういう意味で、T4 R-DESIGNはきわめてスポーツ性が高く、ドライビングプレジャーにあふれているが、決してハードではなく粗野さがないのが見事だ。

なお、このスポーティな走りを支えているのはコーナートルクコントロール(ブレーキ・トルクベクタリング)、スポーツモード付きDSTC(ESP)、さらにボルボならではの雪道などで有効なエンジンドラッグコントロール(減速時のエンジンブレーキ力の最適制御)などをフル装備しているため、路面や道路を選ばすスタビリティを確保しているのも心強い。

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V60のワゴンとしての資質は、当然ながらしっかりしている。リヤシートバックは4:2:4の3分割可倒式で使い勝手が優れているし、ラゲッジスペースの素材の質感のよさに加え、Cピラー後ろのリヤクォーターウインドウ用にまでエアコン吹き出し口を設けるなど、プレミアム・ワゴンとしての基本がきちんと押さえられている。

また標準装備されている本革シートのつくりや、身体にフィットする感覚も一流だ。メーター類やセンターコンソールの質感、ディテールに気を配ったデザインは、ドイツ車とは一味違うボルボ・デザインのセンスのよさが感じられた。

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V60 T4 R-DESIGNには当然ながら、近距離での衝突防止システムのシティセーフティが標準装備されるが、現在はキャンペーン中のため特別価格10万円(通常は25万円)の追加でレーダー、カメラを併用した、衝突回避フルオートブレーキ、全車速追従機能付きクルーズコントロール、車間距離警告などを含むセーフティパッケージが装備できるので、これはぜひとも装着したい。

いずれにしてもV60 T4 R-DESIGNは、競合車のスポーツパッケージ車と比較して30万円〜50万円ほど安く設定されており、装備、パフォーマンスで比べて抜群のコストバリューがあり、同時に走りの質という点でも、もうひとつの選択肢という以上に高いレベルに仕上がっているということができる。

ボルボ公式サイト

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