メルセデスにおけるAMGやBMWにおけるMのように、MINIにもハイパフォーマンスモデルを意味するネーミングがある。それがここで紹介するJCW(ジョン・クーパー・ワークス)。かつてF1のコンストラクターをも努めたMINIの歴史的チューナー、ジョン・クーパーの名を語源とするネーミングだ。
JCWの語源は云々という話はマニアならすでにご承知のことだろう。なんたってハッチバックから最新のペースマンまで、そのすべてにJCWは存在する。さすがにクロスオーバーのときはスタンダードモデルからJCWの登場まで少し時間がかかったが、それも裏を返せばかなり完成度を高めたから。ハッチバックベースとは異なるクロスオーバーの大きくなったボディを、JCW基準まで持ち上げるのに、彼らもそれなりに苦労したのだろう。
そんなJCWにAT仕様が追加された。ハッチバックから最新のペースマンをベースにしたすべてのJCWに、である。
これまでJCWには6速MTしか用意されていなかった。それはこのモデルがレーシーであることを意味し、スタンダードモデルとの差別化を図った結果といっていいだろう。現に国際試乗会などではスタンダードモデルの試乗はATで、JCWはMTで、というパターンが多かった。
それも今回のこのAT登場で変わる。レーシーなJCWとてATで操る時代がやってきたのだ。
6速ATを搭載した理由はマーケティング的な見地からに他ならない。トランスミッションに選択肢を与えた方がマーケットは広がるのはいわずもがな。それにATの追加はJCWを単なるレーシーなモデルから、ハイブランドモデルへと格上げする。値段の高いハイパフォーマンスモデルを手軽に乗りこなせれば、自然とそうなるのは明白だ。冒頭に記したように、AMGしかり、Mしかり、である。ちなみに、お値段は全モデル「MT仕様+13万円」と一律のプライスレンジが形成される。この辺の明快さがなんともMINIらしい。
トランスミッションはアイシンAW製の6速AT(トルコン式)が搭載される。低速トルクに対応したセッティングのものだ。具体的にはヨーロッパで売られているクーパーSD用だそうだ。つまりディーゼル用。JCWは低回転から最大トルクを発生させるだけに、通常のガソリンエンジン用ではなくそちらが選ばれた。
マニュアル操作はシフトレバーまたはステアリング上のパドルで行なう。よくある右手アップ、左手ダウンではなく、ステアリング裏側を押してアップ、表側を親指で押してダウンとする。まあ、これはスタンダードモデルと同じなので、クロスオーバーを足とする筆者には都合がいい。それでもたまに違うタイプのクルマをテストした後は間違えてしまうが…。
反応はすこぶるよく、MTのときとは違った楽しみを与えてくれる。パドルをタップしてコーナーを攻める感覚は、いってしまえばイマドキのレーシングカーチック。ただ、正直トルクの太いこのエンジンはATモードのままで十分な気もしなくはない。アクセルの踏み方次第で反応は変わるが、かなり上まで回してくれる。
全体的な走りはあいかわらず見事の一言。特にこのクーペはハッチバックベースの中でも後発のため、ボディ剛性の向上云々といろいろと手が入っている。高速での走行安定性とコーナーで粘る足、追従するボディの一体感は、まんまレーシングカーといったところだ。しかも硬すぎない乗り心地がこれまた絶妙。これだけレーシーでありながらピッチングは予想以上に少ないのだ。「JCWはあくまでも日常使いの範疇にあります」、といっていた過去のインタビューを思い出した。
最後にひとつ。エンジン音もこのクルマのチャームポイントに加えておこう。ドライバーをその気にさせるこのサウンドもまた、絶妙の一言である。
MINI JCWクーペ
439万円(AT)/426万円(MT)