2012年6月下旬、シトロエンDS5が発表され、8月1日から発売が開始されることになった。ここで改めてシトロエンのDSラインとその頂点に立つDS5の核心に迫ることにしよう。
シトロエンが2010年に立ち上げた新たなシリーズ、DSラインのコンセプトは「伝統」、「洗練」、「大胆なコンセプト」、「幻惑」といったキーワードに象徴されている。
ここでいう伝統とは、「10年進んだクルマを造る」というシトロエンのフィロソフィに加え、古くは前輪駆動の先駆車となった「トラクシオン・アヴァン」、国民的なベストセラーになった2CV(1948年発売)、そして突如地上に降り立った宇宙船と呼ばれるDS(1955年発売)など革新的なクルマ造りである。
中でも時代を超越した圧倒的な存在感を放つ「DS」の名前が、新シリーズの名称に選ばれたのも納得できる。DSは戦後復興期の1955年に登場し、時代を超越したデザインはすべてのクルマとの比較は不可能な、独創のハイドロニューマチック・サスペンションを備えていた。
洗練、大胆なコンセプトもシトロエンが元から持っているクルマ造りのフィロソフィで、それをさらに強調することであり、幻惑とは見る者を圧倒する独創的なデザイン力や存在感を意味している。
新たなDSラインは、これまでのCラインよりプレミアムでダイナミックなポジショニングが与えられている。簡潔に言えばプレミアム性、ラグジュアリーさ、スポーティな走りを強調したブランドと言ってもよいだろう。
DSラインの3台のコンセプトは共通だが、DS3はダイナミック性能、アンチレトロのデザインとパーソナル性を重視し、DS4は4ドアクーペとSUVを融合させたクロスオーバー・クーペという特徴が与えられている。
DS5は2011年4月の上海モーターショーでワールドプレミアを行い、年末からヨーロッパでの販売が開始されている。では、この新たに登場したDS5はどのように位置付けるか。クーペ、GT、シューティングブレーク、ワゴンといったボディの要素を取り入れた新たなジャンルのクルマとされ、一段とラグジュアリーさ、プレミアム性を高めたモデルと位置付けられる。シトロエンの現時点でのフラッグシップであり、コンパクト・エグゼクティブカーとしても位置付けらている。メイン・マーケットはヨーロッパと中国である。
DS5の原型は、2005年にフランクフルトショーに送り出した「C-スポーツラウンジ」に遡る。C-スポーツラウンジのコンセプトの狙いは新しいジャンルのクルマを創り出すことで、これまでの常識にとらわれない自由な発想と強い訴求力のあるデザインによって、シトロエンの哲学である「独創と革新」を具現化していた。
DS5のデザインは、C-スポーツラウンジで試みられたハッチバックとステーションワゴンの融合という要素に加え、よりラグジュアリーなシューティングブレークの発想も加えたパッケージとなり、エクステリアはC-スポーツラウンジと比べて彫刻的な力感、立体感が強調され、滑らかなソリッド感を表現している。この結果、DS5はどのボディ・カテゴリーにもあてはまらないオリジナリティを持ち、圧倒的に存在感のある佇まいを見せる。
またDS5はこのデザインとエアロダイナミクスとの融合も追求されている。床下の整流、タイヤまわりの乱流の抑制、ポリカーボネイト樹脂製のリヤサイドディフレクターやリヤルーフスポイラーなどを駆使し、Cd=0.29という高いレベルに到達しているのだ。
インテリアは、プレミアム性を高めるためにオートクチュールのような本物の素材や質感を使用し、シトロエンならではの現代的な洗練されたデザインセンスでまとめ上げている。一方で運転席は航空機のコクピットをモチーフに、卓越した機能性が盛り込まれている。インテリアの素材は、ドイツ製の本革やイギリスのメタル表面処理の素材が選ばれ、最高水準の本革の質感や金属の光沢が実現され、ラグジュアリーなインテリアを表現している。ドイツのプレミアムカーとはまったく異なる世界を創り出しているのだ。
