2020年9月にプジョー208GT Lineの試乗記を掲載している。2020年欧州カーオブ・ザ・イヤーを受賞した実力をチェックし、そのレベルの高さを実感したが、今回はグレード違いのアリュールを試乗してきた。これが同じクルマ?というほどフランス車らしいストロークのあるサスペンションが印象に残った。
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これ同じクルマ?
前回のGT Line試乗記に書いたのは、しっかりしたサスペンションだが、フリクションも感じることなく、ハーシュネスも綺麗にいなし、文句のない乗り心地だと。そして、近年のプジョーはシトロエンのようなストロークの長いサスペンションというより、どちらかといえばドイツ車方向のしっかりした高剛性な乗り心地へシフトしている。特に208にはその傾向があり、この新型もしっかりとした足回りの乗り心地だった。
というレポートをしている。だが、アリュールでは全く別の乗り心地に仕上げてあり、グレードの違いでここまで性格の違いがあるというのも見事だ。じつは、このテスト試乗はグループPSAの広報部から連絡があり、「GTラインとはまた違った味付けのアリュールにもぜひ」というお誘いがあったからなのだ。
もし、この連絡がなければ208の乗り心地はGTラインの剛性感のあるしっかりとしたドイツ車風のサスペンションでインプットされたままになっていた。
何がそこまで違うのか。
ひと言で言えばフランス人魂だろう。日本ではドイツ車が人気だし、しっかりとした硬めの足回りが高い評価を得、スポーティな味付けが好まれる傾向にあると思う。が、ストロークがあり、しなやかな身のこなしをしながらも、しっかり感や剛性感を感じさせる方法があるのだと主張された気分だ。
ストロークのあるフランス車らしさ
パワーユニットはGT Lineと同じ1.2Lターボのピュアテックターボで、EAT8速(AT)を搭載し100ps/205Nmの出力。つまりパワーユニットに違いはなく、サスペンションだけ仕様が異なっている。それなのに、こうもクルマの印象って変わるのかという良いお手本だと感じた。約33万円ほどの価格差があるが、結論として「どっちもいい」が、買うならアリュール。
装着するタイヤはGT LIneはミシュラン・プライマシーの205/45-17で、今回のアリュールも同じミシュラン・プライマシーでサイズが195/55-16と1サイズダウンしている。
乗り心地にはタイヤサイズやタイヤのキャラクターが大きく影響するが、今回の違いは単純にサイズ違い。しかし、明らかな乗り心地の違いがあり、アリュールのほうがフランス車らしさを感じさせるのだ。
ある程度のロールまではゆったりとソフトに動くが、その先はしっかりとし、ビシッと動きを抑えるので柔らかすぎて不安になることもない。言い換えれば、ゆったり、やわらかな乗り心地なのにしっかりとした動きが手に入るということだ。
もう少し詳しくお伝えすると、タイヤが拾う凸凹を最初は滑らかにソフトに吸収し、コーナリング荷重がかかると一定量のロールまではその柔らかさが持続するものの、その先はしっかりと抑えられる。さらにステアリングの戻りも良く、手応えが持続しているので安心感のあるコーナリングができるということだ。
このサスペンションに加えてシフトアップのプログラムにも工夫が見られる。1.2Lターボでダウンサイジングコンセプトのため、低速トルクが出ているエンジン。だからシフトアップも早め早めにハイギヤへとアップシフトされる。だからエンジン音は静かで、滑らかな乗り心地をスポイルすることがない。
3000rpmを超えるようなアクセルの踏み方をすると、今度はほどよくエンジン音が聞こえてくる。ドライバーに「走り」を感じさせ、DCTのようなシフトアップ、ダウンを見せるEATも秀逸だ。
穏やかに走る時は滑らかで静かに上質な走りをし、アクセルを踏み込めばやる気を掻き立てる演出が気分を盛り上げる。どうして、ここまでドライバーの気持ちを汲み取ることができているのか、クルマづくりの奥深さを感じさせる。
こうした味付けはまさにフランス車ならではであり、ドイツ車では見たことがない。スキのないしっかりとしたドイツ車からの味変は楽しい。まして国産車でもこうした味付けはなく、同じ欧州市場で競争するのは厳しいことが伺える。それでも近年のマツダ車は健闘しているので、詳しくはまた別の機会に触れてみたい。
量産のBサイズという位置づけだが・・・
このプジョー208はBセグメントの量産モデル。ライバルはVWのポロ、ルーテシア(クリオ)で、日本車ならヤリス、フィット、マツダ2となる。欧州市場ではヤリス、フィットの苦戦は仕方ないか。
さらに、インテリアのデザイン、エクステリアのデザインでもセンスの差を感じる。他のモデルとの共通部品は無いのではないかというほど、208専用に開発されたと感じるデザインが多々ある。特に3D表示されるi-CockPitはセグメントを超える先進的な装備。ピアノの鍵盤をモチーフにしたトグルスイッチ、使いにくいけど、見た目がよいドライブモード切り替えスイッチ、そして小径ステアリングに、操縦桿のようなシフトレバーと、全てがデザインされており、そのセンスに圧倒される。
エクステリアも個性的な顔を持ち、ひと目でわかるアイコンもある。近年のプジョーは両サイドにライオンの牙をモチーフにしたデイタイムランニングライトを装備し、昼でも夜でもすぐにプジョーであることがわかる。
こうしたデザインにたいするこだわりもプジョーらしさであり、価格はこのアリュールはなんと259万9000円という競争力のある価格。もちろん、最新のADASも装備しているので、ドイツ車に飽きた、国産からの乗り換え、フランス車が好きという方にオススメの一台だ。