革新的なEVカーとして常に注目されているテスラ。EVカーは環境モデルとして各社開発し、テスラのように、高級車、スポーツカーというジャンルでのポジションで戦っていないというのもテスラが注目される理由のひとつだ。テスラの高級車であるモデルS P85Dに試乗したので、その様子をお伝えしよう。<レポート:髙橋 明/Akira Takahashi>
モデルSは5ドアハッチバックだがセダンタイプのルックスを持つ、アッパーミドルクラスのプレミアムモデル。バッテリー搭載量、出力の違いで3モデルがあり、「70D」「85D」「P85D」とある。70D、85Dは駆動モーターをリヤアクスルに1基搭載したFR駆動方式。
P85Dはフロントアクスルにもモーターを搭載する2モーターのAWDだ。出力が最も小さい70Dでも0-100km/hを5.4秒、トップスピードは225km/hで航続距離も442㎞というスペックだ。そのさらに上を行くトップグレードがP85Dで0-100km/hはなんと3.3秒。トップスピードはリミッター作動で250㎞/hの自主規制。航続距離は491㎞(NEDC)で、パフォーマンスキットで0-100km/hを3.0秒までアップすることが可能なのだ。ちなみに、車名のP85DのPはPerformanceでバッテリー容量である85kWhを意味している。
このスペックを見るだけで、スーパーカーと勝負できる内容ということはお分かりだろう。しかもルックスはクーペルックの5ドアハッチバック。出力を振り返ると967Nmとベントレー・コンチネンタルGTスピードの820Nmを上回る大トルク。モーター出力はフロント193kWh、リヤ375kWhを搭載している。車両価格は1369万円。これにCEV補助金があり1100万円前後で手に入ることになる。
インテリアにはタブレットPCを上回る大型のタッチスクリーンがあり、こちらですべてのセッティングを行っていく。まさに、ラップトップを搭載している感覚だ。ユニークなのは、アップデートを行なうことでさまざまなスペックが更新される点だ。テスラ モーターの広報によれば「およそ四半期に一度くらいの割合でアップデートがある」ということで、デジタル制御される類は、ユーザー自身が簡単にアップデートできるという、これまでのクルマとは一味違う点がここにもある。<次ページに>
◆インプレッション
実際の走行ではどんなフィールなのか?インテリアはやはりセンターのモニターの大きさに目を奪われる。ドライブモードのセレクトやエアコンなどの空調もこのタッチモニターで行なう。始めての試乗ではスタートするまでに、このタッチパネルと格闘することになるが、そこはデジタル機器なので、スイッチの場所さえ覚えてしまえば、あとはタッチを繰り返すだけで、設定できる。
走り出すとEVらしく静か。EV特有のモーター音も小さく高級車らしい室内の静粛性だ。インテリアはとてもシンプルでアウディやメルセデス・ベンツのような豪華さの作り方をしていない。ウインカーレバーやドライブシフトなどはベンツと共通部品を使っているが、そこは、未来感の演出なのかもしれない。シンプルで機能的なコックピットだ。
アクセルのフィールは違和感なく普通に走れる。微妙なパーシャルにも対応しリニアに感じる。ブレンボ製の強力なブレーキはタッチもよく安心感も高い。一般道を走るには感覚的にはアクセルを20%程度開けるだけで周りの流れよりも速く走れるイメージだ。さらに50%も踏み込めばゼロヨン競争でもしたかのような加速を街中で味わえるのだ。
高速の合流車線で全開にしてみると、これは0-100km/hが3.0秒であることを実体験する。走行中からの加速だから実際には1秒程度しかアクセルを踏めないわけだ。「い~ち」と数えたら100km/h出ている…
試乗は東京・青山のショールームを出発し東名高速~小田原厚木道路~箱根新道~国道1号~国道139号~乙女峠~御殿場IC~東京というルートを試走。およそ320kmほどの行程だったが、バッテリー残量ではあと100kmの走行が可能となっていた。
高速道路や箱根のワインディングなどバッテリーに負荷のかかる場面も多々あったが、この航続距離があれば、ガソリン車の代替という選択肢も可能だ。EVはやはり充電スポットと充電時間が気になるわけで、それを踏まえるとリージョナルビークルというポジションになってしまう。しかし、テスラはその常識を覆していると言ってもいいだろう。もっともこれだけの高級車だけに、2台目も購入できる富裕層がターゲットとなるだろうから、EVのウイークポイントを気にする必要はないかもしれない。
ハンドリングも実にいい。このクルマのもっとも優れているポイントは実はハンドリングかもしれない。エンジンやトランスミッションといった重量物を搭載していないので、クルマが軽快に感じることがまず挙げられる。そしてコーナーでのスロットルレスポンスも前述のようにリニアでコントロールしやすい。
ステアすると気持ちよく回頭しコーナーを脱出する。次第に攻めた走りをしたくなり速度域があがる。それでも回頭性は高くクルマも安定してコーナリングする。さらに攻め込むとガソリン車でればトルクベクタリングや4輪コーナリングブレーキなどでアンダーを消し回頭する動きになる。モデルSも同様に制御されているはずだが、これがモーターと電子デバイスの世界なのか、実に滑らかに動くので何が制御されているのか?その境目が分からないのだ。
わかりやすく説明すると、「ここからアンダーになるなぁ」って予測しているとブレーキ制御やトルク制御でアンダーとならず回頭していくのがこれまでのスポーティ車だ。モデルSでは「ここからアンダーになるなぁ」というポイントが訪れて来ない、という言い方になるのだろう。それほど滑らかに自然とコーナリングするのだ。ハッキリ言って、自動車メーカーとしての歴史が浅いテスラがここまでのレベルだとは思っていなかったというのが正直な感想だ。
乗り心地も悪くない。大径でワイドなタイヤを履いているがうまく使いこなしていて、高級車のスポーティバージョンという乗り心地。後席のヘッドクリアランスなどセダンよりは苦しい部分があるが、不満になるレベルではない。正直、テスラの以前のモデルではクルマの組み立て精度やどこか安物感があり、ガタピシ音や樹脂感といったものを感じていた。しかし、このモデルSになってからは、ドイツ・プレミアムモデルと比較できるレベルになり、安物感を出している部分は皆無だ。ボディの組み立て精度もしっかりしていて、見た目の高級感と感触の高級感も出ている。
EV車に抵抗があるとか、デジタルに抵抗があるという人でも気に入る部分はたくさんあると思う。個人の感想を最後に言えば、あの走りが記憶に残り、味わったことのない世界を創出したモデルという印象だった。
■テスラ モデルS P85D価格:1369万円
(ただしエコカー減税70万5500円、CEV補助金85万円が得られる)