【ランドローバー】新型レンジローバーはSUVの頂点を目指すスーパーラグジュアリー&エグゼクティブカー

新型レンジローバーは2012年9月、ロンドン郊外のロイヤルバレースクールを舞台にワールドプレミアを行い、その直後に開催されたパリ・モーターショーで一般に披露された。初代が登場したのは1970年で、今回のニューモデルは4代目となる。初代レンジローバーが登場した時と、現在では世界のトレンドが一変している。初代を送り出したのはブリティッシュレイランド(BL)社で、クロスカントリーカーであるランドローバー以上のオフロード性能を持ちながら、同時に高級乗用車の性能を備えた高価クルマというユニークな存在であった。しかし、1980年代後半以降はSUVという新たなジャンルが確立され、各メーカーからオフロード性能を備えたクルマが多数ラインアップされるようになった。

こうした時代背景の下で、レンジローバーはモデルチェンジを行ない4代目(マーク=L405型と呼ばれる)となった。新型レンジローバーの開発コンセプトは、レンジローバー独自の伝統を受け継ぎつながら、新たな次元の「世界一洗練された高性能ラグジュアリーSUV」とされている。現在では多くの車種が販売されているSUVカテゴリーの中の頂点、つまりポジショニングとしてはポルシェ・カイエン、アウディQ7のさらに上に位置するプレステージ・クラスであり、スーパーラグジュアリーSUVとされる。

ニューモデルは、デザイン、ボディ、プラットフォームなどすべてがゼロからの開発となったが、デザインに関してはやはりレンジローバーの伝統、様式を守ることが重要とされ、過去のモデルとデザインの連続性を持たせたボクシースタイルだ。またクラムシェル型ボンネット、フローティングルーフ、サイドフェンダーベント(フロントドアにデザイン処理されている)などデザインのディテールもこれまでのモチーフを盛り込んでいる。もちろん現代風に細かな丸みを持たせ、スラントしたフロントマスク、傾斜角を強めたAピラーなど全体のシルエットからアンダーフロアに至るまで空力性能の向上に配慮し、Cd=0.34とトップレベルに仕上げている。

ボディサイズは、全長5505mm、全幅1985mm、全高1865mm、ホイールベース2920mm、最低地上高220mmで、ホイールベースが40mm長いなど3代目とはわずかに寸法が異なる部分もあるが、ほぼ同等サイズを守っている。ちなみにこのボディサイズはプレステージクラスのセダンと同等のサイズだ。

インテリアのデザインも従来通り直線基調で、水平のラインとセンターコンソール部の垂直方向のラインを組み合わせている。また新たなコントロールシステムを導入することでスイッチ類が大幅に減り、すっきりしたインスツルメントパネル/センターコンソールとなっている。

インテリアの素材はダブルステッチを用いて縫製された最高級の本革、本木目のウッドパネル、切削加工のクローム仕上げのパーツなど、すべてのディテールがクラフトマンシップに満ちた手仕上げで、見た目でも触感でも最高級というにふさわしい。またインテリアの照明は新世代のクルマにふさわしくLED照明を採用している。

またインテリアは、カラー、素材、装備やエグゼクティブリヤシートなどを自由に組み合わせてオーダーできるようになっているのも、エグゼクティブカーにふさわしい。

ディスプレイは、メーターパネル部に12.3インチ、センターコンソールに8インチサイズを採用し、車両情報やインフォテイメントを選択表示できるようになっている。オーディオはメリディアン製のサラウンドシステムを搭載。また、エアコンは4座席独立温度調整式で、多数の温度センサーを装備し完璧な温度コントロールを実現している。

レンジローバーは初代から、卓越したオフロード性能を備えたヘビーデューティなクロスカントリー4WDカーと、ラグジュアリーな高級乗用車の性能を両立させたオールマイティカーとされてきたが、このコンセプトは4代目にも受け継がれ、悪路走破性は世界トップを狙っている。そのため「テレイン・レスポンス」と名付けられた駆動/シャシー制御システムが進化し導入された。

このシステムは、、General(オンロード)、Grass(草地)/ Gravel(砂利)/ Snow(雪)、Mud(泥)/ Ruts(轍)、Sand(砂地)、Rock Crawl(岩場)という5つのモードから走行状態に最も適したモードが自動選択され、各モードで操縦性とトラクション性能を最適化し、エンジン、ギヤボックス、センターデフ、シャシーが路面状況に合わせて制御されるようになっている。

また、システムが必要だと判断した場合にはローレンジ、最低地上高を上げるタイミングといった情報が表示される。システムではヒルディセント・コントロール(HDC)、グラディエントリリース・コントロール(GRC)、ヒルスタート・アシスト(HSA)、ダイナミクスタビリティ・コントロール(DSC)、電子制御トラクション・コントロール(ETC)、ロールスタビリティ・コントロール(RSC)などが統合的に制御される。


ハードウエアとしての4WDシステムは、トランスミッションに設けられた2速トランスファー、機械式センターデフを備えた本格的なフルタイム4WDシステムで、べベルギヤ式センターデフにより、前後トルク配分は50:50。センターデフにはロック機構とトルク配分機能を備える電子制御多板クラッチを内蔵。タイヤの空転を検知すると多板クラッチが作動して最適トルク配分を行う。2速トランスファーはハイ(1.00)/ロー(2.93)を60km/h以下で切り替えが可能で、オプション設定されている。

