ZF 進化する8速AT レース用、プラグインハイブリッド用ユニットが登場

レース用に開発された遊星ギヤ式8速AT「8P45R」
レース用に開発されたトルコンレスの遊星ギヤ式8速AT「8P45R」

2015年10月31日、ニュルブルクリンクで開催されたVLNシリーズ第10戦で、ZF製のレース用8速ATを搭載したBMW M235iレーシングカップ仕様車が出場した。当初からモジュール設計コンセプトを採用している8速AT、「8HP」は多様な進化を遂げている。

■レース用「8P45R」
ZFの「8HP」は、2014年シーズン以降、ワンメイクレースのBMW M235i Racingカップで使用され、その性能や耐久性を実証してきた。そしてZFは次なる進化として「8P45R」型と呼ばれるモータースポーツ向けトランスミッションを発表し、VLNシリーズ第10戦でデビューを果たした。

ニュルブルクリンク耐久シリーズ「VLN・第10戦」に出場した「BMW M235iレースカップ」
ニュルブルクリンク耐久シリーズ「VLN・第10戦」に出場した「BMW M235iレースカップ」

これまで、トルコン/遊星ギヤ式のオートマチックトランスミッションは、モータースポーツには適さないシステムと考えられてたが、ZFはこのメカニズムのまま、2014年シーズンにモータースポーツ用として開発をスタートした。

「8HP」ATを搭載したBMW M235iレーシングカップで参戦するドライバーは、レース中に周囲の状況やレースコースにすべての集中力を注げるようになり、シフトミスによるメカニカル・ダメージや、ドライブシャフトに対する致命的な損傷、クルマの不安定な挙動を誘発するようなシフトショックを回避することができることが実証された。

レースで使用された8HPは、標準的な量産車向けの設計をベースにソフトウェアの修正をした仕様であったが、ZFは次のステップとして純粋なモータースポーツ向け遊星ギヤ式トランスミッションの可能性を見出し、設計した。

新設計のATは、レシオ、シフトポイント、シフトスピードに関して、モータースポーツでの要求に妥協なく対応できるよう性能向上が図られた。また、トルクコンバーターを廃止しするなど、さまざまな軽量化により重量は約15%軽減され、内部の変速用の電力損失も低減されている。

基本的な設計と構造は、4個の遊星ギヤセットと5個のシフトエレメントで構成しており、これらは通常の8HPの構造と共通だ。そして、レース用8HPの特徴はトルクコンバーターを廃止し、発進は内部のシフトエレメントである多板クラッチを使用する。そしてトランスミッション・インプットの上流側に位置する振動ダンパーが、エンジンの振動によるダメージを防ぐようになっている。

またギヤレシオはレース用にクロス化され、ギヤ間の回転数のギャップを少なくしている。標準の8HPトランスミッションではレースの際には1~6速のギヤのみが使用されていたが、新トランスミッションでは8速までのギヤすべてが使用される。

2015年シーズンを通し、新しいレース用のギヤボックスはダイナモ・テストなどのテストが実施され、10月末にニュルブルクリンク北コースにおける耐久テストも実施した。

BMWモータースポーツ・ジュニア・プログラムのチーフインストラクターのダーク・アドルフ氏は、「新しいギヤボックスを最初に試した時から、ZFの8速ATのパフォーマンスには本当に魅了されました。自動車エンジニアの私自身も、トルクコンバーターなしでATを構築できるとは思っていませんでした。ZFのトランスミッションによって高速でのギヤチェンジやスタート発進も容易になりました。このシステムは、レース用のトランスミッション開発のベンチマークになると確信しています」と語っている。

この新開発の「8P45R」型トランスミッションは2016年夏頃に市場投入が予定され、当初はBMW M235i レーシングカップ車(ワンメイクレース仕様車)にのみ搭載されるが、将来的には他メーカーのスポーツカーにも搭載を拡大していく計画だ。

■プラグインハイブリッド用「8HP」
そしてZFは同じ構造の8速ATである「8HP」をベースにした、プラグインハイブリッド・トランスミッションの量産化を開始した。最初に搭載するプラグインハイブリッド車は「BMW X5 Xドライブ 40e」で、グローバル戦略モデルと位置付けられている。

高性能、超コンパクトな駆動モーターは8HPトランスミッションのトルクコンバーターのスペースに内蔵される。この高性能モーターによりゼロエミッションで31km走行可能で、最高速は120km/h。このため、EUハイブリッド計測燃費により通常のエンジンのみの走行燃費より70%低減できるのだ。

プラグインハイブリッド用 8HP型トランスミッション
プラグインハイブリッド用 8HP型トランスミッション

モジュラー設計されている8HPはトルクコンバーターのスペースにモーターがレイアウトされている。このコンパクトなモーターの出力はMW X5 Xドライブ 40e用は113ps(83kW)、最大トルク250Nmを発生している。もちろん減速時にはこのモーターが発電機として作動し、バッテリーを充電する。なおモーターは永久磁石同期式で、油冷式とされている。

BMW X5 xDrive 40e
BMW X5 xDrive 40e
プラグインハイブリッドシステムの構成
プラグインハイブリッドシステムの構成

このシステムを成立させるために、エンジンとトランスミッションを断続するクラッチの摩擦損失抵抗を最小限に抑えることがキーポイントになっている。

またねじり振動を低減することも重視された。エンジンのねじり振動を低減するために2個のダンパーを追加し、1個のダンパーは回転速度対応タイプとすることでアイドリングから高負荷時までエンジンの振動、騒音の抑制を実現している。

発進システムは550Nm以上のトルクに対応できる容量を持ち、スタート時も滑らかに発進し、プレミアムクラスにふさわしい快適性を確保している。

8HPがあらかじめハイブリッドシステムも想定して設計されていることからも分かるように、ZFはハイブリッド用トランスミッションだけではなく、ハイブリッド制御システム、制御ソフトウエアも開発しており、多種類のモーターもラインアップされ、さまざまなエンジンにタイプすることができるようになっていることにも注目したい。

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