ボルボがプレミアムCセグメント・ハッチバッグの頂点を狙うV40が、2012年3月のジュネーブショーで発表されたのは既報の通りだが、この5月からオランダのヘント工場で生産が開始され、ヨーロッパでの販売も開始される。このV40に採用されているのが世界初の歩行者保護用エアバッグだ。このほどボルボから歩行者用エアバッグの概要が公表された。
ボルボによれば、交通事故死亡者数全体のクルマと歩行者の事故の割合は、ヨーロッパで14%、アメリカで12%、中国で25%、日本では36%で、負傷者数ではさらに割合が多くなると考えられている。歩行者とクルマとの衝突事故による最も深刻な頭部外傷は、ボンネットの下にある硬いエンジンなどの部品と、フロントガラスの下縁部やAピラーへの衝突によって引き起こされていることは知られている。
このため、現在のクルマは歩行者傷害低減システムの採用が義務付けられ、ボンネットの構造やワイパーヒンジに対策が加えられており、一部には衝突時に火薬によりボンネットを持ち上げる構造の採用例もある。
歩行者用エアバッグ技術の開発がスタートした時、ボルボは歩行者の頭部の衝撃を従来レベルよりさらに低減することを狙って開発を進めた。採用されたエアバッグ・システムは、車両の正面に埋め込まれた7個のセンサーがコントロールユニットに信号を送信。車体が何らかの物体との接触が感知されると信号が変化し、コントロールユニットがその信号を解析し、感知したその物体が人間の脚として認知された場合、歩行者用エアバッグが展開するという仕組みだ。
衝突時にボンネットを10cm上昇させるこのシステムは、システム起動時にボンネットのヒンジ部分のピンを引き抜き、ボンネットパネルの背面を開放する仕組みになっている。そして、その起動と同時にエアバッグが作動し、エアバッグにガスを充填開始。エアバッグが膨張する際にボンネットを10cm持ち上げ、その位置を保持するというものだ。
ボンネットとエンジンルーム内の硬い部品の間に隙間を作ることで、ボンネットを変形させ衝撃を吸収するスペースを与え、歩行者と衝突した際に頭部への衝撃を和らげる効果を生み出すのだ。
つまり、このエアバッグには2つの機能があり、1つ目はボンネットを持ち上げスペースを生みだすこと、2つ目にフロントガラス付近の強固な部分に衝突した際の衝撃を吸収する機能である。
衝突を検知してから2000〜3000分の1秒という速さでガスがエアバッグに充填され、エアバッグが膨らんだ状態でワイパー全体の収納部とフロントガラスの約1/3、Aピラーの下部をカバーする。全てのシステムが連動し、起動してから完全に膨らむまで、200〜300分の1秒で作動するという。
このシステムは20km/hから50km/hでの走行で作動する。歩行者が関係する事故は、75%が40km/h 以下での走行時に発生しているというだけに、その効果は期待される。
ボルボのシニア安全技術アドバイザー、トーマス・ブロバーグ氏は、「我々はコンピューターによるシミュレーションと、人間を模した脚と頭部のダミーを使いこのシステムを開発しました。多種多様な状況を想定し実験を行っています」と語っている。
新型V40は安全性の拡充だけではなく、優れた質感や傑出した運動性能、ドライビングプレジャーなどにおいて新たなベンチマークとなることを狙うチャレンジングなクルマとして期待が高まるが、日本への導入は2013年春とされている。