フィアット/クライスラー・グループのFCAと、プジョー/シトロエンなどを擁するグループPSAが合併した「ステランティス」がいよいよ本格的な活動を開始した。
ステランティスは、乗用車13のブランドと商用車部門を合わせると14ブランドが存在し、他の自動車メーカー・グループとは比べられないほど複雑な構成になっている。だが、総司令官のカルロス・タバレスCEOのもとで、各ブランドごとの戦略と同時に、カーボンユートラルに向けての電気自動車化実現を行なうことが当面のミッションとなる。
ステランティスは2021年7月8日、本社のあるアムステルダムで投資家、経済アナリスト、メディア向けの電動化説明会「EV Day」を開催し、2030年を節目とする中期・電動化計画を明らかにした。この説明会はなんと3時間という長丁場のイベントで、ステランティスとしての中期経営計画から、主要ブランドの電動化戦略の説明、電動化技術、バッテリーの購買戦略、充電網、バッテリー・リユース/リサイクルに至るまでの多岐にわたる内容となった。
中期経営戦略の概要
カルロス・タバレスCEOは、「私たちは常にお客様を中心に考えています。本日発表した300億ユーロ超の先行投資によって、今後私たちはパフォーマンス、機能、スタリングや快適性に加え、日常生活に不足のない電動航続距離を持つ、画期的な車両をお届けします。本日ご紹介した戦略に沿って、適正な金額を最適なテクノロジーに投資することで、ステランティスは最先端の製品をタイムリーに市場投入することが可能になります。ステランティスは人々の移動の自由を最も効率的で、なおかつ適正な価格で継続的に提供してまいります」と語った。
ステランティスは2025年までに電動化と関連するソフトウェア開発に300億ユーロ(約3兆9000億円)以上を投資する一方で、常に最先端を走る自動車メーカーであり続けるとともに、投資回収効率で業界平均を3割上回ることを目指すとしている。
なおステランティスはFCAとグループPSAの統合によるコスト削減の相乗効果は年間で50億ユーロ(約6500億円)に達する。この数字はバッテリー調達コストの削減、物流、製造コストの最適化に加え、コネクテッド・サービスと将来的にはソフトウェア・ビジネスからもたらされる収益によって達成されるとしている。
その結果、ステランティスは中期的(2026年頃まで)に調整済み営業利益率は二桁を維持できると見込んでおり、ステランティスは電動化モビリティの世界でベンチマークとなるとしている。それは全面的に電動化を推進しているフォルクスワーゲン・グループに勝るとも劣らない業績を実現することを意味している。
なお、FCAとグループPSAの統合により、すでにステランティスはヨーロッパにおけるCO2排出量規制をクリアしているが。今後も低排出ガス車両(LEV:ハイブリッド、PHEV、EV)でマーケットリーダーを目指し、ヨーロッパでは2030年までにステランティスにおけるLEVの販売比率を7割以上とし(業界見通しを10ポイント上回る)まで徐々に引き上げていく予定で、アメリカでは2030年までに乗用車とライトトラックの販売台数のうち4割をLEVとする計画としている。
これらの戦略を実行するために、ステランティスでは2025年までに3兆9000億円を超える先行投資を計画。投資対象はソフトウェア開発に加え、合弁事業への資本参加が含まれる。その一方で、設備投資と研究開発コストの対売上比率は、業界平均を3割下回るものに抑え、2グループ統合による成果を生みだしている。
またステランティスはヨーロッパにおいて商用車ビジネスをより確固たるものにする考えで、北米においては商用車のさらなるポジショニング強化を図る。その上で、電動化された商用車のリーダーを目指すとしている。
そのため今後3年間で、すべての製品ラインアップとすべての地域において商用車の電動化を推進。そして2021年末までに発売開始を予定している水素燃料電池の中型バンの市場投入も計画されている。
またステランティスは電動化を推進するにあたり、電動車両用バッテリーの調達は2025年までに130GWh以上を確保することが含まれており、2030年までには260GWhを調達する計画である。バッテリーと付随するコンポーネントの調達には、北米とヨーロッパにある5つの「ギガファクトリー」が重要な役割を果たすが、すでにパートナーとは追加の調達計画について調印済みである。
なおヨーロッパではACC(Automotive Cell Company:グループPSA、トタル、オペルなどが出資しするフランス独自のバッテリーメーカー)がバッテリーの供給を担当し、中国、アジアではCATL、BYD、サムスン、LG化学と契約済みで、アメリカ市場では近日中にバッテリー・サプライヤーが決定する見込みだ。
またステランティスはアメリカとヨーロッパのリチウム加工処理2社とリチウムの持続的な調達を保証することを目的に覚書(MOU)を交わしている。リチウムは今後調達が最も深刻になる素材といわれており、リチウム調達計画はステランティスのサプライチェーンのなかに組み込み済である。
調達戦略に加え、ステランティスではバッテリーの技術開発とACCにおける製造の相乗効果により、今後バッテリーのコスト削減につなげる計画で、電動車両のバッテリーパックは2020年から2024年にかけてコストを4割以上削減することを目標にしている。その後2030年にかけてさらに2割削減する計画だ。
ステランティスではバッテリーパックはまだコスト削減余地があると見ており、パッケージの最適化、モジュールフォーマットの簡素化、バッテリーセルの大型化とバッテリーの化学的性質の改善によって達成できると見込んでいる。