コクピット・デザインは、ルーフコンソールやセンターコンソールのスイッチ類に囲まれたスペース、操縦桿をイメージさせるフラットボトム形状のスポーツステアリング、視認性に優れた専用設計のメーターやヘッドアップ・ディスプレイなどが取り入られ、ドライバーの頭上にはグラスルーフを設置している。
「コクピット・ルーフ」と名付けられたシトロエン独自のサンルーフは、運転席、助手席、後席に3分割され、運転席では頭上のグラスルーフや、2又形状のAピラーにより、航空機のキャノピーにいるような雰囲気で、まさにパイロット気分に浸ることができる。
同時に、シトロエンC5よりコンパクトなボディでありながら大人5名の居住スペースがしっかり確保され、ラゲッジスペースはVDA方式で最大465Lとステーションワゴンにも匹敵する容量が生み出される。シトロエンDS5はデザインを重視しながら、日常での利便性、パッケージングがきちんと織り込まれていることも特筆される。
シトロエンDS5のプラットフォームはPF2と呼ばれ、C4ピカソをベースに開発されたC4ファミリーといえるが、一段とダイナミック性能を高めるために専用チューニングが加えられている。
パワーユニットは、ヨーロッパではディーゼル(HDiエンジン)と、2種類のガソリン直噴ターボ(THPエンジン)、そして先進のハイブリッド4(HDiディーゼルターボ+リヤアクスルマウントのモーターによる4WDシステムを採用)というラインアップとなる。
日本に導入されるシトロエンDS5のエンジンは1.6L・4気筒・コモンレール直噴+ツインスクロールターボのTHP150(正式名称はEP6CDT型)だ。THPとはターボ・ハイプレッシャーの頭文字を取ったもので、原型はBMWと共同開発したコードネーム=プリンスと呼ばれるエンジンだ。滑らかさと、1400rpmという低回転域から発生する強力でフラットなトルクにより、ダイナミックな動力性能を実現している。
このエンジンに組み合わされるのは、シトロエンとして初採用のアイシン製の6速ATだ。日本や中国の市場を考えるとATの設定は不可欠だったといえる。なお燃費はJC08モードで11.3km/Lとなっている。
シトロエンDS5のサスペンションはフロントがストラット式、リヤがトーションビーム式を採用し、タイヤは225/50R17の大径サイズを装着している。サスペンションのチューニングは、シトロエン伝統の正確なハンドリングやフラットな乗り心地に加え、ドライビング・プレジャーを追求したしっかりとしたフィーリングを実現しているのが特徴と言える。
シトロエンDS5は安全性でもトップランクに位置するユーロNCAPで5つ星の最高評価を得ている他、6エアバッグ、ESC(横滑り防止装置)などはもちろん、前後ソナーによるパーキング・アシスト、ステアリングを切った方向に連動するデレクショナルヘッドライトとコーナリング機能付きフォグランプ、電子制御パーキングブレーキなどドライバーをサポートするシステムも充実している。
プジョーの街、ソショーで生産されるシトロエンDS5
シトロエンDS5を日本に導入するにあたり、日本サイドはどう考え、どのように対応したのか。シトロエンジャポン・プロダクトマネージャーの上村学氏は、次のように語る。
「シトロエンDS5はプジョー社のソショー工場で生産されます。(スイスとの国境にある)ソショーという街はいわばオール・プジョーの街という感じの都市ですが、シトロエンのプレミアムなDS5を新たにつくるということで、プジョーの人間も相当に気概を持って取り組んでいると感じました」
実際、シトロエンDS5はボディパネルのプレス技術から内装の高品質な仕上げまで、異例なほど高いレベルが求められているのだ。
もうひとつ、従来のシトロエンのラインアップであるC5との対比ではシトロエン側の思いはどのようなものがあったのだろうか。
「一番の違いが出ているのは乗り味でしょう。同じシトロエンでもC5とDS5は違う。とかく比較されがちですが、DS5はダイナミック性能、スポーティさを重視するということで、ある意味で割り切っていると思います。また、ヨーロッパではC5とDS5の価格差は日本よりかなり大きく、明確に1ランク上のクルマと位置付けられているのです」(上村氏)
