メルセデスのハイパフォーマンスモデルにAMGブランドがあるが、このところ急激にラインアップが増えている。Aクラスのコンパクトセグメントから従来のV型12気筒ツインターボエンジンを搭載するSクラスまで、多くのモデルにAMGがラインアップしている。今回試乗できたのはC43とSLC43。どちらも3.0L V6型ツインターボエンジンを搭載するモデルだ。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
AMGと名の付くモデルはエンジンで見ると大きく分けて5種類になる。Aクラスなどに搭載する2.0L 4気筒ターボがもっとも小さい排気量で、その上のクラスに今回試乗した43シリーズがある。そして4.0L V8型ツインターボ(M177型)を搭載するモデルはC63に代表される。また、同じ4.0L V8型ツインターボのドライサンプ式(178型)はメルセデスAMG-GT専用のエンジンとして、ラインアップする。
さらに排気量が大きいEクラス以上のサイズに搭載する63シリーズには5.5L V8型ツインターボがあり、そして最高峰に65シリーズとして6.0L V12型ツインターボがラインアップしている。
■AMGラインアップ増殖の理由
今回試乗したモデルはCクラスのAMGで「43(ヨンサン)」の名称が付いている。この3.0L V6型ツインターボは生産ラインで量産されるエンジンで、いわゆるAMGのONE-MAN ONE-ENGINEのフィロソフィーとは一線を画している。
当然、一人の人間が1基のエンジンを組み上げていく手作りのエンジンでは、量産は不可能だ。この43シリーズは、量産エンジンのチューニングバージョンとも言えるハイパフォーマンスエンジンで、AMGの世界観へのエントリーモデルという位置付けを設けているわけだ。
それだけに、「AMGらしさ」がなければ魅力はない。そのためエンジンだけではなくサスペンションや、トランスミッション、エクステリア、インテリア、そしてエキゾーストサウンドに至るまでAMGを満喫できるように造られているのが今回試乗した「メルセデスAMG C43 4MATIC」と「メルセデスAMG SLC 43」の2台だ。
■パフォーマンス
試乗した2モデルとも3.0L V6型ツインターボエンジンで、367ps/520Nmというスペックを持つ。これに9速ATの9G-TRONICを搭載。最初はCクラスクーペのAMG43から試乗した。この43モデルのコアバリューはテクノロジー、サウンド、デザインの3つであると説明があった。
テクノロジーでは、ハイパフォーマンスにチューンされたエンジンは、AMGダイナミックセレクトによって快適なクルージングからスポーツ走行までを可能にする制御がある。モードは5つあり、「E」のエコモードは中・高速巡航時にアクセルを抜くと、クラッチが切り離されセーリング走行する。(コースティング走行)つまり、滑空状態を維持するわけだ。もちろん、アクセルやブレーキ、シフト操作をすれば瞬時にクラッチミートされエンジン駆動される。
他に、「C」のコンフォート、「S」のスポーツ、「S+」のダイナミックモード、そして個別設定が可能な「インディビデュアル」がある。中でもS+モードを選択すると、43モデルのコアバリューである「サウンド」に大きな変化がある。つまり、シフトダウン時に自動でブリッピングしながらエモーショナルなサウンドを響かせるのだ。もちろんパドルシフトを駆使したドライビングはテンションを上げてくれる。
サスペンションでも「AMG RIDE CONTROL」スポーツサスペンションが装備され、コンフォート、スポーツ、スポーツプラスの3つのモードが選べる。このサスペンションは電子制御のダンピングシステムで、瞬時に減衰特性を変更することが可能だ。
また、ステアリングも電動アシスト量の変更が行なわれる「AMGパラメーターステアリング」を装備する。車速だけでなくドライブモードにも連動しているので、スポーティドライブにはアシスト量は減り、ダレクトなフィードバックが得られる。そして駐車場などの低速時にはアシスト量が増え、操舵力も非常に軽くなる設定だ。
そして4MATICの性能では以前、33:67のトルク配分だったものが31:69へ変更されよりFRよりになった制御に変更となっている。ただ、試乗は千葉県幕張近郊のフラットな一般道路だったため、こうした違いを体感するどころかAWDでのスポーツドライブ性の高さを体感することはなかった。
■見た目のカッコよさ
エクステリアでは、シングルルーバーのダイヤモンドグリルやAMGトランクリッド、ツインマフラー、19インチの専用AMGデザインアルミホイールが目を惹く。さらにブレーキキャリパーでは以前は「Mercedes-Benz」のロゴだったが、「AMG」のロゴに変更されているのはうれしい。もちろん、性能的にもフロントが360mm径のドリルドベンチレーテッドディスクに、リヤは320mm径と大径で、踏力にリニアに反応する頼もしい、安心感のある制動力がある。そしてボンネットを開ければ赤いVラインを大きくあしらったエンジンが目に飛び込む。
試乗車のインテリアはレッドシートにブラックインテリアの艶っぽい内装だ。高級ブランドのメルセデス・ベンツの中のさらに高級なAMGブランドに相応しい派手さと、高級感、そして色っぽさを持っていると思う。
■メルセデスAMC SLC 43
ロードスターモデルの43は、前述のようにエンジンは共通であるものの、全く異なる印象だ。つまり、C43よりもっとスポーティなモデルであると、試乗した瞬間から感じるのだ。これは装備品やルックス、サウンドなど視覚、聴覚への刺激による感覚だと思う。
例えば、ドラポジ。ドアを開けるとブラックレザーシートに赤いステッチのバケットタイプのシートが目に映る。Cクラスとは明らかにことなる低いポジションに乗り込み、真っ赤なシートベルトを締める。ステアリングのグリップの位置はバックスキンになっていて、レーシーだ。視界にはボンネットが見える。ロングノーズである印象を持たせたドラポジはSLCならではの快感だ。
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そして、センターコンソールやダッシュボードとの距離など、全体にタイトな印象はスポーツカーであることを感じさせる。それでいて、レザーの感触やピアノブラックのパネル、鈍く光るシルバーのパーツ類が高級車を手にしている満足感を掻き立てるのだ。
エンジンを掛ければ、コンフォートモードでも「いい音」を奏でる。もちろんバリオルーフを開けて。シフトレバー前には空調やラジオ、シートヒーターなどのスイッチ類が整然と並ぶ。このデザインもメカメカしく、男っぽいデザインだ。ただ、少し古臭くも感じるが。
ドライブは常にいい音を聞きながら、風を感じ、海岸線を突っ走った。パドルシフトを触る度にエンジンの音色が変わり、スロットルの開度にも反応するサウンドは気分を高揚させる。ボンネットを開けてみるとC43とは異なる真っ赤なストレートラインが走るエンジンがある。このあたりも同じエンジンの流用ではなく、専用であることを印象付ける細かな配慮で気分がいい。
試乗した2台の43モデルはいずれも1000万円を切る価格設定で、非常に魅力的だった。メルセデスがAMGのエントリモデルであると位置付けている理由を感じる試乗だった。
■価格(税込み)
メルセデスAMG C43 4MATIC:880万円
メルセデスAMG C43 4MATIC ステーションワゴン:952万円
メルセデスAMG C43 4MATICクーペ:905万円(試乗車)
メルセデスAMG SLC 43:970万円(試乗車)