プジョーブランドとして初のミニバン5008が2013年2月25日より発売されたが、さっそく試乗のチャンスに恵まれ、そのステアリングを握ってきた。
この5008はそのネーミングからプジョーの最上級モデル508派生のミニバンかと思いきや、プラットフォームはシトロエンC4ピカソと共通という。ボディサイズも508より小ぶりで全長4530mm×全幅1840mm×全高1645mm、ホイールベース2725mmというミドルサイズのミニバンと同程度だ。しかし、車格的にはプレミアムクラスのミニバンであり、コンフォートドライビングとシートアレンジメントに主眼を置いて開発されている。日本に導入したモデルはプレミアム(300万円)とシエロ(330万円)の2グレードで、いずれも7人乗り。
この5008は欧州では2009年から発売されており、ようやく国内導入がされたモデルである。車両価格が300万円前後、ミドルサイズのミニバンで7人乗りというクラスが(欧州では5人乗りもある)、国産を含めてもモデルラインアップが薄い。今回の5008の導入はそのフィールドでのニーズがある、そういう判断がされてのものだと想像できる。
直接のライバルとなるモデルは限定しにくいが、輸入車であればフォルクスワーゲンのトゥーランか。車両価格は294万円〜348万円で、5008の300万円〜330万円なので競合することになる。ボディサイズではトゥーランに対し5008が全長で+125mm、全幅で+45mm、ホイールベースで+50mmと大きく、そのため居住空間ではアドバンテージがある。
国産ミニバンではトヨタ・ノア/ヴォクシーやホンダ・ステップワゴン、マツダ・プレマシー、スバル・エクシーガあたりが7人乗りのミニバンとなるが、いずれも量販カテゴリーであるため、インテリアの品質や質感などにおいて、5008がアドバンテージを持つ。ただスライドドアかどうか、というポイントでも選択は分かれる。5008は通常の開閉式ドアなので、プレマシーやステップワゴンなどのユーザーとは範疇が異なるかも知れない。
5008の7人乗りシートはすべて独立タイプで、2列目のシートは3席ともシート幅がそれぞれ44cmを確保している。また7席すべてに3点式シートベルト、ヘッドレストが装備されている点でも国産車より優位だ。
3列目のシートはフロア床下に簡単に収納でき、ラゲッジスペースがフルフラットになり使い勝手がいい。2列目、3列目のサイドウインドウにはサンシェードもあるのが、プレミアムモデルらしい装備と言えるだろう。
乗用車同様の感覚でドライブできる
走行性能においてコンフォートドライブに気を配る5008は、同じくミニバンでありながら走りを楽しめる要素を持つ、トゥーラン、マツダ・プレマシー、トヨタ・ウイッシュ、エクシーガとの比較になるのかもしれない。
そのドライブフィールだが、すぐに感じるのはミニバンを運転しているという感じではなく、あくまでその操作フィールは乗用車ライクだ。ドライビングポジションが高いので、乗用車とは視点などが明らかに異なるが、それでも乗用車を運転しているように感じてしまうのだ。
その理由はミニバンにありがちな、背後にルームスペースを背負っている感じが全くしないこと。かつてのミニバンは貨物=バンからの発想で乗車人数を増やしミニバンとしていたモデルもあった。そのため、運転席背後のルームスペースを常に意識しなければならなかった。現在は乗用車とプラットフォームを共有するモデルがほとんどだが、それでもスペースというか部屋を背負っている感じのモデルが多い。
それがプジョー5008は、乗用車と同じ感覚でドライブでき、振り返らないと3列シートであることを忘れてしまうほどなのだ。ちなみにC4ピカソのプラットフォームは、シトロエンC4やプジョー307、308と共通になる。搭載エンジンは1.6Lのツインスクロールターボで、PSAグループとBMWが共同開発したコードネーム「プリンス」エンジンだ。汎用性も高く、同じプジョーのRCZや508、308などにも搭載される。そして第2世代となるアイシン製の6速ATが搭載され、JC08モードで11.7km/Lという燃費性能を持つ。
サスペンションはフロントがストラットでリヤがトーションビーム。FFモデルとしてはオーソドックスなレイアウトだが、そのハンドリングは実にプジョーらしいしなやかでありながら、しっかりとした走りに仕上げられている。特にリヤのトレーリングアーム取付け部のブッシュにはオイル封入式のラバーブッシュが採用され、後席の乗り心地はもちろんダイアゴナルロール姿勢をつくる上でキーポイントとなっている。
そして直進性においても、ステアリングの座りがよく安心感が高い。切り始めの微小舵角にもきちんと反応し、切り増し、切り戻しもプログレッシブなフィールが手に伝わってくる。電動パワーステアリングのアシストはコラムタイプだというが、電動特有のゲインもなくスムーズだ。もっともシンプルでオーソドックスなアシスト方法でありながら、ここまで違和感なくステアリング操作をアシストし、またサスペンションでもスタンダードなレイアウトにも関わらず、プジョーらしさをきちんとクルマに反映する。そのクルマ造りにおける技術レベルの高さと感性にはただ驚くしかない。
ちなみに5008はプジョー発祥の地、フランス・ソショーで生産される。日本国内には約80万台のミニバン市場があり、実に4台に1台がミニバンという特殊なマーケットだ。その市場にいよいよプジョーも参入してきて、国産車からの乗り換えユーザーも視野に入れた戦略が展開されるだろう。
現在、プジョーブランドでは、続々とニューモデルを導入しラインアップを拡充している。その中の1台としてラインアップに加えられた5008は、幅広いユーザーニーズに対応していくことになるだろう。この傾向はこれからも続くということなので、今後のプジョーから目が離せない。