【プジョー】プジョー208試乗記 走りの気持ちよさ、質感の高さ、充実装備でBセグメントの頂点に躍り出た

マニアック評価vol142

2012年11月1日から新型プジョー208の発売が開始された。プジョー208は、従来モデル207の後継モデルで、PSAグループの「PF1プラットフォーム」が採用されている。しかし、コードネームは「プロジェクトA9」と呼ばれ、新型208の開発コンセプトは「Re-Generation」(再生)とされた。つまり、単なる207の後継モデルではなく、すべてを見直し、革新するという意味だ。実際、208はプジョーの中でも最量販車であり、屋台骨を支えるモデルで、プジョーの未来を切り開くことや、新たな方向性を具現化したモデルと位置付けられる。

カテゴリー的には207同様にBセグメントの中心に位置するクルマだが、208のボディはダウンサイジングと大幅な軽量化、そしてデザインや品質を大幅にレベルアップさせることが開発目標とされている。

ポジショニングとしては、従来のBセグメントのど真ん中から、価格は維持しながらもプレミアムBセグメントへアップグレードさせる狙いがあり、より高い商品力、競争力を持つことが開発目標だ。こうした目標を実現するために、基本設計、スタイリング、人間工学、燃費、ドライビングプレジャーといったすべてを革新する必要があったわけだ。

2ボックス・ハッチバックのカテゴリーは、パッケージングの方程式を守ることでは、強い個性を表現しにくいという背反性を持っているが、208はデザインで革新的な手法が採用されている。

208のエクステリアはどのクルマにも似ていない、強い個性と彫刻のように美しくつくり込んだ工芸的な美しさと、存在感で強いインパクトを与える。デザインのキーワードは、「直感的、俊敏、活発、飛躍感」などだが、それらが巧みにまとまられていることが感じられる。

この新たなデザインを間近で見ると、ボディのプレスラインを鋭角的に処理せず、曲面を駆使することで彫刻的な美しさ、立体感を生み出していることがわかる。例えばAピラー、Cピラーの根元付近でも3次元の曲面が駆使されるなど常識を打ち破るデザインの巧みさと製造技術の高さがわかる。

こうした細部のデザインのつくり込みで、どのクルマにも似ていないデザイン的な個性、クラス随一というべき存在感が感じられる。

208のボディサイズは、207と同じ2540mmというホイールベース、全高も同じ1470mmで全幅もほぼ同等の1740mmだが、全長は4mを切る3960mmとなり、フロントオーバーハングは-75mm、リヤオーバーハングは-10mmとなっている。ボディ全長はダウンサイズされ、オーバーハングが短縮された分だけ視覚的にタイヤの踏ん張り感や密度感が高まっている。

居住スペースは逆に拡大され、特にリヤシートの足元スペースとトランク容量が広げられている。リヤシートに座ると、腰や背中のホールドもしっかりしており、前席と足元とのスペースは広く、長時間のドライブでもリヤ席の快適性は十分保たれるはずだ。

このクラスで100kgを超える軽量化を行うため、ボディ骨格はアルミ材、高張力鋼板、超高張力鋼板を多用し、剛性・質感を大幅に高めるためにレーザー溶接をルーフサイド全体に採用するなど、技術的に見てボディづくりは相当に飛躍している。208のボディ骨格の詳細は公表されていないが、一目見て驚かされるのはサイドシル部の幅広さ、太さだ。ポルシェ並みの太い骨太なサイドシルは、ボディ剛性向上に並々ならない努力をしていることが感じられるが、実際にステアリングを握ってみると、印象が今までの常識とは違うことに驚かされる。

ドアを開けてシートに腰を滑り込ませ、インテリアを眺めると208の新しい世界が実感できる。ステアリングホイールは350mmφ。極太のグリップで、並のスポーツカー以上のステアリングホイールだ。無論これは意図があってのことで、普通ならステアリングホイールのリムの中でメーターパネルを視認するが、208の場合はメーターパネルはステアリングホイールより上に位置する。

デザイン意図は、視線移動が少ないヘッドアップディスプレイに近い位置にメーター類をレイアウトし、そのためステアリングホイール径を縮小しているのだ。

センターにフローティング形状でマウントされている、7インチサイズのタッチスクリーンが標準装備される。このディスプレイは、車両情報、USB接続オーディオメディアなどに対応している他、オプションでナビゲーションシステムに対応する。

シートはやや小振りで、乗員の身体をしっかりホールドするタイプだ。このシートのフィット感も文句なしだ。しかしそれ以上に、シートの仕上げの質感や、ドア内装の質感の高さとデザイン性も、クラスの常識をはるかに超えている。

現在のBセグメントのクルマの中でも、208の質感の高さとクールビューティとも表現できるデザイン性は圧倒的にトップに位置するといえる。

新型208のグレードは、現状では「プレミアム」と「シエロ」の二つだが、「プレミアム」はファブリックシート、「シエロ」はレザー+ファブリックシートという他に、シエロはアルミペダル、バックソナーなど装備をアップグレードしたモデルだ。

