マニアック評価vol102
ジャガーXFの12年モデルを試乗してみた。現行ジャガーXFのルーツは2007年のフランクフルトショーでコンセプトカー「C-XF」として発表され、販売戦略としては従来のSタイプの後継モデルとして発売されている。そして2011年9月に12年モデルとしてマイナーチェンジが行われ、11月から販売されている。なお、メーカーからのリリースによればマイナーチェンジという表現は使われず、12年モデルという表記だ。
搭載されるエンジンやグレード、そして価格などにも変更があるので、モデルラインアップを整理してみよう。XFのボディサイズはフルサイズクラスのプレミアムスポーツサルーンというカテゴリーになる。3.0L V型6気筒NAエンジンを搭載する3.0ラグジュアリーが595万円、同じパワーユニットで豪華装備となる3.0プレミアム・ラグジュアリーが694万円、5.0L V型8気筒NA搭載の5.0プレミアム・ラグジュアリーが829万円、そしてモデル最高峰のパフォーマンスを持つグレードが、5.0L V型8気筒+スーパーチャージャーのXFRで1200万円となっている。
4.2Lモデルやポートフォリオグレード、SV8などいくつかのグレードは廃止されている。注目したいのはその戦略的な価格である。2007年に発売されたとき、ベースグレードは650万円だったが12年モデルは595万円で55万円安く、3.0L、5.0Lともにプレミアム・ラグジュアリーも-66万円ダウンしている。Eセグメントに属するこのXFモデルとは単純に横比較することはできないが、ライバルとなるメルセデス・ベンツのEクラス、BMWの5シリーズ、アウディのA6シリーズなどと比較しても戦略的な価格と言えるだろう。
さて、この12年モデルの変更点を改めて確認してみると、エクステリアではヘッドライトデザインが変更になり、印象が大きく変わった。先代の横長デザインに丸目が埋め込まれたようなデザインから完全に釣り目の精悍なイメージに変更。グリルサイズに変更はないものの、大きなフェイスリフトと印象づけられる。さらに、LEDのポジションランプがアルファベットのJ文字をモチーフにしたデザインになり、個性が強くなった。またバンパーも同時に変更され、とくにXFRは大きな開口部をもち、スポーツモデルである印象を与えている。
インテリアでは、ステアリングのデザインが新たに変更され、上質感につなげている。また、インスツルメントパネル表示の変更やスイッチ類のデザインも変更されて、トータル的にシンプルでありながら、上質であり若々しい印象へとなっている。
試乗したモデルは3.0Lのプレミアム・ラグジュアリーで、20インチのアルミホイールなどのオプション装備を加えたモデルである。標準装備の18インチから2サイズアップされた足元は、全体のルックスを大きく変貌させスタイリッシュでスポーティなルックスになっている。もともとのクーペライクなルーフラインがより強調されたかのようにチョイ悪なインパクトになる。
ディメンションは5m近いサイズで全長4975mm×全幅1875mm×全高1460mm、ホイールベースが2910mmという立派なサイズ。どんなシュチエーションに遭遇しても見劣りのしない風格があり、それでいて若々しさもあるがゆえに憧れの存在となることは間違いない。
エンジンは3.0LのNA搭載モデルだが、その出力は179kw(243ps)/6800rpm、300Nm/4000rpmというスペックで、十分なパワー&トルクがある。その実際のパワー感よりもエンジン音がスポーツマインドをかき立てている。というのは、常用回転域でも常にV型のエンジンサウンドが小さいながらも室内に侵入してくる。聞こえてくるその音質は、いかにも速そうな、やる気のあるサウンドでクルマに興味のない人でもただモノではないと感じさせる類の音なのだ。
それが1500rpmも回れば十分に聞こえてきて、2000rpmを超えるとすぐにシフトアップしてしまう。そのただモノでなないと感じさせる音が吠えることなく、回転が下がる。その繰り返しをしながら都内の交通量の多さでも6速へシフトアップされる。だから、踏みたくなる衝動が常にあるサウンドとも言える。もちろん意図的に聞こえるようにしたものだが、国産のハイエンドのスポーツライクなモデルだと、この常用回転域を静かに造り込んでいる場合が多い。ひとたび、アクセルを踏み込むと野太い迫力あるサウンドへと変化するが、おとなしく走行しているときには、その片鱗すら感じさせないほど静粛というのが国産車のパターンだ。
日本人が好きな「羊の皮を被った狼」という思考からなのだろうか。ジャガーはその思考とはまったく違ったベクトルだ。だから、ゆっくり走っていても常にスポーツカーを運転しているイメージが存在し、低速域でもそのサウンドを楽しんでいる自分に気づく。助手席に座る淑女からは「獰猛なクルマなのに穏やかに扱っている大人な人」という印象を持ってくれるだろうという妄想にふける。
↑内張りは黒のスエードが張り巡らされ高級感がある。ペダルはメッキ。AペダルにはJAGUARのロゴがある
組み合わされるミッションは6速ATでパドルシフトが付く。ほかにSモードがありシフトアップのタイミングは変わりパワフルに走れる。もっともワインディングを通常のDレンジで走っていても不満はない。十分なトルクがありシフトアップの制御もよく、道路状況と選択ギヤがあっていないという不具合はまったくない。
今回は意図的にSモードを使用してみたが、Sモードを必要とする機会は多くないだろう。それはワインディングを下るときでもDレンジのままでもブレーキングすれば、ブリッピングしながらダウンシフトをするので、Dレンジでも快適に走破できる。もちろん、パドルシフトを使えばさらに快適になる。もうワンランク速度レンジを上げていくと、さすがにエンジンブレーキやシフトのホールドが必要になってくるので、Sモードを使用することになるが、一般的な速度ではDレンジだけで十分なスポーツ性があるということだ。
さて、インテリアはキャビンフォワードされダッシュボードの奥行きは広い。このパターンはAピラーの死角が気になることが多いが、XFではピラーの形状が三角錐にしてあり、死角を減らす工夫が見られる。実際のドライブでもワインディングロードでAピラーが気になるということはなかった。また、視覚的にもAピラーから天井にかけて、黒のスエードが張り巡らされ、引き締まった印象と高級感が同居しているように感じる。
ハンドリングは軽快だ。ジャガーがスポーツサルーンであり、スポーツカーであることを感じる瞬間でもある。ただ、セルフアライニングトルクが小さいため、手ごたえという点ではやや細い印象。しかしながら、20インチのオプションも見事に履きこなすサスペンションには脱帽だ。ドイツ車でも20インチになるとオーバースペックで乗り心地が硬く感じたりするものだが、XFは20インチを十分に自分のものにしていた。
ボディカラーがモスグリーンというイメージはもはや存在しない新ジャガー。真っ赤なXFや試乗車の淡いブルーなど全14色(モデルによっては選択不可もあり)のカラーがそろい、もちろんブリティッシュグリーンもラインアップされる(XFRで選択可)新しいジャガー、ドイツ車とは一味違ったダンディズムを味わってみてはいかがだろうか。
■ジャガーXF3.0 プレミアム ラグジュアリー主要諸元
●価格694万円 ●全長4975mm×全幅1875mm×全高1460mm WB2910mm ●搭載ユニット 3.0LV型6気筒+6速AT(パドルシフト付き) ●最高出力179kw(243ps)/6800rpm 300Nm/4100rpm ●JC08モード燃費 7.5L/km ●駆動方式=FR