BMW i3は、BMWのサブブランド「i」シリーズの第1弾にあたるが、そもそも「i」は持続可能なプレミアム・ブランドと位置付けられ、専用のクルマとサービスで構成され、専用の開発・生産、製品とサービスを展開することで、低炭素社会に向けてのプレミアム・カーライフを実現する目的だとされる。
このブランド戦略は2007年にBMWグループの新たな自動車社会に向けての戦略構想、「プロジェクトi」から生まれ、電気駆動車分野でBMWがナンバーワンになることが前提となっている。こうした壮大な戦略から生まれた第1号車、EVの「i3」はメガシティビークルと呼ばれている。
メガシティでイメージされたのはニューヨーク、ロサンゼルス、東京、上海、北京などの大都市であり、アウトバーンで代表される高速道路を走るというコンセプトとは異なり、シティコミューター的な要素が盛り込まれているのだ。
そのため全長は約4mの2ボックス・5ドアハッチバックのパッケージとしているが、一般的なハッチバックと異なるのはドアが観音開きで、リヤドアは開口面積が狭く、フロントドアを開けないと開閉できない構造になっている点が特徴だ。
だから頻繁にリヤシートにアクセスするような使い方では面倒だ。リヤシートのスペースは大人が十分にくつろぐことができるだけのスペースはあるが、閉じ込められ感がある。コンセプトから言って通常はリヤシートは折り畳んでラゲッジスペースとして活用と割り切っているのだろう。
パッケージ面では、センターピラーなしで、リヤシートに着座すると閉じ込められ感があるが、フロントシートに座っている限りは開放的な空間となっている。普通のBMWと決定的に異なるのはフロントシートがウォークスルーできるスペースがあり、足元の広々感が優れていることだ。FR駆動のBMWではここにトランスミッションがあり大きなスペースを占めているのだが。
そういう意味で、東京のような市街地は、i3にとっては最も似合った舞台と言えるだろう。試乗したのは純EVモデル。EVシステムの起動、D、N、R、Pへの操作はステアリングポスト右側に生えているダイヤル&ボタンで行なうが、その位置がイメージ的にはステアリングホイール越しにあり、少しもどかしい。意図的にこの位置にした意味があるのだろうか?
走行モードは、「コンフォート」、「ECO PRO」、「ECO PRO+」の3モードで、コンフォートが通常走行モード、ECO PROはエアコンの効きを弱めにして航続距離な重視するモード、ECO PRO+はエアコンはオフになり、最高速も90km/hに抑え最大限の航続距離を稼ぐモードとなる。当然、アクセルペダルの反応もモードにより違ってくる。実用的にはコンフォートかECO PROモードを常用することになる。
アクセルの反応は、微低速での踏み込みでは少し反応遅れが感じられるが、そこを過ぎるといわゆる早開きのクルマのように強い飛び出し感のある加速が始まり、その後はアクセルの踏み込みに応じてレスポンスよく無音の加速が楽しめる。その加速具合はアクセルを1/3ほど踏めば信号からの発進で他車を軽くるリードでき、大きく踏み込めばターボ車の加速のようにダッシュするから痛快だ。
モーターの出力が170ps、最大トルクが250Nmだから、この加速感は当然なのだが感覚的にはもっと速い気がする。エンジン車と違って加速時のキャビン内は静かで、アクセルを3/8以上踏み込んで初めてヒューンというモーター音が後方から聞こえ始めるといった感じなので、交通の流れに乗って走っている状態では、限りなく無音である。
一方、すでにあちこちの試乗レポートでも語られているように、アクセル・オフでは回生による強いブレーキがかる。正確に言うと車速に連動するようで、低中速域では強烈とも言える減速感があり、フットブレーキは無用のまま信号で停止することができる。イメージ的には急加速からいきなりアクセルを離すと、後続車から追突されそうな勢いで減速する。実はこのような回生による急減速では、自動的にブレーキランプが点灯する。0.13Gと一般的な信号停止ブレーキより少し強め以上の回生ブレーキが生じるとフットブレーキを踏まずとも、ブレーキランプが自動点灯するという。
逆にスピードが高くなると、アクセルを急に離しても回生ブレーキの効きは穏やかで、イメージ的には普通のエンジン車で5速、6速ギヤでアクセルオフしたような感じの減速となり、このあたりの制御ロジックは上手にできている。
とにかくフットブレーキは最小限しか使用しないから、普通のクルマやハイブリッドカーより、はるかにブレーキは長持ちするだろう。欲を言えば、回生力をゼロから最大までドライバーの好みで調整できるスイッチがあれば、という気がする。
EVとしての航続距離は、コンフォートモードで130~160km(基準はEUモードに準拠する)、ECO PROモードで180km、ECO PRO+モードで約200kmというのがi3の目安で、これだけでも都市部では十分な航続距離だが、実際のところ都市部では信号が多く、ゴーストップの繰り返しのため、電力の消費と減速による回生のバランスでは、回生量がかなり多いため充電頻度は思っている以上に少なく済みそうだ。逆に信号の少ない郊外道路や高速道路を淡々と走るケースでは、減速回生の機会が少なく公表航続距離よりは少なめになるはずだ。
