【WEC2015】ポルシェ ル・マン24時間レース・インサイド ワークスチームのレースオペレーション

ル・マン24時間レースの車検を受けるために集合したポルシェチーム
ル・マン24時間レースの車検を受けるために集合したポルシェチーム

2015年6月13日、92年という長い伝統を誇るル・マン24時間レースの決勝レースがスタートする。公道を使用して行なわれるこの耐久レースにワークスチームはどのような運営を行なっているのだろうか? ポルシェチームの組織的な動きや役割を追ってみた。

ル・マン24時間レースに向けて、ポルシェチームは5月18日に始動した。12名の先発隊が、フランス北西部のサルテ・サーキットのパドックに到着し、指定されたガレージ後方に2階建ての仮設ハウスと、パーツやその他備品の保管場所、ドライバーのための休憩、仮眠、マッサージを受ける大がかりな仮設施設を設置した。

5月27日にチームトラックが、ポルシェの本拠地・ヴァイザッハからフランスのサルテ県まで陸路800kmの長旅に出発した。サーキットに到着するとメンバーは8チームに分かれ、3台の919ハイブリッドのガレージの準備を開始する。

別のチームはパドック内のチームとメディアホスピタリティスペース、新しいポルシェ・エクスペリエンスセンターのゲストホスピタリティー、ビレッジと呼ばれるファンエリア、ポルシェ・カーブのゲストラウンジ、ガレージ上部の部屋を設置する作業に取り掛かった。さらに、レース当日にはポルシェ本社から応援にやってくる750名の従業員の仮設宿舎が準備される。

5月31日の公式テストデーに3台体制で出場する919ハイブリッドを走らせるために必要なすべてを取りそろえる必要があるのだ。

レース、チームを統括するアンドレアス・ザイドル(左)と、技術開発責任者のウォルフガング・ハッツ
レース、チームを統括するアンドレアス・ザイドル(左)と、技術開発責任者のウォルフガング・ハッツ

チームはLMP1担当・技術開発担当取締役・副社長であるフリッツ・エンツィンガーの指揮の下、チーム監督のアンドレアス・ザイドルがすべての作戦を担任する。ガレージ前部にある「宇宙ステーション」と名付けられ、すべての情報が集まる中枢部がレース中の彼の居場所だ。

ザイドルの横で働くのはニュージーランド出身のメカニックのチーフ、アミエル・リンゼイである。リンゼイは、レースエンジニアと協力して、無線を介して19名のメカニックに仕事を割り当て、ピットストップ中に行なうべきことを知らせる。

ザイドルは、無線で走行中のドライバーと連絡し、ピット専用周波数を使用してエンジニアと連絡をとる。ドライバーのコメント、車両の調子、タイヤの選択、ピットストップ戦略、天候やライバルの様子などを見ながら、ザイドルがすべての決断の中心となる。

メカニック、チーム・スタッフ全員がヘッドセットを装備し、無線通話する
メカニック、チーム・スタッフ全員がヘッドセットを装備し、無線通話する

彼は平静を保ち、あらゆる種類の情報を伝え、瞬時に決定しなければならない。ザイドルは、「3台の9191ハイブリッドをオペレーションすることは、私達にとって大きな挑戦です。私達はベルギーのレースで様々なことを経験しましたが、その時はわずか6時間のレースにすぎません。数々の事態に対処するために30時間におよぶテストを行ないましたが、ル・マンをシミュレーションすることはできません。そして、優秀なプロフェッショナルのクルーが揃わなくてはレースで成功することはできないのです」と語る。

レースエンジニアたちは、ピットウォールに設置された6個のディスプレイが設置された屋根付のスタンドに陣取る。レースエンジニアのみがドライバーと無線で話すことができ、専用のピット用の無線でリンゼイ、ザイドル、他のエンジニア、その他のチームメンバーと連絡を取り合う。

WEC 2015 ル・マン24時間レース ポルシェチーム

ピットウォールには車両ごとにそのようなスタンドが1つ、つまり3カ所に設置されている。17号車のレッドのマシンは、ティモ・ベルンハルト/ブレンドン・ハートレー/マーク・ウェバー組、ブラックの18号車は、ロマン・デュマ/ニール・ジャニ/マルク・リーブ組、ホワイトの19号車はアール・バンバー/ニコ・ヒュルケンベルク/ニック・タンディ組がステアリングを握る。17号車のレースエンジニアは、カイル・ウィルソンクラーク、18号車は、マチュー・ガロッシュ(フランス人)、19号車はスティーヴィン・ミタス(オーストラリア人)が担当する。そしてミタスが3台すべてのポルシェ919ハイブリッドのレースエンジニアリーダーを務める。

