2011年3月18日、サーブ社の高級モデル、9-5セダンがフルモデルチェンジを受け、発売された。
初代9-5(ナインファイブ)は1997年に9000の後継モデルとして登場した。そして2009年のフランクフルトショーで第2世代の9-5が発表されたが、それと相前後してGM資本の撤退、スパイカー社による買収という経緯があり、その後サーブ社の再生が軌道に乗り、2010年夏から生産が立ち上げられることになった。そのためサーブ9-5は、GM傘下での開発が行われていたが、実際の生産はスパイカー傘下のもと、従来どおりスウェーデン・トルールハッタン工場で行われている。
新型9-5のプラットフォームはGMグループのイプシロン・プラットフォームが採用され、オペル・べクトラの後継モデルであるインシグニアやビュイックと共通といえる。しかし9-5は、サーブのトップレンジのエグゼクティブカーとして企画され、スポーティで上質な走りと先進的なドライバー支援システムの採用、装備や安全性の充実をはかったモデルとして登場している。そして、日本にはベクター(FF、XWD=4WD)、エアロ(XWD=4WD)の3グレードが導入されることになった。競合車としてリストアップされるのは、アウディA6、BMW5、ボルボS80になるだろう。
デザイン&ボディ
デザインは、サーブならではのデザイン・アイデンティティと、コンセプトカー「エアロX」につながる先進的で簡潔なスカンジナビアン・デザインを融合させている。エアロXとは2006年のジュネーブモーターショーにて2シーターのスポーツクーペをサーブが発表したコンセプトカーである。つまり、サーブ・デザインのエッセンスを受け継ぎながらとてもモダンなルックスが得られているのだ。そしてデザインテイストとして有機的なフォルムを取り入れているのも特徴になっている。
キャビンはより広く、ドライバーオリエンテッドなデザインになっている。特にインスツルメントパネルのデザインや計器類は航空機デザインを受け継いでおり、新たに速度やエンジン回転数をフロントガラスの照射するパイロット・ヘッドアップディスプレイ(HUD)も新採用している。
後席は3名乗車のスペースを備え、オプションとしてフロントシートバック背面にエンターテイメントディスプレーも装備できるなど、後席の快適性も重視していることが伺われる。また室内の表皮もプレミアムセグメントにふさわしく、厳選された素材を駆使しクォリティの良さを示している。
外見的には、大きくラウンドしたフロントガラスと一体につながるサイドウインドウ、氷塊のイメージのヘッドライトなどはサーブのニューデザインの特徴といえる。エアロダイナミクスも徹底的に洗練され、Cd=0.28を実現し、またフロントアクスルはゼロリフト、リヤアクスルはダウンフォースが得られるようになっており、空力的な安定性が高められている。また衝突安全性では、ユーロNCAPで最高評価を得るなどトップレベルを実現している。
エンジン&ドライブトレーン
エンジンは直列4気筒の2.0LターボとV6型2.8Lターボの2種類。なお現地仕様ではバイオエタノール(E85)の共用タイプも設定されている。いずれのエンジンも、チェーン・カムドライブ、4バルブ、ナトリウム封入式排気バルブ、レーザーエッチング処理シリンダーボア、オイルジェット式ピストンと高価なパーツも採用し、先進的なエンジンとなっている。
オペルやシボレーに搭載されるGM系の2.0Lエコテック・エンジンは86.0×86.0mmのボア・ストロークで、圧縮比は9.5。直噴、吸排気カムに可変タイミング機構を装備している。また、2次振動を低減するバランサーシャフトも備えている。ターボはツインスクロール式を採用し、出力は220ps、最大トルクは350Nmを2500rpmで発生し、したがって強力な低速トルク型といえる。
FFモデルの0→100km/h加速は7.9秒、最高速は240km/hである。CO2排出量は198g/km(EU計測)という性能だ。一方の2.8Lエンジンは、60度V6型で300ps、400Nmを発生する。最大トルクバンドは2000〜5000rpmとワイドレンジになっている。0→100km/h加速は6.9秒、最高速は250km/h。CO2排出量は269g/kmとなっている。(EU)このV6型エンジンも吸排気カムに可変バルブタイミング機構を装備し、ターボにはシングル・ツインスクロール式を採用し、トランスミッション上に配置している。冷間始動時に作動するエアインジェクターを排気マニホールドに備えることで触媒温度を上げ、クリーンに排気する配慮も見られる。
