マニアック評価vol60
シトロエンに新しいラインアップが加わった。DS4である。既にDS3というワンサイズ小さいモデルが発売されているが、そのスケールアップ・モデルではない。シトロエンDSラインには独創と革新という意味がこめられており、Cラインに対して大胆なコンセプトでクリエイティブ・テクノロジーの象徴となるモデルとして開発されている。
デザイナーはオリバー・ビンセント氏。彼によると、「この世界にないものを造るという革新に挑みました」という言葉のように、そのデザイン性においては他を圧倒する先進性、革新性、創造性を感じさせるモデルとなっている。コンセプトにはセダンの洗練された雰囲気と快適性、背の高いSUVの気持ちよさ、クーペの流麗なデザイン全てを融合した、どのクルマにも似ていない4ドアクーペを創り出すことがある。
エクステリアから見ていくと、フロントまわりは、ヘッドランプとボンネットの交わりでは、独特の眼差しが表現され、そしてフロントウイングの力強いラインで形作っている。クーペデザインとするため、サイドウインドウを流れるようにデザインし、ドアラインもよくわからないように、そしてリヤのドアハンドルも存在しないかのように、デザインの中に溶け込むように仕上げられている。表情あるヘッドランプのサイド処理は、フロントフェンダーのショルダーアーチからフロントドアへと流れ、そこには力強いプレスラインが存在している。
リヤビューも複雑な造詣デザインのテールランプが組み込まれ、フロント同様に独創的であることを主張するリヤビューになっている。なお、ディメンションは、全長4275mm(-55mm)×全幅1810mm(+20mm)×全高1535(+45mm)、ホイールベース2610mm(+-00mm)の5名乗車モデルとなっている。()内はC4との比較である。
このように、DS4には磨きこまれたデザインがあり、驚くほど品質が高いことに気づく。例えば、前後ドア、フェンダーとドアの隙間にゴムシールが埋め込まれていることに気づく。もちろん風切り音の低減という意味もあるが、エクステリアデザインの中から取り入れられたものだろう。ドイツ・プレミアムメーカーですら、ここまで手の込んだ処理は多くはなく、セグメントを超えたものと言える。さらに、驚くのは、デザインを優先したがためにか、左右のリヤウインドウがハメ殺しとなっていることだ。ドアパネル内に収納できるデザインとしない潔さには脱帽である。
インテリアでは、実にユニークな装備として、パノラミック・ウインドウがある。フロントウインドウの天井部分がスライドし、より開放感のある室内へと変身できるのだ。操作は簡単で、サンバイザーのある部分をスライドさせるだけで、インテリアには多くの外光を取り入れることができる。
インテリア全体はスポーティなイメージで仕上げられ、スポーツドライブを想像させる仕上げになっている。しっかりとしたホールド性の高いスポーツシートは品質も高く、スポーツドライブをサポートする。グレード、Chic(シック)はファブリックとレザーのコンビネーション、Sports Chic(スポーツシック)にはレザーが採用されている。また、インテリア開発チームは宝飾品や皮革製品、時計製造工程を研究し、ステッチの仕上げやエンボス加工など随所にそのノウハウを盛り込んでいるという。ダッシュボードには「スラッシュスキン」という柔らかな手触りの材質が採用され、高級感があり、品質感も高い。エクステリア同様インテリアにおいても、セグメントを超えた品質と言っていいだろう。
装備の面でもユニークなものがある。それは、カラーチェンジができるメーターパネル照明。ホワイトからブルーまで5段階に調整できる。また、多彩に変更できる警告音やウインカー音などもユニークである。そして、左右独立のエアコンなど実用面でもうれしい装備がされている。トランクのスペースも370Lの容量があり、6:4分割可倒式リヤシートであるため、使い勝手も考えられている。
さらに革新的なものとして、ダッシュボードやドア内装と内部構造部品がワンピースに成型されたモジュールとなっていることだ。ダッシュボードのモジュール組立化はすでにドイツ車などで珍しいものではないが、より徹底してワンピースとなっている点が新しい。これにより、生産性にも質感向上にも好影響を及ぼしていることが想像できる。これらはインテリアを中心としたティア1サプライヤーであるフォルシアから提供されており、高品質、高級感ある仕上げとしているのにひと役かっているのは間違いない。
十分なパワーとしなやかな乗り心地
さて、搭載されるユニットはChic(シック)に1.6L直列4気筒直噴エンジン+ツインスクロールのシングルターボで156ps/6000rpm、240Nm/1400rpm〜3500rpmが積まれている。6速のEGS(エレクトリック・ギヤボックス・システム)のミッションが組み合わされ、この6速EGSはシングルクラッチの2ペダルAMTであり、扱いには少々のクセが存在している点でもDS4に似合っているのかもしれない。
