【プジョー】新たなフラッグシップ508の味わいは、クラスを超えるレベルだ!(津々見友彦氏試乗動画付き)

マニアック評価vol58

2011年6月9日、プジョーの新たなフラッグシップモデルである508/508SWが日本でのデビューを飾った。アッパーミドルクラスの新型508は従来の407の後継車であり、607ユーザーをもカバーするプジョーのトップレンジとしての使命を担っている。

中国市場の成長が開発にも影響

407はプジョーにとって308と並ぶ基幹モデルでもあり、その果たす役目は重要である。プジョーは近年順調に成長しており、販売台数は世界弟9位、欧州メーカーとしては4位に位置している。その主な躍進の原動力となっているのは、中国、ロシア、南米、アフリカ、中近東であり、欧州以外での売上は全体の46%を占めている。なかでも中国は対前年比で+35%と成長しており、重要なマーケットとなっている。また、グローバルで売上を伸ばしている要因を、プジョーではデザイン力の高さをそのひとつとして挙げている。

このような状況から、508の生産はフランスのレンヌ工場と中国の武漢工場の2カ所で製造されている。フランスのレンヌ工場はプラットフォーム3という大型車のラインを持ち、この508のセダン/SWのほか、プラットフォームを共有するシトロエンC5も製造している。一方の武漢工場は中国で販売するセダンのみを製造している(2011年4月より操業)。

目標の販売台数も、2012年では20万台としているが、その内訳を見ると欧州全体で11万5000台に対し、中国だけで6万5000台を目標としている。そして日本を含むその他の市場全体で2万台という構想であり、いかに中国が巨大マーケットであるかを改めて感じさせられる。さらに興味深いのは搭載されるエンジンの比率で、グローバルではディーゼルが90%に対してガソリンは10%だそう。そろそろ日本国内でもディーゼルへの認識を改めるべき時が近いと感じる。そして北米を除く、世界の自動車メーカーの構想との乖離を縮め、積極的に市場流通させるべきだろう。

燃費向上と市場ニーズの反映がテーマ

さて、その508は冒頭で述べたように407と607の後継モデルである。開発の主眼には燃費の向上と、市場ニーズを取り入れたクルマ造りを掲げている。燃費向上は軽量化とエンジンのダウンサイジング、空気抵抗の低減が主なポイントであり、商品企画として『欧州で造ったものを世界で販売する』という考え方から、『マーケットニーズに応えるクルマ造りにする』という転換があり、その結果、後席のスペース拡大、トランクスペースの拡大、そして中国のニーズも色濃く反映するというものになっている。

そして、プジョー自慢のデザイン、ハンドリングと乗り心地の進化を目指し、クラスのベンチマークとなることを目標にしていることからも、レベルの高い仕上がりが期待される。

1.6Lターボと第2世代ATの組み合わせ

日本における展開はエントリーモデルが「Allure(アリュール)」、上級モデルが「Griffe(グリフ)」の2グレードが基本。搭載されるパワーユニットはともに1.6L直噴のツインスクロールターボで、6速オートマチックミッションとの組み合わせだ。出力も156ps/6000rpm、240Nm/1400rpm〜3500rpmで共通である。希望小売価格(いずれも消費税込み)はセダンのアリュールが374万円、グリフが414万円。SWは同じ順に394万円、437万円となっている。

このエンジンはBMWとPSAグループで共同開発されたエンジンで、プジョーのRCZや207GT(スポーツモデル)、3008、308、シトロエンC4、BMWミニなど、恐ろしく汎用性の高いエンジンとなっている。組み合わされるミッションはアイシンAW製で、シフトアップ&ダウンがよりスピーディに変速する第2世代のATである。

↑16インチタイヤを履くセダンのエントリーグレードがこのアリュール。

サイズアップと軽量化を両立

ボディサイズは407よりひとまわり大きくなり、セダンは105mm長い全長4790(SWは4815)mmに拡大。全幅は15mmプラスの1855mmで、全高はマイナス5mmの1455(SW1505)mmとなっている。ホイールベースも90mm延長されており、これはリヤシートの余裕に反映されている。

当然ながらラゲッジスペースも拡大され、407と比較してセダンはプラス108Lの515L、SWは同じく112L増の560L(いずれもVDA法)の容量を確保している。セダンのトランクは最大幅147cmまで広くなったため、ゴルフバッグを真横にしての積載も可能になった。

↑従来モデルを上回るカーゴスペースを確保している。

これだけのサイズ拡大をしながらも重量では407より軽量としている。従来の2.2Lモデルと比較してセダンで40kg、SWで70kgものダイエットに成功。3.0Lモデルとの比較ではセダンで130kg、SWで160kgも軽く仕上げてきている。この軽量化の手段には高張力鋼鈑の多用、アルミ製ボンネット、マグネシウム製クロスメンバーなど、材料面での軽量化が行われているほか、フロントのサスペンション形式をダブルウイッシュボーンからストラットへと変更した構造面での軽量化も寄与している。

