2016年1月、自動車業界に激震が走った。フォードの日本国内市場からの撤退というニュースだ。このニュースに対する記事はすでにたくさん出回っていて、そのほとんどが日本市場での販売不振による撤退という理由づけになっている。でも本当だろうか?
その根拠となるエピソードは、当初撤退に関するオフィシャルなコメントをフォード・ジャパンは発信しておらず、フォーブスなどの経済誌からのニュースだった。その数日後フォードジャパンのマーケティング広報部のスタッフからタカハシの携帯に電話があった。
その内容は予定していたイベントなどができなくなり申し訳ない、という内容。その理由は既報のとおり国内マーケットからの撤退だった。タカハシは担当者と数分この件に関し話をした。そして「日本での販売がもっと数字が良ければ、こんなことにはならなかったのでしょうか?」という質問に対し、担当者は「今の2倍に販売を伸ばしたところで、何も変わらなかったと思います」という回答をしたのだ。もちろん、詳しくは話さなかったが、日本での販売不振による撤退というシンプルなものではないことが想像つく。
さて、本国アメリカでのフォードは、年初に行われたCESでもアマゾンとの関係性をアピールし、つまりAI=人工知能を搭載したアレクサスの話題を持ち出していた。自動車業界は自動運転の開発を進めているが、その精度を高めるプロセスでAI、ロボット技術に関連付けられていく可能性が高いと考えるのは普通だろう。
自動車メーカーはクルマの製造販売でこれまで産業として成り立ってきたが、この先はその商売方法そのものが変わる可能性に遭遇しているのかもしれない。つまり、自動車を作ることとAIやロボットの開発は平行に進められ、単にクルマを作って販売するのではなく、事業転換を強いられると予測しているのかもしれない。
クルマを発明したメルセデス・ベンツも近い将来、完全自動運転の場所と従来のクルマの愉しみが味わえる環境という2つのシチュエーションが存在し、そこに向けてクルマも2種類のベクトルに乗ったモデルを作ることになるだろうと言っている。
フォードは自動車の大量生産に成功し、現在の自動車産業を成立させた、もうひとつのパイオニアである。したがって将来の自動車産業のイニシアチブをフォードは握りたいのは間違いないだろう。
そして、フォードの将来はAIを含めたロボット産業と自動車造りであり、従来の自動車製造メーカーではありません、というスタンスを目指し、表明もしている。したがって、今回の日本市場の撤退は、日本での販売不振が原因というのは間違いないが、本体の事業転換による見直しということが背景にあるのではないか?と想像する。つまり集中と選択における不振のマーケットは不要という判断。
国内でもトヨタ、日産はAIの研究はすでに進めており、将来の自動車技術には欠かせない技術であることの裏付けにもなる。グローバルで自動車を大量販売をしている企業は、ロボット化された自動車の誕生を予測し、そのための準備を活発に始めたということではないろうか。