ステランティス・グループのカルロス・タバレスCEO2024年12月1日付で辞任した。この辞任は同社取締役会で承認され、今後はジョン・エルカン会長と暫定執行委員会が経営を担当し、なるべく速やかに次期CEOを決定する方針としてる。
ステランティス・グループは14のブランドを擁する多国籍自動車メーカーで、販売台数では世界第4位だ。グループは2021年に、フランスのPSA(プジョー、シトロエン)グループとフィアット・クライスラー・グループ(FCA)が対等統合されて発足している。
14のブランドは、PSA系がプジョー、シトロエン、DS。フィアット系がフィアット、アバルト、アルファロメオ、ランチア、マセラティ。クライスラー系がジープ、クライスラー、ダッジ、ラム。その他の系統がオペル、ボグゾールがある。
カルロス・タバレスCEOはこれまでPSAグループのCEOであったが、ステランティス・グループのスタートと同時にグループのCEOに就任している。
なお、グループの持ち株構成は、 アニエッリ家(エクソール社)、プジョー家、フランス公的投資銀行、東風汽車という順序になっており、ステランティス誕生を主導したアニエッリ家のジョン・エルカン氏がグループ取締役会の会長に就任している。
辞任の背景
カルロス・タバレスCEOは、この多ブランド、多国籍企業グループで、電動化戦略、プラットフォームの共通化などを牽引し、ヨーロッパのBセグメント市場でプジョー208が販売トップになるなど収益力を高めている。
2023年には中国のEVメーカー「リープ・モーター」との合弁を行ない、ヨーロッパを始め中国以外でのEV「リープ」の販売を行なうことになった。「リープ」は最先端のAIを活用した学習する車両OS、ソフトウエア・ディファインド・ビークル(SVD)で、内製のECU、e-アクスルなどを持っているため、ステランティスの大きな武器になると考えられた。
しかしその一方で、アメリカでのクライスラー、ジープの収益が悪化しており、イタリアではマセラティの収益も低下している。アメリカでの事業規模はグループ全体の収益の40%以上を占めるほど大きいが、2024年に入って売り上げが急激に減少しており、特に収益率の高かったジープ・ブランドの減速が大きく、在庫の圧縮や工場の人員整理に迫られていた。
このため、ステランティスは11月にアメリカ事業担当取締役を交代させるなど、新体制とすることで対応している。この時点でカルロス・タバレスCEOの任期は2026年1月まで、期限付きでの経営再構築を任せれた形になっている。
そのため、カルロス・タバレスCEOは従業員の削減や生産体制の再編など、コストカットを提案したことに対し、取締役会や労働組合、特に取締役会のエルカン会長が反対したといわれている。この結果、カルロス・タバレスCEOは辞任に至ったわけである。
取締役会では、ステランティス・グループを生み出したフィアット創業一族であるアニエッリ家のジョン・エルカン会長の発言力が大きく、意見が対立したカルロス・タバレスCEOが引かざるを得ないのだった。
自動車界のレジェンド、カルロス・タバレス
カルロス・タバレスは1958年にポルトガルで生まれた。17歳でフランスに移住し、工学で有名なパリ中央大学・工学部を卒業した。
卒業後、ルノーに入社し自動車業界でのキャリアをスタート。ルノーでは車両実験部門に所属。その後はメガーヌRSの設計チームにも所属し、また車両実験部でもシャシー開発の専門家として高く評価され、同時に自らもテストドライバーとしての腕を振るった。
その後、カルロス・ゴーン氏に推挙されて日産に移動し、2005年からは日産の執行役員に就任。2009年からは日産の北米および南米における事業の統括責任者からカルロス・ゴーンの下で副社長にもなっている。その後、ルノーに戻り執行責任者(COO)に就任し、カルロス・ゴーンの継承者とされていた。
しかし2014年にルノーを退社し、PSAプジョー・シトロエンのCEOに就任した。PSAのCEOとして新たなモジュラー・プラットフォームの採用など、革新を進め、同時に中国市場での販売も拡大させるなどPSAの事業の成長をリードしてきた。
もう一つの側面では、大の運転好きで、テストドライバーとしての能力も一流であり、車両実験での高い能力も評価されている。
また20歳からは自費でアマチュアレースに出場しており、その後もツーリングカーレース、フォーミュラカーレース、さらにラリーなど出場を継続。PSAのCEOに就任後もプジョーRCZカップ大会に出場したり、バルセロナ24時間レースではクラス優勝も達成している。
さらに1960年~1970年代のネオクラシックカーのコレクションも趣味の一つで、当時のプジョーやアルピーヌ、ポルシェを所有している。
このように車両実験部でのクルマのテスト評価の能力の高さ、個人としてのレース愛好家という面と、企業経営者という2つの面を持ち、経営者としてはカルロス・ゴーンの後継者と言うに相応しい能力を示した。
PSAグループでは3ブランドの舵取りを行なって収益力を大幅に改善させ、ステランティス・ブループでは14ブランドという途方も無い多国籍事業を統率したが、今回の辞任でとりあえず自動車業界から去っていくことになったのだ。
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