【ルノー】メガーヌ試乗インプレッション 津々見友彦氏動画付き

マニアック評価vol50

シャシー性能と価格で勝負

3代目となったルノーのメガーヌには、2つのシリーズが用意されている。まずは従来からルノーの顧客であり、とくに先代メガーヌのユーザーの乗り換え需要に応えるための“プレミアム”ラインだ。次に新規にルノーの顧客獲得を目指すための“GT”ラインという、ターゲットユーザーの明確な違いに応えるグレード展開となっている。そして見事なまでに、その乗り味も異なる2台に仕上がっていた。

その前に、なぜ日本への導入が2011年まで時間がかかってしまったのか? その理由を聞いてみた。3代目のメガーヌは2008年10月のパリ・サロンで正式発表され、翌09年1月には欧州で販売が開始されている。つまり遅れること2年強だ。その理由についてルノー・ジャポン商品計画グループのフレデリック・ブレン氏は、「Cセグメントに属するメガーヌには強力なライバルが数多く存在します。日本でも直接ライバルとなるVWゴルフやプジョー308、アウディA3など、とても競争の激しいカテゴリーです。ですから、よりメガーヌのアピールポイントを強調しなければならず、そのために導入時期をずらすことを考えました」と言う。

通常ならセダンやハッチバックなどの主力モデルから発売を開始し、その後にステーションワゴン、カブリオレやスポーツモデル、クーペモデルなどをリリースするのが一般的な流れだ。しかしブレン氏は日本においては、その真逆の手法を取ったのである。

↑フレデリック・ブレン氏

「メガーヌという商品に自信はありますが、5ドアハッチバックでは日本のお客様に与えるインパクトが弱いという判断をしました。その代わりに、メガーヌの最大の特徴でもありセールスポイントであるハンドリングやシャシー性能をアピールしたいと考え、スポーツモデルであるRSから先に日本導入をすることに決めたのです」

この戦略の意味は、スポーツ性能に優れたメガーヌ ルノー・スポール(RS)と同じプラットフォームを持ち、同じシャシーを使ったモデルがメガーヌであり、その性能はすでにRSで証明されているという認知を利用しているわけだ。その結果、早く量販モデルである5ドアハッチが導入されないか? という渇望感をあおるということにもなる。

こうして意図的に遅れて導入されたメガーヌは、先代モデルよりひとまわり大きくなっている。ディメンションは、全長4325(先代比+85)×全幅1810(+35)×全高1470(+10)mm、ホイールベース2640(+15)mmと、スリーサイズ+1のすべてが拡大されている。


 

搭載されているパワーユニットは全車共通。ルノー/日産アライアンスで共同開発されたM4R系のMR20型エンジンで、4気筒2LのNAである。ミッションは6速マニュアルモードを持つジャトコのCVTで、ルノーが制御ソフトウエアを開発したユニットだ。

MR20型エンジンは日産セレナに搭載されているユニットと同じである。日産版の出力は147ps&210Nmというスペックだが、メガーヌは140ps&195Nmというスペックだ。

10・15モード燃費のデータはないが、11km/L〜12km/L程度と想像でき、燃費においてはライバルモデルに対してやや不利となっている。なお、2モデルとも車速100km/hで2100rpm程度の回転数であり、高速での静粛性は高かった。

ボディやインテリア、そして走行性能において競争の激しい欧州のCセグメントで人気を得るには、USP(ユニークセールスポイント=他にない製品特徴)の有無がキーとなる。新型メガーヌでは、エクステリア/インテリア/シャシーなどにおいて、その特徴を持っているのだ。

そのひとつが外装処理で、パネルとパネルの隙間を狭くし、風切り音の低減や見た目の高級感を上げているのがわかる。もちろん、この手のクルマにはデザインが持つ要素も大きいため、先代モデルとは違ったテイストの先進的なデザインで挑戦している点も見逃せない。ボディサイドの張り出しや抑揚、光の反射などはドイツ車とはまったく異なるデザイン性を備えている。

