2014年10月25日から発売されている新型C4ピカソは、箱根彫刻の森美術館のピカソ館を起点に試乗会が行なわれた。この10月25日は芸術家パブロ・ピカソの生誕133年目ということだ。
◆ラインアップ
新型C4ピカソは7年振りにフルモデルチェンジされ、日本初導入となる5人乗りと、7人乗りグランドC4ピカソの2モデルで展開となる。
PSAグループは販売好調な状況という説明があり、その背景にはシトロエンのDSブランドが独立に成功したことがある。このことで母体のシトロエンブランドをより鮮明に、価値を打ち出すことができるようになったという。具体的には開放的ですごしやすい空間、アートの美的センスを日常の生活の中で味わえる、創造的でかつ先進技術を使いやすい形で提供できる、という大きく3つの価値によって、シトロエンが際立てているという。今回のピカソはまさに目に見える形でこれらを体験できる試乗となった。
偉大な芸術家ピカソの名前を冠するだけに、一目見ただけでC4ピカソにはあらゆるセンスが詰め込まれている、と誰もが感じることだろう。エクステリアでもインテリアでもそのデザインには目をひかれる。そして走行シーンにおいても世界で唯一のシトロエンらしいストローク感のある、ゆったりとした走りにもセンスを感じる。
ではゆっくりと見てみよう。新型C4ピカソのポジションはバランスのとれたMVPで、マルチパーパスヴィークルである。シトロエンらしい乗り心地、美しいデザイン、実用性、使い勝手、走行性能、そして燃費の向上を目指し、キーワードをテクノスペースとしている。
2013年のジュネーブショーでワールドプレミアしたコンセプトカーをベースに開発され、開発チームは5人乗りのC4ピカソと7人乗りのグランドC4ピカソで、それぞれに別のチームが担当するという、力の入れたモデルである。この開発チームによってテクノスペースは現実のモデルとしてリリースされたのだが、主にどんなところに注目すべきか見てみよう。
◆デザイン
C4ピカソ(5人乗り)のディメンションは全長4430mm×全幅1830mm×全高1610mm、ホイールベース2785mmで車重は1480kg。グランドC4ピカソ(7人乗り)は全長で160mm長く、全高で20mm高い。全長4590mm×全幅1830mm×全高1630mm、ホイールベースは異なり2840mmとなっている。車重は1550kgでこちらは先代と比較して-50kgの軽量化をしている。
ディメンションの異なる2モデルはエクステリアデザインも異なり、グランドC4ピカソは、サイドビューではルーフからテールゲートまでグレーのラインで囲まれるアルファベットの「C」をモチーフにしたデザインになっている。5人乗りのC4ピカソは同じくCをモチーフにしつつ、サイドウインドウを取り囲むようにクロームのモールでデザインしている。そして全体にエッジの効いたアクセントがあり、スポーティらしさを強調し、一方、グランドピカソは対照的に穏やかで優しいラインを持つファミリーカーテイストにデザインされている。
フロントでもWシェブロンとLEDヘッドランプのレイアウトが異なったり、フロントグリル自体のデザインも変えるなど異なるデザイナーによってデザインされていることが感じられる。
インテリアではフルデジタル・インスツルメントパネルと独創的なステアリング、そして左右非対称デザインのシートなど、目を見張る。
デジタルインターフェイスは上部と下部2か所に分かれ上部は12インチの大型で速度や回転計、燃費などの情報を表示。しかもこの表示デザインが角型や丸型など3パターンに変更できるアイディアがある。デジタルだからできることだが、さらっと導入しているあたりがシトロエンらしさだと思う。下部は7インチのタッチ式で、ナビ、エアコン、オーディオなどドライビングアシスタント機能が集約されている。
シート表皮デザインはアシンメトリーにデザインされ、乗る人が内側に向き会話がしやすいようにデザインされているのもシトロエンらしさだ。フランスのタクシー運転手は、後ろを振り向きながら客と話をし続け、「頼むから前を向いて運転してくれ」という心境になった経験をした人も多いことだろう。助手席でスマホをいじりながら会話もなく、淡々と走り続ける日本人とは大きくセンスが違うところだ。