つまりC5の延長線上にDS5があるのではなく、DS5は評価やポジショニングの軸が異なるところにあるというわけだ。
DS5はシトロエンとしては初の6速AT(アイシン製)採用については、本社が判断したという。プジョー・シトロエン・グループは、MT以外にEGS(AMT)もランアップしているが、ディーゼル・エンジン車や200ps仕様のガソリンエンジン車はEGSとの組み合わせであり、156ps仕様のガソリン・エンジン車は6速ATという設定にしている。もちろん、中国や日本の市場ではATがベストという配慮も働いているはずだ。
6速AT以外で、日本仕様としてのネゴシエーションはどのようなものがあったのだろうか。
「シトロエンとしての新しい装備の内容、日本市場への適合、ナビゲーションシステムの設定などでフランスのシトロエン本社とのやり取りは1年以上を要しました。これはかなり長かったです」(上村氏)
「シトロエンDS5のナビゲーションシステム(オプション設定)は、通常の2DINサイズではインテリア・デザイン的に整合性がないし設置できる場所もないということで、ダッシュボード内蔵タイプのオリジナルSSDナビゲーションシステムを設定しています」(上村氏)
またシトロエンDS5の日本仕様には、リヤビューカメラとサイドビューカメラを統合しバックミラーをディスプレイとして利用するユニークなシステムも採用している。
「バックミラーをディスプレイとして採用するために本社とかなりやり取りをしました」(上村氏)
通常はバックビューカメラのディスプレイはナビ画面を使用するケースが多いが、シトロエンDS5のナビシステムはオプション設定のため適当でないという判断で、バックミラーをディスプレイとして使用することにしたのだ。ちなみにシトロエンDS5でサイドビューカメラを装備しているのは日本仕様のみだが、これは日本の保安基準に適合させる意味もある。しかし、先進的なコンセプトには合致した装備といえる。
DS5の戦略的な意味、販売については、プジョー・シトロエン・ジャポンの上野国久CEOに話を伺った。
「シトロエンの大きなマーケットとなっている中国では、シトロエンとDSは完全な別ブランドとなっていることもあり、シトロエンはDSブランドをプレミアム化したいというのが狙いです。そのため、このブランド戦略を恐れることなく進めているのです。プレミアム化させることで400万円台という価格ゾーンに入ることができるわけです」(上野CEO)
DSのプレミアム化路線の象徴がダイナミズム、走りの性能と質の高さだという。日本において、シトロエン・ブランドそのものがコア層に支えられてきていることを「シトロエンにとっと非常に大きな財産だと思っています」(上野CEO)と語った。
シトロエンの日本における販売戦略は、まずは2012年中に全国50ヶ所のディーラーネットワークをつくり上げ、2013年には60販売店にまで拡大することが第一の目標になっている。なお2011年から店舗の新CI導入も行っており、シトロエンとしては赤/白をイメージカラーとし、DSはブラックを強調するという方向である。
第二の目標はアフターサービスの改善、顧客満足度の向上。シトロエンのコア層も満足できるようなレベルを目標に、サービス業務、フロント業務、セールスなど、ユーザーと接するスタッフの質的な向上やコミュニケーション能力の向上を図っている。
第三の目標はブランド・コミュニケーションの充実。シトロエン・ジャポンおよび各販売店のWEBを拡充することや、シトロエン・エクスペリエンスなどのイベントを通じ、より多くの人々に、見て、触れて、乗ってシトロエン・ブランドを実感する機会を拡大することなどが含まれる。シトロエンDS5のWEBによるプロモーションは8月1日から開始される予定となっている。
「シトロエンは、存在自体が独特の世界観を持っているので、ブランドイメージを高めることやより多くの方々に個性を理解していただくことが何より重要だと考えています」(上野OEC)