インテリアでも手触りや見た目の印象をよくするためのデザイン、素材選びというのが随所に見られた。そして走りでも前述のRSの血統であるがゆえにスポーティで、安心感のあるハンドリングを持つモデルに仕上げてられている。まさにメガーヌは“USP”を目白押しに持ったモデルと言える。

フランス車、ルノーらしい乗り味

今回はプレミアムラインからハンドルを握ってみた。ターゲットユーザーをルノーの顧客としていることから、ルノーのテイストやフランス車の味を好むユーザー向けということになる。

欧州育ちのFF車らしく、ステアリングの直進性は素晴らしく高い。アクセルのオン・オフに関わらず、常に直進性は強い。そしてそこから1〜2cm程度の小舵角時には、ややダルな反応を示す。これは意図的な設定であり、過敏な反応を嫌った結果の味付けであろう。さらに大きく切り込んで、ステアリングが45度程度に切り込むと旋回のしやすさを強く感じる。ロール速度に変化がなく、ゆっくりとロールをしながら、ステアリングを切り込んだ量に応じてヨーモーメント(旋回性)を感じるので、とても安心して走ることができる。

シートはフランス車の個性でもあるソフトな座り心地でありながら、身体のサポートをしっかり感じることができるタイプ。サイドのサポートもしっかりしている。リヤシートも同様にソフトな座り心地で、ドイツ車の固いシートとはまったく異なるところだ。ちなみにシートはフォルシア社との共同開発によるものだ。

インテリアはベージュの内装仕上げとなっているが、これまでのメガーヌオーナーのほぼ100%がベージュの内装色をチョイスしているというデータに基づいている。ダッシュまわりはソフトなウレタン材を採用しており、なかなかの質感を誇っている。クラス相応のレベルと考えていい。メーターナセルの中にはデジタルのスピードメーターとアナログのタコメーターが装備され、スイッチ類はステアリング周辺に配置され、操作はしやすかった。

装着されるタイヤは205/55-16で、試乗車はミシュランのエナジーセイバーというエコタイヤを履いていた。その乗り心地はソフト、フランス車特有のサスペンションの足の長さを感じ、ストローク感たっぷりなフィーリングを残してくれる。

一方のGTラインのインテリアはブラック基調であり、名前の通りスポーツテイストあふれるインテリアになっている。その証拠にシートにはRSとまったく同じレカロ製のバケットタイプシートが装着され、身体のホールド性が高く、その気にさせるイメージだ。

GTラインの狙いはフランス車特有の個性を少し薄め、どちらかといえばドイツ系のテイストに近づけている。つまり、どことなくカチッとした乗り味になっている。サスペンションもプレミアムラインより締め上げられたスポーツサスペンションであり、スタビライザーもひとまわり太いサイズに変更されている。したがって、ステアリングフィールにもその違いがあり、プレミアアムラインより、キビキビした印象となった。

それはステアリングを切る小舵角時で、すでにその違いが感じられる。プレミアムラインより明らかに反応がよく、よりリニアに近づけている印象だ。そしてロールも抑えられ、切り込んだ時にはロールよりもヨーモーメントを感じるために、大胆にステアリングを切りたくなる衝動に駆られる。このあたりも味付けの違いがはっきりしており、逆に言えば同じクルマのグレード違いとは思えないほど明確な差があるハンドリングだ。

装着するタイヤは205/50-17で試乗車はコンチネンタルのスポーツコンタクト3であった。その乗り心地も非常にうまくまとめられており、しっかりしたサスペンションフィールを味わうことができる。しかし決して硬いという印象はなく、RSと同じレカロのスポーツバケットシートの座り心地と相まって、とても若々しい印象の乗り心地である。

フランス車のアシの長い、ゆったりとした乗り味を理解する人にはプレミアムライン、そしてドイツ車を好んできた人にはGTラインをという選択はいかがだろうか? とはいえ、ドイツ車のようにすべてがキッチリ効率的に造られているわけではなく、3時間程度の試乗でも感じられるフランス車のテイストは十分に残っている。ルノーの戦略も見事だが、実際その仕上がりもよく、メガーヌのヒットは間違いないだろうと思った。

文:編集部 髙橋 明

試乗ドライブ担当:津々見友彦氏

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ルノー・ジャポン公式ウェブ

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