テスラ・ジャパンは2016年1月15日から、電気自動車の4ドアセダン「モデルS」に、自動運転に近いレベルのソフトウエアの提供を開始した。この自動運転ソフトウエアはベースになる既存のモデルS(ただしカメラ、ミリ波レーダー装着仕様モデル)にダウンロードし、インストールをするというユニークな方式で、オーナーは自分のクルマをアップデートできることになる。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
もともとモデルSは通信モジュール(SIMカード)を装備し、3G回線でインターネットと常時接続されている。ナビゲーションなどもインターネット経由でGoogleマップを使用するシステムになっている。このインターネット回線により自動運転ソフトを約40分かけてダウンロードするとテスラ式の自動運転車ができ上がるのだ。
もっともテスラとしては2015年3月以降、前走車に追従するアダプティブ・クルーズコントロール(ACC)を採用しているので、その機能を拡張アップデートしたということになる。
この拡張機能をテスラは自動運転(オートパイロット)と呼んでいるが、ドライバー支援システムとしては「レベル2」と規定されており、したがって正確に言えば既存の、ステアリングによる車線維持機能付きのドライバー支援システムと同レベルで、ドライバーがシステムを監視している義務がある。
現在のモデルSは、自動運転のためのシステムとして、前方のクルマや物体、車線を検出するために高精度カメラ、ミリ波レーダーを、側面、後方の物体を検出するために6個の超音波センサーを装備している。つまりセンサーの種類としてはかなりシンプルといえる。超音波センサーは、約3mまでの物体やクルマ、中央分離帯などを検出する。
テスラは、今回の自動運転(オートパイロット)の搭載にあたり国交省の認可を得て、自動運転時にステアリングから手を離した状態での運転も認められている。走行する道路も高速道路、自動車専用道路から幹線道路までを適合しており、自動運転モードにできる車速は50km/h以上となっている。
テスラでは、自動運転モードにスイッチを入れ、メーターパネルにステアリングのマークが表示されればシステム任せの手放し運転ができるとしており、他社のシステムでは10~20秒間手放し状態になると警告が表示されるが、テスラの場合は15分間ほど経過しないと警告は表示されない。
自動運転の機能は、カメラ、レーダーにより前方のクルマや車線を検出し、メーターパネルのディスプレイにそれらが表示された状態で、ステアリング左下のレバー先端を2回押すとオートクルーズ状態になり、加速、減速、車線の中央を走るためのステアリング操作が自動で行なわれる。
車間距離の設定は7段階から選ぶことができ、クルーズの車速も任意に設定できる。また車速を設定した状態でも、アクセルを踏み加速しても前走車の追従機能、車線キープ機能はそのまま維持されるが、ドライバーがブレーキを踏む、あるいはステアリングを操舵するとすべての機能はキャンセルされる。
自動運転機能の2つ目は、オートレーンチェンジで、オートクルーズが稼働している状態でウインカーを操作すると、主として超音波センサーで隣の車線の交通状況を確認し自動操舵によりレーンチェンジが行なわれる。
このオートレーンチェンジは、アメリカではステアリングにまったく触れずに自動で車線を変更することが許されているが、その他の国では、各国の規制に合わせてステアリングを軽く触っている必要がある。
隣の車線が混雑している場合など、自動でレーンチェンジができなかった場合は、ウインカーを戻せば、オートレーンチェンジ機能は解除される。
自動運転機能の3つ目は、オートパーキング、つまり自動駐車機能だ。これは縦列駐車のための機能で、駐車スペースを通過しながら超音波センサーがスペースをスキャンし、スキャンが完了すると「P」がメーターパネルに表示される。ディスプレイに表示された自動駐車ボタンにタッチすると自動駐車が開始される。バックしながら自動でステアリングが操作され、加減速も自動で行なわれる。ドライバーはまったく操作しないで駐車することができる。駐車スペースがモデルSの全長ぎりぎりの状態だった場合でも、数回の切り返し操作が自動で行なわれる。
実際にこの自動運転機能を試してみると、機能の作動が洗練されていることが実感できた。オートクルーズ状態での、自動の加速、ブレーキ、車線の中央を走るための自動操舵の動きに違和感がないのだ。特に車線維持のためにステアリングを細かく修正したり、車線を逸脱しそうになると修正舵が働くのではなく、一貫して車線の中央を走るのには驚かされた。かなり前方の車線を認識し、狭めのバーチャル・ウォール(仮想進路)を設定し、それに合わせ早めに操舵するアルゴリズムが採用されているように思われる。
信号で停止し、青に変わって再発進する場合も、ドライバーの操作は必要なく、そのまま設定車速まで加速してくれる。他社のシステムではアクセルを軽く踏む、あるいはレジームスイッチを押すといった操作が求められる。
オートレーンチェンジの場合も、操舵が滑らかで車線変更もスムーズに行なわれた。こうした作動の滑らかさはかなり洗練されたレベルにあると感じるが、正直に言えば実際の交通状況の中で問題なく作動するか、クルマがどのような動きをするか、最初は信頼感が薄かった。しかし実際に体験してみると、作動の滑らかさに加えて、液晶のメーターパネルにセンサーの作動、認識状態がすべて表示されているこを見ることで、システムに対する安心感が高まった。
設定車速や道路標識、車線の認識状態、隣の車線を走るクルマの認識状態、超音波センサーのスキャン範囲などが常時モニターに表示されており、これを見ているとセンサー、システムが正常に働いていることが理解でき、システムに対する信頼感が高まるわけだ。また、システムオフの状態から車線を認識し、自動運転が機能開始するまで3~4秒間を要することもわかった。
他社のドライバー支援システムは一般的に、システムの作動状態は記号、アイコン表示に限定されているが、モデルSはまるで開発実験車のPCモニター表示のように、常時、リアルタイムでセンサーやシステムの作動状態がグラフィックに見ることができる。一種の逆転の発想だが、これは案外ドライバーに与える安心感は大きいと感じた。
自動駐車は、全長4978mm、全幅1964mmというビッグサイズのモデルSにはありがたい機能だ。駐車アシストシステムは2代目プリウスが先鞭を付けたが、アクセル、ブレーキはドライバーが操作する縛りがあった。今回のモデルSがドライバーの操作不要という自動駐車の扉を開いたことになる。