トランスミッションは6速MTと6速ATがラインアップされるが、日本導入モデルは6速ATのみとなる。ATはセントロニック・マニュアルモード付きである。
シャシー
サスペンションは、2種類設定され、2.0LのFFモデルはフロントがストラット式、リヤが4リンク式になっている。XWDモデルのフロントはハイパーストラット式で、リヤがHアーム式だ。
このハイパーストラット式とは、アッパーボールジョイントのピボット点をホイール側に独立して設定することでキングピン傾斜角、オフセット量を極小化させているため、高いレベルのスポーティで心地よいハンドリングを実現している。一方、Hアーム式リヤサスペンションは2重防振マウントを採用しているため、振動騒音を低減し乗り心地、ロードホールディング性を高めている。
そして、新たに採用されたドライブセンス(アエロモデルに標準装備)とは、ダンパーの減衰力、ステアリング操舵力、スロットルレスポンス、ギヤシフト、XWDのリヤ駆動力配分などをリアルタイムで総合的に変更できるシステムであり、セレクターは、I(インテリジェント)、S(スポーツ)、C(コンフォート)から選ぶことができる。ちなみにIモードはオート制御となっている。また、ダンパーは電子制御により常時・連続的に減衰力を変化させるようになっている。
XWDは2.8Lターボ、2.0Lの両モデルに設定されるハルデックス4WDシステムだ。ハルデックスとはスウェーデンにあるティア1企業で主に、4WDシステムなどをVWグループやフォードグループなどに供給しているメーカーで、機能的にはアクティブ・オンデマンド方式となっている。連続的に前後トルク配分を変化させることができ、オーバーステア、アンダーステアも抑制するように作動する。またリヤデフに内蔵されるeLSDにより、トルクベクタリング機能も発揮される。つまり左右輪へのトルク変動を可能にしている。なおXWDモデルのサスペンションはスポーツ・サスペンションがセットで組み合わされ、よりスポーティな操縦性が得られるようになっている。
ステアリングはモーター駆動の可変アシスト機構(WES)を装備し、油圧アシスト量をモーター制御する方式で、油圧は操舵時しか発生しないため、燃費低減にも貢献している。
先進装備
サーブ9-5は戦闘機パイロットと同様のパイロットHUDを備えている。車速、回転数、警告メッセージなどをサーブグリーン色でフロントガラスの前方に投影するシステムで、投影距離は2m前方のため、ドライバーはまったく視点移動の必要がないという特徴をもっている。
またバイキセノン・ヘッドライトは、アダプティブ制御を採用し、走行状態に適合する配光パターンを自動的に実行できるようになっている。つまり車速や操舵量、道路状況などに合わせ、ハイビーム、コーナリングビーム、市街地ビーム、雨や降雪パターンなどが自動選択される。
アドバンスドパーキングアシスト・インジケーター(Aero XWDに装備、Vectorにメーカーオプション設定)も装備される。路上に駐車できる広さのスペースを見つけたときに、駐車スペース内へハンドル操舵方向を誘導するというパーキングアシストシステムである。
リヤシートエンターテイメント・パッケージ(メーカーオプション設定)は、フロントシートバックの背面に8インチのディスプレー2台を備え、後席で映画やビデオ、音楽を楽しむことや、ゲームコンソールやビデオカメラ、TVチューナーといった外部機器も接続できるようになっている。
サーブ9-5は、プレミアムアッパーDセグメントのポジションを明確にするため、走りの基本性能から先進装備、インテリアの質感まで高い志のもとで造り込みを行っている。その一方で、これまでの航空機メーカー出自を生かした、ブランドアイデンティティを盛り込むことでサーブらしい存在感を訴求しているということだ。
文:編集部 松本晴比古