BMWi3は当然ながらEV専用設計で、フロア、シャシー部はアルミ製でフロア部に電池パックを敷き詰め、キャビンは骨格がすべてカーボンファイバー製になっている。EV専用設計のクルマは、i3に限らず、リーフもiMiEVもテスラーもすべてフロア面に電池パックを搭載しており、低重心であることは各車とも共通している。i3が他車と異なるのは、このフルカーボン製キャビン骨格であることで、これは圧倒的ともいえる振動を減衰させた、しっとりとした剛性感を生み出している。ただしドア類もカーボン骨格に樹脂パネル構造のため、ドアの開閉はバシャッという樹脂製ドア特有のものだ。
もちろんカーボンボディのメリットは剛性や振動減衰だけではなく、圧倒的に軽量であることで、同クラスのリーフと比べて約200kg軽い、1260kg(ヨーロッパ仕様の最軽量仕様は1185kg)となっており、これは加速性能、航続距離でも有利に働いているのだ。ちなみにi3のカーボンボディ骨格はレーシングカーに多用される貼り込み成形ではなくRTM工法と呼ばれる金型成形で製造され、接着により組み立てられるという、より量産向けの技術が採用されているのだ。
i3はシャシー部の剛性も特筆もので、特にステアリング系の剛性感の高さと、それによる滑らかな操舵感はシティビークルではあってもプレミアムカーであることを感じさせる。ただ、シティビークルらしさは、ステアリングを45度以上切ったあたりから相当にクイックになるセッティングになっている。
i3の操舵感のよさ、コントロール性のよさは専用タイヤによるところも大きいと思う。i3のタイヤはブリヂストンが専用サイズとして開発し、サイズは155/70R19(レンジエクステンダー仕様はフロント:155/70R19、リヤ:175/60R19)で、要するに大径できわめて細いトレッド幅であることが特徴。
つまり、タイヤの接地面形状(フットプリント)が縦長になり、現在のクルマの多くが扁平タイヤにより横長の接地面形状であることとは対称的だ。接地面形状が縦長の方が、駆動、減速、コーナリングでの安定性、コントロール性がよく操舵フィーリングも有利だ。だからこの点がi3の操舵フィーリングやグリップ感に有利に働いているのだと思う。
一方、乗り心地は固めでよく言えばスポーティだが、荒れた路面などではちょっとシティビークルというにはハードすぎるという感じだ。じつは、日本仕様は立体駐車場の基準である全高1550mmに収めるために、i3はローダウンスプリングと専用の短いルーフアンテナを装備している。
本来の全高は1578mmなので、28mmのローダウンとなっているわけだ。ローダウン量から大雑把に考えてもスプリングレートは標準仕様より約20%以上ハードになっているはずだから、荒れた路面ではひょこひょこ感が出るのは致し方ない。逆に言えば、本来のスプリングで乗れば、相当にしっとりとした味になるのだろうと思う。
充電は、i3の右サイドでCHAdeMO(急速充電)が、そしてボンネットを開けて家庭電源ができるが、当然ながらこれはCHAdeMO規格に対応した日本専用だ。しかし、シティビークルであることを考えると、充電は出先ではなく家庭で夜間に行なうケースが最も多いはずだ。
周知のようにi3には、2気筒650ccの発電用エンジンを搭載したレンジエクステンダーも設定されている。9Lのガソリンを使用し走行中に発電することで航続距離を約100km延ばすことができる。ということであくまで電欠を防止するおまけ的な存在で、レンジエクステンダーというなら200km程度の航続距離延長は欲しいところだ。
面白いことにヨーロッパではレンジエクステンダー仕様は30%程度だが、日本の受注状況では80%に達するという。これは補助金がベース車で40万円、レンジエクステンダーが75万円という背景もあるが、EVによりオールマイティさを求める日本のユーザー層の特徴も現れていると思う。
また、リチウムイオンバッテリーは、登録から8年間、10万km保証となっている。そしてi3にはドライバー支援システムのパークアシスト、リヤカメラ、全車速対応クルーズコントロール、衝突回避軽減ブレーキ、SIMカード内蔵でコネクテッドドライブ・スタンダードを標準装備しており、ナビゲーション、ETCなども標準装備なので装備面では不満はない。
BMWi3はプレミアムカークラスにおけるEVのあり方を新たに提案したクルマであり、専用のカーボン製ボディ、オールアルミ製の専用シャシー、専用のタイヤ、専用の販売店まで作り上げ、これらを総動員することでEVとしてのあるべき姿を追求している。当然ながら価格はプレミアムゾーンだが、EVの魅力を最大限にアピールしていることは確かである。