メルセデス・AMG A45 4MATIC 4MATIC、アウディRS3スポーツバックはいずれもCセグメントのスーパースポーツモデルだ。日本でも、2.0Lクラスの高性能スポーツモデルとしてランサー・エボリューションとWRX STIがライバルとして競い合ったが、メルセデス・AMG A45 4MATICとRS3スポーツバックもそれと似たような関係にある。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
もっともこの2台は、700万円代という価格帯で、単にCセグメントのスポーツモデルというよりは、クラスの常識を超える本格的なスポーツカーというべき存在に仕上げられている。
メルセデス・AMG A45 4MATICは、Aクラスの追加モデルとして2013年7月に登場。最大出力365ps、最大トルク450NmのAMGチューンのM133型エンジンを搭載し、7速DCT(7G-DCT)に4WDを組み合わせ、0-100km/h加速4.6秒という性能を備えていた。
さらに2015年11月には改良が加えられ、エンジンの最高出力を21psアップして381psに。リッター当り出力は190.5ps/Lに達している。そしてマフラー内のフラップにより排気音を切り替える「AMGパフォーマンスエグゾーストシステム」、「AMG RIDE CONTROLスポーツサスペンション」を標準装備する。
アウディRS3スポーツバックは2015年10月に発売された。アウディRS3は先代モデルにも設定されていたが日本には導入されなかったので、このMQBプラットフォームのA3をベースにしたRS3が日本初登場となる。
RS3という車名からわかるように、A3シリーズの量産ラインではなく、アウディ・クワトロ社で開発、製造されるスペシャルチューン・モデルだ。エンジンはCGZ(EA855)と呼ばれる5気筒・直噴ターボ・エンジンを横置き搭載。トランスミッションは7速Sトロニック(DCT)で、クワトロシステムを装備。この2.5L・5気筒エンジンは367ps/465Nmという出力で、0-100km/h加速は4.3秒に達する。
まず最初に、それぞれのエンジンを眺めて見ると、AMG A45 4MATICのエンジンはM133型、つまり横置4気筒シリーズで、Aクラスに採用されているM270系列のエンジン。排気量1991ccで83.0×92.0mmのボア・ストローク。圧縮比は8.6で、最高過給圧は1.8barと高過給圧にすることで2.0Lクラス最高の出力を生み出している。当然ながら高過給圧に対応した高性能部品が採用され、それを組み付ける一人が1基のエンジンを組み立てるというAMG部門から生み出されるのも大きな特徴だ。
アウディRS3の直列5気筒エンジンは、RSシリーズ専用エンジンとしてクワトロ社で開発された。このエンジンはアウディのV型10気筒の片側という見方もできるし、そもそもアウディの初代クワトロの縦置5気筒2.2Lターボ・エンジンの血統を受け継ぐといった位置付けでもある。そのためこの5気筒エンジンは純スポーツカー用エンジンとして設計されていることに注目すべきだ。
排気量2480ccで、ボア×ストロークは82.5×92.8mm。圧縮比10.0で直噴ターボ(TFSI)。リッター当り出力は148ps/Lだ。最高過給圧は1.2barで、AMGエンジンと比べると高圧縮比/低過給圧となっている。量産タイプのアメリカ市場用の2.5L・5気筒はねずみ鋳鉄製シリンダーブロックだが、このエンジンはディーゼル・エンジン用に開発された高強度のバーミキュラ圧縮黒鉛鋳鉄製のシリンダーブロックを採用し、超薄肉構造とすることで強度と軽量化を両立させている。
メルセデス・AMG A45 4MATIC、RS3スポーツバックはもちろん特別なエンジンを積んでいるだけではなく、スポーツマシンにとって必要なものはすべて装備し、さらにその上でプレミアムカーにふさわしい装備や質感に仕上げている。ディテールや仕上げに対するこだわりは、こうした特別なスポーツモデルの購買層にはとても重要だ。
言い換えれば、動力性能の強烈さ以上に、ドライバーの五感に伝わる気持ちよさやエモーショナルな刺激、そして体に伝わる安心感や安らぎがすべて満足できるレベルでなくてはならないのだ。
◆メルセデス・AMG A45 4MATIC試乗
エクステリアは専用のデザイン・アイコンを備えているが控えめであるのに対し、インテリアはブラックに統一され、各部に赤色アクセントと、黒いカーボン生地のトリムを備え、一目でメルセデス・AMGであることがわかるデザインとなっている。