レースエンジニアの面々は、パフォーマンス・エンジニア、データ・エンジニア、ハイブリッド・エンジニア、エンジン・エンジニア、システムパフォーマンス・エンジニア、12Vエンジニア、ソフトウェア・エンジニア、エンジンアプリケーション・エンジニア、ギヤボックス・エンジニア、サーキットエアロダイナミクス・エンジニアがいる。

WEC 2015 ル・マン24時間レース ポルシェチーム

またマシンの作業をするメカニックはナンバーワン・メカニック、フロントアクスル・メカニック、リヤアクスル・メカニック、エンジン・メカニック、ギヤボックス・メカニック、コンポジット・メカニック、電気技術担当、給油係、タイヤ係、倉庫管理係、エアホースとフューエルタンク係のメカニック、そして控えのエンジニアの合計23名が各車を担当し、3台合計で計68名の男性と1名の女性(ギヤボックスエンジニア)のクルーが各担当車両の作業にあたる。

分厚いレース規則書に従いピットストップの作業が行なわれる。ピットレーンには60km/hの速度制限があり、ピットウォールまたはワーキングエリアの制限ラインから50cm以上離してマシンを駐車しなければならない。4名のチームメンバーのみが、必要に応じてガレージに車両を入れることができる。

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車両はガレージ前のワーキングエリア内でサーキットと平行に止め、再スタートするときはホイールスピンさせないことが義務付けられている。違反した場合はストップ・アンド・ゴーペナルティーが課せられる。すべてのピットストップでエンジンは停止しなければならず、給油中(タンク容量68.5L)のジャッキアップは認められない。

WEC 2015 ル・マン24時間レース ポルシェチーム
給油中にドライバー交代が行なわれる
給油作業を上から見たショット
給油作業を上から見たショット

ル・マンの13.629kmのコースにおいて、ポルシェ919ハイブリッドは1周あたり最高4.76Lの燃料が使用できるため、1スティントで14~15周の走行が可能だ。給油にあたり2名のメカニックが同時に、フロントウインドウ、ヘッドライト、ミラー、カメラの汚れを拭き取り、データロガーの記録データを取り出した後、車両のアーシングを行なう。ドライバーチェンジは給油中に実施するが、燃料のみのピットストップ中に行なうと時間がかかりすぎるので、タイヤ交換が必要なときにドライバー交代を行なう。

給油作業の終了後、エアジャッキで車両をジャッキアップする。タイヤ交換のために2名のメカニックが同時に作業する用に制限されており、その際に使用できるインパクトレンチは1つ。2つめのインパクトレンチと他の2人のメカニックは先に作業した2名の作業終了後にリレーの要領でもう片側の作業を行なう。

ピット作業で最も迅速さが求められるタイヤ交換
ピット作業で最も迅速さが求められるタイヤ交換

外されたホイールは、ガレージでホイールからタイヤを外して、新品タイヤに交換される。なおポルシェチームのタイヤ交換に要する時間は19秒だという。ル・マンでは2スティントごとにタイヤ交換を予定しており、気温の下がる夜間はタイヤ交換の間隔を倍にする。このときドライバーは、約4時間運転を続けることになり、これはF1グランプリの2倍以上の距離に相当する。

マシンに搭載される車載工具
マシンに搭載される車載工具。コース上での故障の場合、ドライバーはこの工具で修理する

ピットインの作業中に、控えの人員がデータレコーダーや燃料フローメーターの交換を行なうことができるが、いずれにせよドライバーが再スタートする時には全員がガレージに戻らなければならない。その後、ドライバーが頼れるのは自分だけになる。万が一サーキット上でメカニカルトラブルが発生したら、基本的なオンボードツールキット(車載工具)を使用し、ドライバー自身で修理作業をするしか方法がないのである。

ル・マン24時間レースのような長い、過酷なレースに備え、ドライバーはもちろん、チームスタッフ全員が数ヶ月前から身体トレーニングや食事管理まで行なうなど、世界耐久レースシリーズの1戦とはいえル・マン24時間レースは特別なクラシックレースなのである。

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