シートは全席独立型で2列目もスライド&リクライニングが可能で、ルーミーなスペースが確保できる。グランドC4ピカソではWBが+110mm伸びているため、3列目に40mmから50mmの余裕も生まれている。またワンアクションでフルフラットになり、女性でも容易にシートアレンジができる。さらにセンターコンソールを外すこともできるので、長尺物の収納が可能だ。大型のサーフボードも積載可能というわけだ。
ラゲッジ容量は3列目を収納すると645Lで座席を前方にスライドさせると700Lになる。また2列目を倒せば2181Lという巨大なラゲッジスペースが確保され、使い勝手がいい。
◆テクノロジー
新開発のプラットフォームEMP2を採用している。こちらは伸縮可能なプラットフォームでコンパクトカーからSUVまで対応できる。そして軽量・低重心が特徴であり、アルミや複合材を使うことで従来のプラットフォームより単体で70kgの軽量化ができているという。グランドC4ピカソで前モデル比-50kgを達成している。
エンジンはBMWとの共同開発の1.6Lターボのガソリンで、ユーロ6に対応した環境エンジン車だ。出力は165ps/240Nmに全車標準装備のアイドリングストップ機能が搭載されている。気になるトランスミッションはアイシンとの共同開発の6速AT(EAT6)を搭載している。JC08モード燃費でグランドC4ピカソが14.6km/L、C4ピカソが15.1km/Lとなっている。
またシトロエンとしては初のテクノロジー搭載として、アクティブクルーズコントロール、ディスタンスアラート、レーンディパーチャーウォーニング、スマートビーム、アクティブシートベルトなどなど、数多くのデバイスを搭載しているのも新型ピカソの特徴だ。
◆インプレッション
乗り込んで最初に感じるのがシトロエンの十八番、パノラミックガラスルーフとパノラミックフロントウインドウだ。とにかくガラス面で覆われ解放感がいっぱい。頭上より後方まで広がるフロントウインドウと、Aピラー部の視界の広さも解放感を加速させる。特に後席からの視界はいい。一般的に後席はフロントシートで視界が遮られ、閉そく感があるが、C4ピカソはルーフの広いガラス面とフロントガラスの大きさなどで、後席でも解放感を感じられるのだ。
シートに座るとシフトレバーのデザインに惹かれる。華奢なシフトレバーであることが、逆に存在感が高まり、意識のどこかに必ず存在するようになる。デザインセンスのマジックを味わう瞬間でもある。空調の吹き出し口のデザインも大量生産の工業製品を想像させない繊細さと形で作られ、遊び心を感じる。
またレザーシートとファブリックでは座り心地で多少の差がある。シトロエンらしい包まれるようなソファシートだと感じるのはファブリックのほうだ。もっともレザーシートでも馴染んでくれば同様のフィールになるのではないかと思う。
この2モデルは、多少乗り味が異なっていた。これはホイールベースの違いや試乗車のタイヤサイズが17インと16インチの違いがあり、違うのかもしれないが、デザイナーも異なるモデルだけに、乗り味にも違いがあっても何も不思議はない。とは言えドイツ車とは明らかに異なる乗り味で、これぞシトロエンという印象だ。どこまでも延びていくサスペンションは独特のフィールで、一度味わうと病みつきになるというファンの気持が理解できる。それでいてロールが深すぎて不安になる、ということがない不思議も体験する。
またステアリングの反応も穏やかであるが正確であり、欧州車の基本のレベルの高さを感じる。直進の座りもしっかりあり、安心感と運転が楽に感じる要素を備えている。ブレーキもしっかり感があり、安心感がある。これだけの解放感があるモデルでも室内の音は気にならない。エンジン音もロードノイズもとくに気にはならない。
新型C4ピカソは、シトロエンをよく知るオーナーの期待を裏切ることはないだろう。また、シトロエン未経験者にはぜひとも試乗をお勧めする。また、メディア向けの試乗会ではスペックでクルマを説明するメーカーがあることと、今回のように、センスを前面に打ち出す違いも面白い。データは工業製品だけにスペックは必ず存在し、詳細も理解しやすい。しかしセンスと言われると説明が難しくなる。シトロエンの独特の世界観とセンスを一度感じてみてはいかがだろうか。
<レポート:髙橋明/Akira Takahashi>
■シトロエン・C4ピカソ価格表