2011年9月にフランスのプライベート・カービルダーが製造するスポーツカーPGO「セバンヌ(Cevennes)」に乗るチャンスがあった。しかしPGO(ピー・ジー・オー)とは聞きなれない社名(車名)II だ。1980年に創業したということだが、市販モデルとしたは2000年のパリ・モーターショーで「SpeedsterII(スピードスター2)」のプロトタイプを発表したのが最初になる。
社名の由来はプレヴォー兄弟のジルとオリビエの頭文字を取ったもので、キットカー製造を始めたのが最初だ。そして2001年には南フランに生産拠点を築き、2002年に株式上場し、2003年にスピードスター2のホモロゲーションを取得している。従業員80名という規模の自動車メーカーだが、現在はパリのシャンゼリゼ通りにショールームを構えているという。
現在扱っているのは3モデルで、スピードスター2、セバンヌ、エムラ(Hemera)となる。スピードスター2とセバンヌは2シーターオープンモデルのロードスターで、エクステリアデザインが異なるという違いだ。エムラはシャシーやエンジン、ミッションなどのユニットは共通で、エクステリアがガラスハッチのクーペデザインとなっているモデルである。いずれのモデルも名車ポルシェ356をイメージさせる雰囲気があり、トリビュートモデルと言えるかもしれない。
プジョー製2.0Lを背後に搭載。車重は980kg!
今回試乗できたのはアバンギャルドなデザインのセバンヌで、その価格は519万7500円(消費税込、上記の2モデルの価格も同じ)からとなっている。基本となるシャシーはオリジナルの鋳鉄チューブラーフレームにプジョーの2.0L自然吸気で、パワー/トルクは140ps/195Nm というエンジンをミッドシップに搭載している。ミッションは4速ATと5速MTが選べ、サスペンションは4輪ストラットという構成になっている。装着されるタイヤは205/40R17サイズで、試乗車はBFグッドリッチ製を履いていた。
ボディは、ファイバーコンポジット製でモジュラー化されており980kgと軽量に造られているため、軽快なハンドリングの走りが楽しめる。そのボディサイズは全長3850×全幅1680×全高1200mm、ホイールベース2230mmとコンパクトであり、取り回しも非常に楽だ。ちなみに往年のポルシェ356は、全長4010×全幅1670×全高1330mmで、車重は865kgだった。
このPGOの各モデルはいずれも受注生産方式をとっているが、年間300台の製造が可能で、グローバルに販売展開をしている。そのため、左右どちらのハンドルの仕様を選ぶことも可能だが、日本に輸入されるモデルはUK仕様のモデルをベースに、保安部品などを国内仕様に適合させたモデルとなるため右ハンドル仕様となる。ちなみに現在、オーダーを受けてからの納期は約5カ月というから、この手の車両としては早い方だろう。
また、オーダーもかなり細かな部位までオリジナルに注文することが可能であり、フランス本社にあるデモカーでは、スワロフスキーを採用したラインストーン入りのモデルまで製作しているというから、注文できる範囲は広範囲で可能なようだ。
ハンドリングは軽快だが、フットワークは超硬派
さて、その走りだが、バリバリのスポーツカーをイメージさせるかもしれないが、乗り方としてはオープンボディを活かし、風や空気、雰囲気を感じるのが似合うモデルだと思う。
まずは、峠道を元気に走ってみる。ハンドリングはミッドシップであるため、フロントノーズの入りがよく軽快そのもの。ワインディングを楽しく走れるセッティングだ。サスペンションは硬めの設定で、低速域ではゴツゴツと路面からの突き上げがあり、中速域になっても硬めのフィーリングは変わらない。スポーツ走行メインのセッティングとしてもやや硬すぎるという印象であった。
そのためか、コーナリングでは、クイックに曲がれるものの、滑らかなコーナリングをするには、それなりに気合を入れてジワッと操作しないとヒョイヒョイと動いてしまう。だから、一定のコーナリングGをかけた状態でのコントロール性などが判断しにくく、またステアリングの戻し操作にも神経をつかうことになる。このあたりはクラシックなミッドシップスポーツカーを思わせるフィーリングだ。
個人的にはフランス車である特徴を活かした、しなやか、かつロングストロークなサスペンションの方が似合っているような気もする。もっともダンパーの減衰レベルを変えるだけでも大きく変化するので、好みに合わせてチューニングしていくという楽しみ方もあるだろう。
ハイテクはなくとも、レトロな味を楽しめる
エンジンは回転を上げれば、オリジナルのマフラーから心地よいエキゾーストサウンドを響かせ、ゆっくりとクルージングする時には静かになる。トルク感はフラットなため、ワインディングでも乗りやすく、また試乗した4速ATのミッションにはマニュアルモードもあるので、スポーツドライブの雰囲気を楽しむこともできた。
インテリアの造り込みは、ハンドメイドモデルなだけに味わいのある仕上がりとなっている。ホールド性の高いシートに身を沈めると、視界は低く、気分は高揚してくる。メーター類の視認性はそれほどほめられたものではないものの、ひとつひとつメーターやウォーニング・ランプなどはレトロ感あるコクピットだ。
トップはキャンバス製で、今はやりの電動開閉…というわけではなく、手動で昔ながらのオープンカーと同じ要領でルーフを開閉する。その閉める作業にもちょっとしたコツがあったりして、そこがまたこの手のクルマの楽しさだったりもする。
試乗会場に選ばれたのは初秋の山梨県・山中湖周辺。秋を感じさせる澄んだ空気や、森の匂いのする中をオープンボディのセバンヌで走れば、気分は徐々に穏やかになっていく。そんな風景の似合うクルマだった。
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文・写真:編集部 髙橋 明