また、同時にバッテリーのリペア、再生、中古バッテリーの2次活用やリサイクルなどを通じて、バッテリーのライフサイクルから得られる価値の最大化に努め、最終的にバッテリーのライフサイクルのクローズド・サイクル化を目指している。
マルチ・ブランド戦略
ステランティスは商品を適正な価格で販売することを事業の優先順位の一つに掲げており、2026年までに電動車両の保有コストを現在の内燃機関エンジン(ICE)と同等にすることを目標にしている。
同時に、ステランティスは電動化において、全ブランドを画一に規格化するという方法論は採ら採らず、14のブランドにはそれぞれ際立つ個性があり、電動化にあたってはブランドのDNAをより強化して「ベスト・イン・クラス」のブランドとすることを目指すことも特長だ。
今回、ステランティスでは電動化にあたってのブランドごとのステートメントを決定している。
アバルト:人々を熱くし、地球は熱くしない。
アルファロメオ:2024年からアルファロメオはアルファeロメオに。
クライスラー:新世代のファミリーのためにクリーン・テクノロジー投入
シトロエン:電動化ですべての人々に幸福を
ダッジ:道を激走しながら地球を守る
DAオートモビル:ツーリングの楽しさの極致を追求
フィアット:すべての人がグリーンであることが真のグリーン
ジープ:排ガスゼロがもたらす自由の境地
ランチア:地球を護るために最善のエレガントさを追求
マセラティ:電動化によるパフォーマンス、ラグジュアリーの頂点
オペル/ヴォグゾール:グリーンさが本当のクール
プジョー:サスティナブルなモビリティをより良質に
ラム(RAM):サステイナブルな地球を目指す
商用車:電動化商用車のグローバルリーダー
電気自動車のハードウエアと充電インフラ
EVの普及に不可欠なのが航続距離と充電スピードである。ステランティスはこの課題に対し、航続距離で500~800km、充電スピードで1分当たり32kmの航続距離確保を実現するEVの開発に取り組む。
また個人、法人、フリート事業者に最適な充電ソリューションを提供し、電動車両の保有体験をストレスフリーにしていく。グリーンエネルギーを日常的に活用できるスマート充電や、既存のパートナー技術を用いたスマートグリッドの活用などを視野に入れている。
ステランティスではすでに締結済みの覚書「Free2Move eSolutions」と「Engie EPS」と共同で、ヨーロッパ全土に急速充電のネットワークを構築し、顧客の利便性を高めていく。これは、アメリカで展開されている「Free2Move eSolutions」ビジネスモデルのヨーロッパ版である。
そして各ブランドで電動化を進めるにあたって、そのバックボーンとなる新たなEV専用のプラットフォームを開発。これらのプラットフォームは優れた柔軟性(全長と全幅、ボディ形式)を持つとともに、モーター、インバーターなどコンポーネントの共有化を進めることで年産200万台という、スケールメリットを享受することが可能になるとしている。
【EVプラットフォーム】
・STLAスモール:航続距離500km(バッテリー容量37~82kWh)
・STLAミディアム:航続距離700km(87~104kWh)、
・STLAラージ:航続距離800km(101~118kWh)
・STLAフレーム:航続距離800km(159~200kWh)
というラインアップで、航続距離は競合車をすべて上回るとしている。
パワートレーン、つまり駆動モーターは3タイプのEDM(エレクトリック・ドライブ・モジュール)を開発し、それぞれがモーター、ギヤボックス、インバーターから構成されている。いずれのEDMもコンパクトで柔軟性が高く、全てのEDMがFF、FR、AWD、4xe駆動の全てのバリエーションに対応できるようになっている。
またモーターと同様にインバーターなどパワーエレクトロニクスも共通化、モジュラー化する。もちろん最新のSiCパワー半導体も導入する計画だ。
こうして、4タイプのプラットフォームと3タイプのEDMに高密度バッテリーを組み合わせることによって、ステランティスの電動車両は電費性能、航続距離、充電スピードのいずれをとってもベスト・イン・クラスとなる。
ハードウェア・アップグレード用のプログラムやOTA(オーバー・ジ・エア)によるソフトウェア・アップデートも取り入れ、プラットフォームの長寿命化が可能になる。ステランティスはブランドごとの個性を際立たせるために、ソフトウェアと制御はすべて内製するのも特長だ。
バッテリーパックは様々な車両に適応できるモジュラー式を採用。都市部で使われる小型車向けの低価格バッテリーに加え、ハイパフォーマンス車両やトラック向けには高密度タイプを搭載する。また、バッテリーはニーズに合わせて、ニッケル・コバルトフリー・タイプと高密度タイプの2タイプを2024年まで使用していく。そして2026年には全固体バッテリーを搭載した製品を投入する計画としている。
こうしたバッテリーセルの開発と製造だけでなく、複数のキーテクノロジーは開発中、もしくは開発を完了している。それらはeパワートレーン、eトランスミッション、デジタル・コックピット、パーソナライズド・コネクテッド・サービスなどである。デジタル・コックピット、コネクテッド技術については先日、台湾の鴻海グループとグローバル契約を実現している。
ステランティスは、トヨタ、フォルクスワーゲン・グループに次ぐ世界第3位となり、電動化、コネクテッド・サービス、ADAS開発、部品調達などでスケールメリットをフルに活用し、より高い収益率を目指している。
また傘下の各ブランドは2024年から2030年とタイミングに相違はあるものの電気自動車、水素燃料電池、PHEVなどにより大幅なCO2削減を目指し、同時に不可欠な大量のバッテリー供給体制をいち早く構築していることは注目に値しよう。