一方、Sport Chic(スポーツシック)は、同じく1.6Lの4気筒直噴+ターボエンジンだが、過給圧のチューニングにより、出力は200ps/5800rpm、275Nm/1700rpmという高出力バージョンとなっている。ミッションは6速マニュアルが搭載されている。
エンジンフィールでは、両エンジンとも低速からフラットなトルクを発揮し、力強さを感じる。回転の上がり方も滑らかで、加速音も心地よく聞こえてくる。マニュアルミッションの操作は軽く、シフトポジションも明確であるため、操作しやすくクラッチ操作も軽いので扱いやすかった。
6速EGSは、シフトアップのタイミングでアクセルを少し戻してあげると、スムーズなシフトチェンジができる。このEGSミッションは、シフトチェンジを自動で行うミッションで、トルクコンバーターを持たず、DSGのようにツインクラッチでもない。通常のマニュアルミッションと同じでクラッチをひとつ持ち、そのクラッチ操作が電子制御によりエンジンの回転数や負荷を拾うことで自動的にクラッチを切り、シフトアップする仕組みであるから、シフトチェンジのタイミングのとき、マニュアルミッションと同じように、アクセルを抜いてあげれば、自動でラッチを切り、シフトアップが滑らかになるのだ。またシフトダウン時には自動的にブリッピングが行われる。ちなみに、このEGS(=シトロエンの呼称で一般的にはAMT=オートマチック・マニュアル・ミッション)という変速機は国内の乗用車での採用は皆無だが、2t程度の小型トラックでは採用されている変速機である。また、欧州の小型モデルには現在でも多く存在している変速機である。
サスペンションはフロントがストラットでリヤがトーションビーム式というFFとしては標準的なレイアウトを持っている。Chicには215/55-17、Sport Chicは225/45-18のタイヤ&ホイールが装着される。
乗り心地では、17インチのChicは、小さな凸凹を拾ったときのアタリがソフトで、尖った反応を示さない。このあたりからもしっとりとした上質な印象へとつながる。そしてコーナリングでもストローク感があり安心してコーナーを曲がることができる。ロール速度にも急激な変化はなく、徐々にロールをしながらヨーモーメントもしっかりと感じられるため、質の高い安心感のあるコーナリングができた。
一方、18インチのスポーツChicは、乗り心地が硬く感じ、小さな凸凹も拾う。17インチがフランス車らしい乗り心地であったのに対し、18インチはドイツ車よりのイメージになり、スポーツドライブの印象が顔を出してくる。
着座位置はその外観からも想像できるように、やや高めのポジションで見通しがいい。パノラミック・ウインドウの効果もあり、開放的なビューが展開されるドライビングポジションとなる。近年の流れであるキャビンフォワードも採用されているのだが、前述の上質なダッシュボードもあり、また、三角窓の採用によりAピラーの死角は小さく、斜め前方の視界は良好、そして好印象のコクピットである。
ステアリングの操舵感は軽く、軽快。ニュートラル付近からの微小舵角での反応はまろやかであり、急激な反応は示さず安心感がある。さらに切り込み大舵角となるまで、しっとりとしたフィールが伝わり、正確なステアリング操舵をすることができた。直進時での安定性も抜群で長距離ドライブでも安心して、そしてリラックスし、疲ない優等生と言えよう。その上、ステアリングインフォメーションも十分にあり、路面変化もドライバーに適度に理解できる範囲で伝わるところもポイントが高い。
唯一、気になったのがブレーキだ。制動力に問題や不安をかじることはまったくないが、タッチという点で少し気になった。つまり初期制動力が立ち上がるブレーキの味付けになっている点だ。それは、踏力を変えずとも制動力が増していくと感じることだ。日常的に使う40km/hから60km/hの速度域でも、また、高速域からの減速でも同じように踏力と実際の減速にリニア感がなく、自動制御されている印象が残った。もちろん、ファーストタッチで慣れてしまう程度の味付けなのだが、このDS4はステアリングフィールやエンジンフィール、ロール感などといったものが人間の感性にナチュラルに感じられるように仕上げられているだけに、ブレーキに違和感を持ったのかも知れない。ちなみに、システムはTRW製でパッドはガルファ製。初期からかなり摩擦力が高いタイプのパッドではないかと思う。
後日、改めてスポーツChicの広報車を借りて試乗してみたところ、このブレーキのタッチの悪さは全く感じられなかった。ブレーキのタッチと実際の制動フィールにはリニア感が伴い、ブレーキの抜きに関するフィールも悪くない。また、踏力を強めたときには、キチンと減速し、頼りない感じなど微塵も感じさせない欧州車ならではの見事な制動力を発揮してくれた。試乗会のときに感じたタッチの悪さは、固体の問題だったのだろうか?
DS4をこうして評価してみると、サイズ、質感、性能、価格においてコストパフォーマンスに優れたモデルと言える。これまでにない、まったく新しい新種でありながら、Chicが309万円、Sport Chicが345万円というプライスは魅力的だ。試乗を終え、感じたことは、フランスのトップセンスが来襲し、手にしたオーナーのセンスを際立たせるクルマであるということだ。
文:編集部 髙橋明