新型MINIは、21013年の東京モーターショーでワールドプレミアが行なわれ、ヨーロッパと同タイミングで日本市場で発売された。BMW MINIとなってから3代目となる今回は、最も大規模なモデルチェンジで、ボディが44mm拡大され全幅は1725mmに、つまり5ナンバー枠をついに超えたのだ。だから、もうミニではないと言うのも間違いではない。
もっとも全長3835mm(クーパーSは3860mm)、全高1415mm(クーパーSは1430mm)、ホイールベースは2495mmで、特に全長が4000mmを切っているので今時のBセグメントとしては全長が短いプロポーションを保っている。そして、2001年に登場したBMW MINIから13年目、2代目のMINIから7年目で、しかも空前のフルモデルチェンジにもかかわらず、新型MINIは相変わらず、スタイリングはどこが変わったかわからないと巷間で言われるほど巧妙にMINIデザインに仕上げている。
つまりMINIはデザイン、プロポーションはブランドとDNAを守る限り、変えようがないのだが実際には、側面衝突や歩行者保護性能を採り入れるためにボディの諸元は変更されている。また新たなデザインアイコンとしてΩ型のLEDデイライトを採用。その一方で上下方向に拡大し、シングルフレームとなったフロントグリル・デザインや、リヤランプのデザインはクラシックMINIへの回帰に見える。
しかし新型MINIのハードウエアは大変革され、全く新しいクルマとして登場したといって良い。プラットフォームはBMWの最新世代となり、型式記号も「R」から「F」に変わっている。次期型BMW 1シリーズもこのプラットフォームを採用すると噂されるものだ。
また搭載エンジンも、従来のプリンス・エンジンからBMW最新のBシリーズに切り替えられている。Bシリーズは完全なモジュラー設計で、3気筒、4気筒、6気筒のバリエーションに展開でき、1.2L、1.5Lというダウンサイジングされた小排気量版でも燃焼室の燃料センター直噴、ターボチャージャーを備え、1.5L・3気筒以上はバルブトロニック(連続可変バルブリフト/スロットルレス)も備えている。いずれもユーロ6適合だ。
新型MINIは、ベースモデルのONEがB38B12型と呼ばれる1.2L・3気筒ターボ(今後生産開始予定で現・未導入)、クーパーが1.5L・3気筒ターボ(B38B15型)、クーパーSが2.0L・4気筒ターボ(B48B20型)を搭載する。
MINIの中でも最量販モデルとなるクーペーでは、従来の1.6L・4気筒が1.5L3気筒ターボへとダウンサイジングされ、その一方で出力は112psから136ps、トルクは160Nmから220Nmへと向上し、さらに燃費は16%改善されている。クーパーSは出力で5%アップ、燃費は29%も改善されているからさすが、新世代エンジンの進化具合は大きい。
エクステリアと同様に、インテリアもMINIのデザインはクラシックMINI以来のデザインの縛りがあるので、新型MINIも丸型デザインのオンパレードである。しかし、従来と大きく変わったのはセンターの超大径スピードメーターがついに廃止され、超大径のLED照明に囲まれた丸型デザインの内側に8.8インチの液晶ディスプレイを配置し、一般的なセンターディスプレイという機能に変更されている。その代わりに、スピードメーターとタコメーター、フュエルゲージはステアリングの正面に置かれ、スピードメーターは小径の丸型、タコメーターはその左に半円型、フュエルゲージは右端で8セグメントの上下バー表示となっている。
トグルスイッチも残され、中央の赤いトグルスイッチがスタータースイッチになっている。このスイッチがエンジン始動前に赤く点滅したり、センターディスプレーの周囲にある大径のLED照明が走行モードに合わせて様々な色で発光したり、という演出は相当に過剰だが、MINIだから許されるということか。
運転席に座るとやはりタイト感が強い。思ったよりAピラーが前進しているが、斜め前方の視界は良好だ。しかし、大径の丸型LED発光リングに囲まれた中央の大型ディスプレイは運転席から見ると、発光リングの方が目立ってしまうような気がした。また、ステアリングホイールの正面にある小径のスピードメーターは外光が反射しやすく、走行中に見にくさを感じた。そして電動起立式のヘッドアップディスプレイもオプション設定されているが、これも必須装備とはいえない。