オフロード性能は、エアサスペンションにより最低地上高を303mmまでアップ(+40mm〜+75mmの間で自動設定される)でき、アプローチアングルとデパーチャーアングルも一段と向上している。また渡河水深性能は従来より200mm深い900mmと、軍用車両なみの性能を備える。このため、エンジンの吸気インテークは右側フェンダー側部に設けられている。実用的には使用することのない性能だが、オフロード性能では妥協しないというポリシーをが感じられるところだ。

サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リヤはマルチリンク式で、ほとんどのリンクはアルミ鍛造製だ。オフロード性能を追求するため、ホイール・ストロークはフロントが260mm、リヤは310mmと一般的なクルマの1.5倍となっている。また従来通りエアサスペンションを採用しているが、全面的に新設計され素早いレスポンスで車高を変更することができる。

また5.0L V8型スーパーチャージド・モデルには、自動ロール制御システム「ダイナミックレスポンス・アクティブ・リーンコントロールシステム」が標準装備される。コーナリング時に前後のサスペンションの車高を独立制御し、ロールとスタビリティを抑制する。

また。システムがオフロードであることを検知すると、制御モジュールがスタビライザーバーを分離し、ロール補正のレベルを下げることでロードホールディングを向上させるようになっている。ダンパーは連続可変システムを内蔵。ステアリングは可変ギヤ比式電動パワーステアリングを採用している。ブレーキはフロントにブレンボ製の6ピストン・アルミキャリパーだ。

5.0L V型8気筒 直噴エンジン
5.0L V型8気筒 スーパーチャージド・エンジン

 

エンジンは、ヨーロッパ仕様では3.0L・V6型ディーゼル、4.2L・V8型ディーゼルも設定されているが、日本仕様はガソリンの5.0L・ V8型直噴エンジンと、5.0L・V8型スーパーチャージド直噴エンジンの2種類のみとなる。

V8型エンジンはオールアルミ製で、エンジン制御はボッシュ・システムを採用。直噴システムは最新のスプレーガイドインジェクターによる高圧直噴射を採用する。またカムシャフトはデュアル独立可変カムシャフトタイミングシステム(VCT)としている。出力は510ps/625Nmだ。

自然吸気5.0Lエンジンは、基本はスーパーチャージ版と共通だが、可変吸気システムを装備する。出力は375ps/510Nmで、最大トルクは3500rpmと低速型にしている。いずれのエンジンもスタート&ストップ、減速エネルギー回生システムを装備する。

トランスミッションは全てのモデルでZF製のトランスファー一体型8速(8HP70型)を採用している。

新型レンジローバーのボディ、プラットフォームはSUVとしては世界初となるオール・アルミ製モノコック構造を採用した。アルミボディはジャガーで採用している技術が流用され、特徴としては、アルミ量産ボディ技術で先行したアウディのアルミボディの製造では溶接を多用しているのに対し、レンジローバーはリベット接合と構造用接着剤を多用しているのが相違点だ。

また鋳造材、押出し材、圧延アルミ合金、アウターパネル用のプレスパネルなど多くの材質を組み合わせて使用する。衝撃吸収フレーム部には高強度AC300アルミが自動車用として初採用。オールアルミボディとすることで従来のスチールボディと比べて39%軽量化され、ボディシェルだけで180kgを超える軽量化になっている。このアルミボディは、クラス最高の軽量さを誇るだけでなく、クロスカントリー性能に合わせた堅牢さも備えていることも特筆したい。

アルミボディ専用のソリハル工場

また軽量化を達成するためにアルミ材だけではなく、クロスメンバーやフロントバンパービームにはマグネシウム鋳物、アッパーテールゲートパネルはSMCプラスチックなども採用されている。もちろんこのような軽量化されたボディにより、レンジローバーは動力性能、燃費を大幅に向上させている。

もちろん新型レンジローバーは、全車速追従型クルーズコントロール、追突を回避する、インテリジェント・エマージェンシーブレーキ、後方からの他車の接近を警告するブラインドスポット・モニタリング、T字路での左右の視界や後退時の視界をディスプレイ画面に表示するサラウンドカメラ・システムなどドライバー支援システムもフル装備している。

レンジローバーは独特の存在だけに、開発での性能目標もユニークだ。オンロードでの快適さ、ラグジュアリー性能は同じカテゴリーのSUVではなく、メルセデスベンツSクラスやBMW 7、アウディA8、ベントレー・コンチネンタル・フライングスパー、ロールスロイス・ゴーストを基準にしている。パフォーマンスや燃費などは、BMW X5、アウディQ7などをベンチマークとしている。静粛性、特に風騒音やロードノイズではラグジュアリーセダンを上回るレベルを達成しているという。

オールマイティなクロスカントリー性能と、スーパーラグジュアリーカーとしての性能を両立させるというレンジローバーならではのスタンスをよく示している。

新型レンジローバー諸元表

ランドローバー公式サイト

自動車技術会
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