空力の改善は静粛性の向上にも貢献

そして空力のポイントではセダンがCd値0.26、SWでも同じくCd値0.27と優秀な数値を示す。ボディ全体を空力デザインとするほか、細かな点でも空力効果を狙う改善が行われている。そのひとつに、ルーフレールがボディと一体化されたこと(SW)や、ドアミラーと一体化したウインカー、ウオッシャーノズルをボンネットから排除したことなどが挙げられ、風切り音も同時に低減されている。

↑ルーフレールが一体化されてデザイン上も見栄えが向上したSW。
↑電動スライディングルーフはSW全車に標準装備。

気になる燃費だが、10・15モードで11.0km/Lであり、407の2.2Lモデルより17%、3.0Lモデルと比較すると33%も向上している。しかしながら、ライバルとなるであろうフォルクスワーゲンのパサートが18.4km/Lという突出した燃費を記録するだけに、大きなアドバンテージとは言いがたい。

↑上級グレードのグリフにはセダン/SWともレザーシートが備わる。

そしてクラスのベンチマークとなる品質を謳うだけあり、部品品質、組み立て品質、見た目の品質向上を挙げている。試乗会という短時間の中では、特にインテリアの高品質に好印象を持った。インテリアに関してはアウディと並び、トップクラスの品質であることは間違いない。特に遮音性は秀逸だ。そしてクラス初の4ゾーン独立エアコンの採用など、快適性もトップクラスである。アウディへ高品質なインテリアを提供するティア1企業であるフランスのフォルシア社(元々はプジョーの部品製造部門が独立)の協力も大きな後押しとなっているに違いない。

↑ヘッドアップディスプレイもグリフにのみ装備される。

 

軽めの操舵フィールはフレンチの伝統

さて、実際の乗り心地では、ストロークの長さを感じさせるフランス車らしい乗り味で、ステアリング操作もフランス車らしく軽めの設定になっている。フランスへの個人的なイメージだが、かつて馬力に対しての課税方式であったため、大柄のボディに小さいエンジンという組み合わせが一般的であった。プレミアムカーは一部の人たちに限られ、一般的には実用車を好む傾向が強いと感じる。
そしてラテンの血がそうさせるのか、追い越しは頻繁に行う、というのがフランスに対する勝手なイメージだ。プジョー508もその血統を受け継いでいることを実感した。冒頭、市場のニーズに合わせて車両開発した…とは言いながらも、やはりフランス流に対応していると思う。

そのひとつがハンドリングだ。ステアリングの操舵は軽く、ドイツ車のように重さを感じることはない。そして荒れた路面をハイスピードでぶっ飛ばすフランス人にはストロークのあるサスペンションが必要であり、ロングドライブをするための居住性・座り心地も確保するという部分もこの508は持ち合わせている。

もちろん、欧州車の基準である高速域での直進安定性は高く、安心感は高い。ステアリング操作では小舵角時の反応がダルではあるが、ニュートラルから2時ぐらいまでは素直に遅れることなく反応し、アッパーミドルクラスとしては標準的なものだろう。そして中、大舵角へと切り込んだ場合もクセはなく、切った量に対して素直な反応を示し、安心して操舵することができた。

↑グリフに標準装着となる17インチタイヤ&ホイール。

その際のサスペンションの反応も素直であり、急激にロールを感じたりヨーモーメントを感じたりすることはなく、コーナリングGに対してナチュラルであると感じた。ロール速度も一定速であるため急激な挙動変化もなく、安心してコーナリングができた。また、ピッチングの収束は早く、車体の上下動の収まりも良好。ストロークの長さを感じさせるだけにバウンシングやアンチダイブ、アンチスコートといった挙動が大きく出てもおかしくないが、これらの動きを感じることはなかった。

プジョーの味わいは不変の魅力

エンジンのフィーリングでは、1.6Lへと排気量がダウンしたが、1400rpmから最大トルクを発生するターボエンジンにはトルク不足を感じない。試乗会場は八ヶ岳山麓の小渕沢で、それなりに標高も高いシチュエーションだったが、上り坂であっても一向にパワー不足を感じることはなかった。ミッションの6速ATも変速ショックはなく滑らかで、上質な乗り味にマッチしていると感じた。

 

↑全車このシフトレバーとパドルの両方で変速操作が可能だ。

このアッパーミドルクラスのベンチマークを目指したプジョー508は、そのインテリアの上質感、静粛性においてはクラスを超えるレベルだ。なによりデザインが個性的で、一見してプジョーとわかるレベルの高い仕上がりを見せる。一方で環境性能、燃費においてはライバルのパサートに軍配が上がることになる。ただ、ボルボのS60やV60とはいい勝負であり、このクラスの相対評価として、それぞれがUSP(他にない特徴的な優位点)を持っているため、レベルの高い比較と言えるだろう。

また絶対的な評価としてはやはりフランス車の味、プジョーの味があるという部分がすばらしく、新たなプジョーの魅力を創る、まさにフラッグシップモデルに相応しいクルマである。そしてメインマーケットである欧州においてもドイツ車とは違う価値観での評価が存在することは間違いなく、その世界観において高い評価を受けることになるだろう。

↑メーカーオプションとしてAllureにGriffeには標準のキセノンヘッドライト(+15万円)、Griffeには18インチホイール(+6万円)が設定されている。

文:編集部 髙橋 明

撮影:中村宏祐

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