その一方で、オートクルーズやスピードリミッター、左右独立エアコン、オートライトなどは両グレードで標準装備となっている。こうした装備の充実度でも他車を凌駕している点も特筆されるべきだろう。

「プレミアム」、「シエロ」の2グレードはこれまでにも搭載されていた1.6Lの自然吸気エンジンと、AL4と呼ばれる4速ATの組み合わせだ。いずれも新鮮さはないのだが、熟成具合には驚かされる。低速からの滑らかな加速感や振動の少なさ、アクセルを踏み込んでの加速時の乾いた心地よいサウンドなど、さまざまな点で熟成、チューニングが深化していることが感じられた。ダッシュ力も活発で表示パワー以上の活発なフィーリングの一方で、車庫入れやパーキング時の微低速でのコントロールのしやすさも秀逸だった。

AL4もまるで新世代ATのようなフィーリングに生まれ変わっている。ダイレクト感、ショックがほとんどない変速、ドライバーの運転意志や操作を的確に読み取るアダプティブ制御など、AT制御は申し分ない。アダプティブ制御の効果で、アクセルを大きく踏み込んでの加速後は、アクセルを抜いてもシフトアップせず同じギヤを維持するので、ワインディングでも「D」レンジで気持ちよく走ることができるのだ。

「M」ポジションでのマニュアル操作でも変速レスポンスは小気味よい。もちろん4速のため、100km/h巡航は2800rpmと今時のクルマにしては回転数が高いという難はあるのだが、この回転数での巡航でも室内は静かでストレスは感じられない。

プジョー208の真髄はやっぱりハンドリングや走りにある。しっかりとしたボディでありながらドイツ車のようなソリッドな感じを与えず、走りのフィーリングはあくまで軽快だ。1.6Lエンジンを搭載する208は前輪荷重が740kg、後輪荷重が420kgで、前後荷重配分は64:36でフロントの荷重が特に軽いわけではないのに。

グリップの太い350mm径のステアリングは見るからに重そうな感じがするが、拍子抜けするほど軽い操舵力で、ステアリングを切ると気持ちよく車体が反応してくれる。感覚的にはセンター部分がしっかりしており、小舵角では穏やかに滑らかに反応し、舵角が大きくなるにつれてしっかりステアリングが切れるフィーリングだ。そして路面インフォメーションの伝え方も正確そのものだ。

車速が70km/h付近からステアリングは重めに変化し、ニュートラル付近の締まりがさらに強まってくる。だから100km/hでの巡航での直進安定感は抜群のフィーリングで、ステアリングを握る心地よさは言葉では表現しにくいが、100km/hのクルージングでこれだけ気持ち良さを味わえるクルマはそうそうないし、電動パワーステアリングでこうした上質感のある感触を生み出していることに驚かされる。

傑出した安定感は、Bセグメントという小さなクルマに乗っている感覚ではなく、はるかに大型のクルマのように感じられる一方で、操舵に合わせて小気味良い反応を示してくれる。

洗練の極みとも言える操舵フィーリングと同時に、乗り心地や接地感についても異次元のレベルに仕上がっている。試乗車はまだ2000km程度の走行距離であったが、もう少し走り込めばさらにリファインされるだろう。

サスペンションの動きの軽やかさと、タイヤの接地感はスピードが高くなるほどエモーショナルに感じられる。首都高速の中速カーブなどで軽くロールした時の4輪の接地感と、正確なステアリング・フィールのハーモニーはまさにプジョー208ならではの境地と言える。

こうした走りを支えるボディやシャシー、ステアリングの剛性は高いのだろうが、それをダイレクトに伝えず、むしろ軽やかさや心地よいスポーティさに翻訳してドライバーに伝えるという洗練された技は、まさに走りの「Re-Generation」であり、現時点でBセグメントの新たな頂点に位置するといえる。また「プレミアム」が216万円、「シエロ」が240万円という価格は商品性を考えればコストパフォーマンスは優秀だ。

今回試乗した「プレミアム」、「シエロ」という1.6Lシリーズは、実はプジョー208の第1弾に過ぎず、やや遅れて156psの1.6Lターボエンジン/6速MTを搭載する208GTが、そして年内には新開発された3気筒1.2Lエンジン/5速MTを搭載した3ドアのベースモデル「アリュール」(199万円)が導入される。2013年にはアリュールにEGS(5速AMT)、アイドリングストップ・システムなどを追加投入。そして2013年秋頃には200psというハイパワーの1.6Lターボを搭載した208GTIの導入が予定されている。

今回の試乗で、新生プジョー208が激戦区のBセグメントの中で、装備や走り、洗練さ、質感、コスト・パフォーマンスなどにおいて新たなベンチマークとなったと実感でき、追加される新たな機種に対する期待はさらに大きく膨らんでくる。

プジョー208諸元表

プジョー・ジャポン公式サイト

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