マニアック評価vol45
次世代自動車の急先鋒として注目されたのがEV=電気自動車だ。そのEVのスポーツモデルをいち早く市販したのがテスラ・モーターズでそのオープンモデルのテスラ・ロードスターにモータージャーナリストの石井昌道氏が試乗してきた。早速そのレポート動画を見ながら楽しんで欲しい。
なるほどベンチャーらしいと感じるのが、EVのなかでももっとも基幹部品となるバッテリーだ。ノートパソコンなどに広く用いられている円筒型の「18650」を6831個も搭載しているのだ。電力容量は56kWh。アイミーブが16kWh、リーフが24kWhだからかなりの大容量であり、航続距離は392kmを誇る。
EVの大きな課題が航続距離の短さだと言われるが、バッテリーをたくさん積めば解決できることもわかる。トランクが少し犠牲になっているとはいえ、このコンパクトな2シーター・スポーツカーに収まってしまうのだから、もっと余裕のあるクルマならばガソリン車並も夢ではない。実際、テスラが次に発売するモデルSは、セダンボディで航続距離を480kmにまで伸ばしている。
バッテリーの大容量化の弊害がコストだ。テスラ・ロードスターは1276万8000円から、と確かに高価だがモデルSは大幅にコストダウンが図られ500〜600万円程度に収まりそうだという。バッテリーのコストダウン競争は日本と韓国を中心に熾烈を極めているが、テスラ方式の競争力も侮れない。だからこそ、トヨタをはじめパナソニック、ダイムラーなどがテスラとさまざまなカタチで提携しているのだろう。
肝要なのは大量のバッテリーを制御する技術だが、すべてを完璧に使い切るというよりも、いくつかが不調をきたしても問題なく作動するようなロバスト性の高い考え方を持っているようだ。
EVスポーツカーには新しい世界観がある
初代テスラのロードスターは少々高価にならざるを得なかったが、特別感漂う2シーター・スポーツカーとしたことは戦略的に巧い。日常の足になるクルマだとコストをシビアにみてしまうが、スポーツカーならばポルシェやフェラーリを所有する富裕層が「一台買ってみようか」という気になるからだ。
しかも、スポーツカーに対して目が肥えている通にとってもテスラ・ロードスターは新鮮な乗り味で応えてくれる。よく言われるように電気モーターはゼロ回転から最大トルクを発生するためエンジン車とはまったく違う加速を見せる。がしかし、テスラ・ロードスターのそれはまた格別。
大容量バッテリーとパワフルな電気モーター、軽量なボディによる加速は、どんなスポーツカーでも体験できないような強烈さだ。0-100km/h加速は3.9秒(ロードスター・スポーツは3.7秒)。ポルシェ911ならターボに匹敵する速さであり、しかも電気モーターの特性で0-50km/hあたりの速度ののりは確実に上まわっている。ギヤはひとつしかないので加速に途切れがなく、パワートレーンは静かで振動もほとんどないというのも独特だ。
もっとも、音に関してはアイミーブやリーフなどのように徹底的に抑え込まれているわけではなく、アクセルを強く踏みこむと「キーン」というエレキノイズが発生。だが、それは決して不快ではなく、むしろ大パワーを解き放っているという実感がもてて気持ちいいぐらいだ。
シャシーはロータスと提携したもので、エリーゼをベースとしている。すなわち単体重量68kgと超軽量ながら10500Nm/°と高剛性なアルミ製シャシータブで、ボディスキンはCFRPを使う。そのため、バッテリーだけで400〜500kgあるはずだが車両重量は1235kgに抑えられ、剛性にも不足はまったく感じない。ガソリン車のエリーゼとは重量配分が大きく変わっているため操縦性も影響を受けているが、今回試乗した最新の2.5バージョンはかなり熟成されていた。以前に試乗したのはおそらく1.5あたりだったのだが、明らかに重量配分が後方よりであり、コーナー入り口で意識的に前へ荷重を移してやらないと曲がっていかない感覚だったが、2.5は無造作にハンドルを切れば思ったとおりにヨーが発生する。
今回は限界を試すような走り方はしていないが、少なくとも公道をちょっと飛ばすぐらいなら違和感はない。サスペンションはエリーゼに比べれば車両重量が増す分、それなりに締めあげられているはずだが、シャシー剛性が十分だからかそれほど乗り心地は硬くない。EVとしては長大な航続距離を利用してのトリップドライブも苦にならないだろう。
大容量バッテリーのもうひとつのデメリットとして、充電時間が長くなってしまうこともあげられる。たしかに家庭用コンセントでは200Vでも10時間以上かかってしまうが、テスラ専用の急速充電器、ハイパワーウォールコネクター(240V、70A)を使用すれば3.5時間でゼロからフルまでチャージが可能。この充電器はオプションで20万円弱で販売されており、家庭にも設置可能だ。日本の急速充電器、チャデモには対応していないが、テスラでは独自に高級リゾートホテルなどに設置。例えば軽井沢の星野温泉などにもあるが、東京からの一泊ドライブなどには最適だろう。
そういったライフスタイルまで含めて、テスラの戦略はよく考えられている。まずはスポーツカー好きの富裕層を満足させ、ブランド力を高めておいて、ゆくゆくはもう少し裾野を広くする。既存の自動車メーカーが造るシティコミューターEVとはまったく違った世界観を造り上げているのだ。
車両価格 1276万8000円
文:石井昌道