黒と赤のコントラストが強調され、わかりやすいデザイン・テイストといえる。ブラックに赤のラインを配したシートも専用スポーツシートで、ドライバーの体を強めにホールドしてくれる。
スターターを押し、コラムレバー式のAクラスとは異なり、センターコンソール部にあるセレクトレバーをDに入れればスムーズに発進する。もちろんエンジンの低速トルクは強力でフレキシブルなので、市街地ではごく普通のクルマのように扱うことができる。
アクセルを踏み込むと、AMGパフォーマンスエグゾーストからのサウンドを響かせながら強烈な加速が始まるが、フィーリング的にはいかにも高出力の4気筒ターボといった感じで、サウンドの演出を別にすれば十分実用エンジンといえる。
トランスミッションは7速のAMGスピードシフトDCTが採用され、ドライブモードに応じた変速が行なわれ、自動ブリッピング機能、レーススタート機能を備え、ベースのAクラスのDCTとは一味違うクイックな変速が楽しめる。その一方で高速道路の巡航は7速で1600rpm程度のため、クルージングは余裕たっぷりで快適そのものだ。
サスペンションはこの動力性能にふさわしく固められており、それでいて路面の凹凸にはひょこひょこはするもののガツンとくるショックはよく吸収されている。またステアリングもダイレクトで正確なフィーリングだが、過敏ではなく高速道路での巡航はきわめて安定感があり、GTカー的な性格であることが実感できた。
なおこのクルマの前後荷重配分は62:38で、これとオンデマンド式4WDを組み合わせているので、トラクション性能も強力で、雨が降っても安心感がある。
クルマを操る楽しさと快適性が高いレベルで両立されたクラスを超えた存在であり、価格に見合う熟成された1台となっている。
価格 メルセデス・AMG A45 4MATIC:713万円
◆アウディRS3スポーツバック試乗
RS3に限らずアウディのRSシリーズは、超高性能なスペシャルモデルにも関わらずエクステリアもインテリアもアグレッシブさを抑え、これみよがしな部分がないのが特徴で、分かる人にしか分からないのが憎い。
一見してRSと分かるのはドアミラーカバーがマットアルミ仕上げになっている点だが、前後のフェンダーも微妙に拡幅され、タイヤは235/35R19サイズが装着されている。そしてフロントのブレーキディスクはドリルド・ディスクであることはもちろん円周部が波形の2ピース式で、赤色の対向6ポット型キャリパーが組み合わされるなど、マニアックだ。
インテリアもシックで洗練され、上質感のあるアウディのインテリアだが、「RS」のバッジが控えめにDシェイプのステアリングに配されている程度だ。ただ、シートは専用のスポーツシートで、試乗車にはオプションのダイヤモンド柄ステッチ付きのレザー製だった。形状は本格的なスポーツシートだが見た目は上質、高級といった印象だ。
エンジンを始動すると、スターターが回転して一瞬の間があって点火する。この雰囲気はスーパーカーのエンジンと同じだ。ただ、この465Nmを発生するエンジンは1625rpmから最大トルクを発生することからもわかるように、市街地でも扱いやすい。
アクセルを大きく踏み込むと、このエンジンは多気筒エンジンらしい咆哮をともなって軽くシャープに吹け上がる。この吹け上がりの鋭さと滑らかさは4気筒エンジンを上回る味といえる。6800rpmからレッドゾーンに入るが、この6800rpmまで最高出力を維持し、途切れのない加速を味わうことができるのが醍醐味だ。
パドル操作でシフトダウンすると、ボボッと逆流音が響く。もちろんこれは点火タイミングのチューニングだが、このあたりもスーパーカーにも引けをとらない演出で、ドライバーの気分を高揚させてくれる。
ハンドリングも軽快でリニア感があり、正確そのものだ。このRS3の前後荷重配分は60:40で、5気筒エンジンを搭載しているにも関わらずフロントヘビー感はない。また当然ながらサスペンションも固められているが、乗り心地は引き締まった感じでゴツゴツ感がなく、スピードを上げれば上げるほど、路面との接地感が高まるという感じで、日本ではその真価を100%味わうことができないのが残念という他はない。
価格 アウディ RS3スポーツバック:756万円
メルセデス・AMG A45 4MATICもアウディRS3スポーツバックも700万円を超える価格だが、そのパフォーマンス、クルマの造りや走りの質感、ドライビングプレジャーはCセグメントというクラスを遥かに超えたレベルにあり、同じような価格帯のプレミアムセダンでは物足りないという人にとってはファンtoドライブを満喫できる貴重な存在だということができる。