◆インプレッション
走り出してまず感じたのは、MINIではかつて感じたことのないほどのボディのしっかり感だ。走るスピードに関わらず、どっしりしたフィーリングがある。ステアリング・フィーリングも、中立から切り込んだ時まで滑らかで上質感が感じられるが、もちろんクイックなギヤ設定のため、操舵に対してボディは敏感に反応するようになっている。
走りは、いわゆるゴーカートフィーリングを前面に打ち出している。クラシックMINIのクイックなステアリングとラバーサスペンションが生み出すストローク感のない平行移動的なコーナリング、つまりゴーカート感覚は現在においてもMINIのDNAとして表現されいるわけで、その意味でMINIはちょっと特殊なハンドリング、乗り心地といえる。
新型MINIはこのクラスでは異例のドライブモード・スイッチを備えており、シフトセレクターの根元の大径のリングを回すことで、スポーツモード:最高のゴーカートフィーリング、ミッドモード:際立つMINIの走る喜び、グリーンモード:効率的な走る喜び、という3モードが選択できる。
ダンパーはスポーツかノーマル(ミッド、グリーンモードの場合)の2段切り替えとなるが、スポーツモードでは路面の凹凸で横っ飛びするくらい硬いフィーリングになりクイック感が強調される。ノーマル状態でも一般的なレベルから見れば硬目のセッティングといえる。ただし、ボディやサブフレームががっちりしているため、下品な振動感はない。
フラットな舗装路では面白さ満点だが、荒れた路面ではかなりクルマが揺すられるというのがMINIらしいと言える。ただ、クラシックMINIとは違ってステアリングにキックバックが来るわけではないし、ギヤ比こそクイックではあるが操舵フィーリングはかなり上品で、プレミアム・コンパクトらしい質感だ。
タイヤは今時にしては小径で、クーパーが175/65R15サイズ、クーパーSが195/55R16サイズが標準サイズとなっている。しかし、試乗車はいずれもオプションの205/45R17を装着していたので、ノーマルよりは硬めのフィーリングであったはずで、標準サイズであればもう少しマイルドさがあるはずだ。
クーパーとクーパーSを比較すると、クーパーSの方がアグレッシブだが、もちろん搭載エンジンが1.5L・3気筒直噴ターボ(136ps)と2.0L・4気筒直噴ターボ(192ps)という違いが大きい。公表されている0-100km/h加速はクーパーが7.8秒、クーパーSが6.7秒、最高速の比較では210km/hと233km/hだ。そもそもクーパーは従来型に比べ0-100km/hが1秒以上速くなっているわけで、十分に速いクルマになっている。
↑左から「グリーンモード」、「ミドルモード」、「スポーツモード」
乗り比べてみると、もちろんクーパーSの方がトルク感があり、加速が力強いのはいうまでもないが、吹け上がりの軽さ、滑らかさ、トルクのフラット感、6000rpmまできれいに回る1.5Lのでき具合もすばらしく、3気筒だからというエクスキューズはまったくない。また、いずれもサウンドチューニングが行なわれており4000rpm付近から爽快なサウンドが耳に響いてくる。
新型MINIのハイライトとしてはボディががっしりしていることと、この新世代エンジンの上質さの2点に絞られると思う。一方6速ATは欲を言えばもう少しダイレクト感やクイックシフト感が欲しいと思った。
新型MINIもエクステリアの多くのパーツからインテリアのトリムまで、カスタム化のために驚くほど多くのオプションパーツがあり、さらに新型はパーキングアシストパッケージ(12万3000円)、カメラを使用した衝突回避軽減ブレーキ(ドライビングアシスト:11万4000円)などもオプション設定されている。多くのオプションを選べば、結果的に購入価格はプレミアム・コンパクトのセグメントの中でもかなり高価なものになるが、MINIはやはりそういう楽しみも含めて評価すべきだろう。