以前から噂されていたFCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)が、2019年5月27日、正式にルノー・グループに対して、グローバル・オートモビル・グループを構築するための経営統合案を送付した。
FCAからの経営統合を提案
経営統合の内容は、両グループがそれぞれ株式の50%を持つ対等な立場で持ち株会社を設立し経営統合するプランだ。両グループの統合により、870万台規模の世界第3位の規模となる。
さらにこの経営統合により、マセラティ、アルファロメオなどラグジュアリー/プレミアムブランドから、ダチア(東ヨーロッパ)やラーダ(ロシア)という競争力のあるエントリーブランドまで、すべての主要セグメントにおいて強い存在感のある完全なマーケットカバレッジを備えたブランド・ポートフォリオが生み出される。
もちろん経営統合が行なわれても、マセラティ、アルファロメオからフィアット、ルノー、ダチア、ラーダ、ジープ、ラムの各ブランドはそのまま維持され、さらに商用車もラインアップに加わる。ルノー・グループは既にヨーロッパ、ロシア、アフリカ、中東の各地で確固たる地位を築いており、一方のFCAは北米の利益率の高いセグメントに独自の位置を占め、ラテンアメリカのマーケットリーダーとなっている。
またFCAはウェイモ、BMW、Aptivとのパートナーシップにより自動運転技術を開発中で、一方のルノー・グループは10年にわたるEV技術の蓄積とヨーロッパで最大のEV販売実績を持つため、両社はそれぞれの分野を補完するシナジー効果が期待できる。
もちろん、両グループの経営統合が実現すれば、プラットフォームの共有化、パワートレーンと電動化技術の共有、さらに部品調達のスケールメリット、生産向上の相互補完を生み出すことができる。
巨大コングロマリットの誕生
FCAとルノー・グループの2018年の世界販売台数をベースに地域別に見ると、2グループが統合すれば、北米で第4位、ヨーロッパ、中東、アフリカで第2位、ラテンアメリカで第1位になり、アジア地域での事業拡大に必要なリソースを増大させることができる。また2018年の事業収益を単純に集計すると、統合会社の年間売上高は1700億ユーロ(20兆8500億円)近くにのぼり、営業利益は100億ユーロ(1兆2260億円)以上、純利益は80億ユーロ(9800億円)以上になると予想される。
もちろん、FCAの提案にはルノー・日産・三菱のアライアンスも考慮されており、この経営統合が実現し、ルノー・日産・三菱のアライアンスの販売力を加えると、なんと年間販売1500万台を超えるダントツの世界ナンバーワンとなる。この大統合が実現すれば、日産、三菱にも毎年10億ユーロ(1226億円)のアライアンス効果が生まれるとしている。
セルジオ・マルキオンネの遺志を受け継いで
FCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)は、フィアット社再生の主役であるセルジオ・マルキオンネ( 2018年7月病没)によって誕生した。フィアットの財務を再建すると同時にフィアット・グループを再編し、さらに2009年に経営破綻したクライスラーを買収。FCAを設立して登記上の本社をオランダに置き、ニューヨーク株式市場に上場させて企業価値を向上させた。またフェラーリ社はフィアットグループから切り離し、同じくニューヨーク株式市場に上場させている。
マルキオンネは、フィアットはイタリアのローカル企業では生き残れないと確信し、クライスラーを買収し、FCAという企業体をグローバル規模の企業とした。マルキオンネ亡き後の後継者は、これからのCASEの時代を迎えるに当たり、さらなる規模のグローバル企業となるべくコラボレーションする企業を求めていた。今回の提案はルノー・グループを綿密に調査して行なわれたはずだ。
自動運転技術の開発、バッテリーを含む電動化技術、そしてグローバル規模でのコネクティビティ、カーシェアリングサービスなどへの投資は、いずれも企業単独では負担が大きすぎる。さらに世界最大の市場である中国でのプレゼンスを高めるためには、経営統合を求めるのは必然といえる。
またFCA、ルノー・グループを総覧すると、グローバル市場での相互補完の価値が高まることがわかる。ルノーはヨーロッパ、ロシア、アフリカ、中東で強く、FCAは北米、南米市場で地歩を築き、そして中国では日産、東南アジアでは三菱、というそれぞれのピースを組み合わせると、文字通り世界をカバーする事業体となる。
ルノーも検討を開始
FCAからの提案を受け、ルノーは5月27日に取締役会を開催した。取締役会でFCAのこの友好的な提案を慎重に、前向きに検討すると発表している。この大きな経営統合案の浮上により、ルノー、日産で懸案となっている経営統合案はどうなるのだろうか?
実はルノー・グループのジャンドミニク・スナール会長は、ポスト・ゴーン体制としてルノー、日産、三菱に新たな「アライアンス・オペレーティングボード」を設立するという発表会で、「見ていてください。皆さんが驚くようなスピードで事態は進んでいきますよ」と語っていた。これはまさに予言だったのかもしれない。
今回の提案については日産には情報は提供されなかったが、ルノーはもちろん、FCAもルノーと日産の早期の経営統合を求めていることは間違いないだろう。ルノーがどのようなアクションを行なうのか、興味深い。