2011 年9 月13 日から開催されるフランクフルトモーターショーで、BMWが新世代モビリティとして立ち上げる新ブランド「BMW i(ビー・エム・ダブリュー・アイ)」の第1弾となる2台のコンセプトカーが出展される。すでにその内容が明らかにされているので、詳細に検証してみたい。
新ブランド発足は2011年2月から
BMW が2011年2月、持続可能なモビリティソリューションの展開を専門に行うサブ・ブランドとして「BMWi」を発足させたことは、すでに本サイトでも報じている。BMW i は、BMWが目指すプレミアム・モビリティの新たな方向性を示すもので、この新しいサブ・ブランドの導入により、BMW グループは革新的で持続可能なプレミアム自動車メーカーとしての優位性を確保することが目的だ。
BMW i は専用のクルマとサービスで構成され、専用の開発・生産から始まり、製品とサービスを展開することで、低炭素社会に向けてのプレミアム・カーライフを実現する役割を担う目的で立ち上げられている。具体的にはBMW iは最初から電動化されたモビリティにターゲットを絞り、テレマティックス(移動体通信システム)や情報通信技術のサービスを展開し、より効率的なカーライフを提供するということである。そしてBMW iブランドの象徴となるエンブレムは、これまでのBMWのバッジの外側に、立体的なブルーのリングを加えたデザインになっている。
新ブランドの第1弾として、2013年からBMW i3(アイ・スリー) 、BMW i8(アイ・エイト) の2 モデルが導入されることもすでに決定されている。またBMWグループ自体も今後数年の間にモビリティサービスを大きく拡大する計画で、その布石として総額1億ドルを投じ、米国ニューヨーク市にベンチャー投資会社「BMW i ベンチャーズ社」を設立している。BMWは未来志向のクルマの積極的な開発、それに関連するサービス、感動を呼ぶデザイン、そして斬新なコンセプトにもとづくプレミアム・モビリティの展開を、企業としての総合戦略と位置付けているのだ。
この戦略は、2007年から将来の自動車社会に対する提案を模索していたBMWグループのシンクタンク「プロジェクトi」が出した結論でもある。プロジェクトiとは、BMWナンバーワン戦略(質的にナンバーワンの企業であることを追求する)のもとで、持続可能で先駆的なモビリティコンセプトを開発し、企業とビークルプロジェクトの両方に技術ノウハウを展開。そして最終目標は、パーソナルモビリティのためにプレミアムな製品とサービスを提供できるトップメーカーになるということなのだ。
EV社会のための実証試験を展開
そのプロジェクトiの一環として、BMWグループは現在、電力だけで走行する電気自動車の実用条件下での実証試験走行を行っている。これらは世界的規模で展開されており、アメリカと欧州で600台を超えるMINI Eを走らせている。そのテスト車による実証試験からは、将来の量産型電気自動車が満たすべき要件に関する多くの重要なデータがフィードバックされているという。
さらに2011年末にはアメリカ、欧州、中国で1000台を超える BMW Active Eの導入を開始する予定だ。これらによる実用走行評価から、性能に関する貴重な情報が得られるものと期待されている。そして、これらの情報は電気駆動システムを備えた車両の実用状態に関する知見をさらに深め、顧客の要望とニーズをより理解するために役立てられるわけだ。これらMINI EとBMW Active Eを運転したユーザーからのフィードバックは、BMW i車両の量産開発に直接活かされることになっているわけだ。
EVのi3と、プラグインハイブリッドのi8の誕生
そして2011年7月、BMW iは2台のコンセプトカー、i3とi8の概要を早々に公表した。ちなみに現時点では“コンセプトカー”とされているが、限りなく量産仕様に近い、言い換えればすでに量産開発が進行していることに注目したい。
発売時期は、i3が2014年、i8はそれより1年程度遅れると予想されている。
この2台はいずれも「LifeDriveコンセプト」に基づいて開発されている。このLifeDriveコンセプトとは、ふたつの独立ユニットから構成される。ひとつはドライブ・モジュールで、このモジュールはサスペンション、電池、駆動システム、構造機能および耐衝撃機能をアルミニウム製のプラットフォームに組み込んだものだ。もうひとつはライフ・モジュールと呼ばれ、すべてがカーボン(CFRP)製の高強度かつ超軽量のキャビンである。この超軽量構造のキャビンにより、まず航続距離が増大し、さらに動力性能やハンドリングも大幅に向上する。そしてライフ・モジュールはねじり剛性の面でも有利なため、優れたダイナミックスが実現するのだ。
従来のEV(BMWでいえばMINI EやBMW Active Eなど)は既存の内燃エンジン搭載車を改造してEVとしているが、これは重量などの点で大きな制約が生じる。このため長期的に見ると、EVとしては最良の回答とはなりえないというのがBMWの結論だ。したがって、EV専用の、電気駆動システムのすべての技術的要件(大型バッテリーを含む)を満たしつつ、軽量化や航続距離の最大限の延長、余裕のあるスペース、必要十分以上の走り、そしてバッテリーと乗員の安全性の確保を、新たなパッケージングやレイアウトを採用することで実現することにした。
軽量化を目的としたカーボン・キャビンとアルミ製のドライブ・モジュールを組み合わせるというこのコンセプトは、圧倒的な衝突安全性能を実現していることでも注目に値する。これは、超軽量設計と安全性がきわめて高いレベルで両立可能であることを証明している。F1マシンのコクピットと同様、CFRP製キャビンはきわめて強固な生存空間を作り出すことができるのだ。これまでBMWが繰り返し行ってきたポール衝突試験や側面衝突試験、横転試験などでも、カーボン素材の驚くべき安全性能が証明されてきているのだから。
そして、これまでのような金属製の構造体の場合、広い衝撃吸収ゾーンを追加する必要があるが、CFRP製の構造では特殊な変形エレメントを備えることで、驚くほど狭いエリアで高い衝撃を吸収することが可能となり、大きな衝撃力が集中してもこの素材はほとんど座屈することがないという。こうした高強度なCFRP製キャビン、LifeDriveコンセプトは、乗員と電池を最適に保護することができるというわけだ。
BMW i3コンセプトとBMW i8コンセプトのもうひとつの特徴は、同クラスの競合車よりも大径で幅の狭いタイヤ&ホイールが挙げられる。スリムなタイヤにより、空気抵抗と転がり抵抗が大幅に小さくなり、バネ下重量が軽減され、1回の充電での走行距離がさらに延長されて消費エネルギーロスを抑えていることも特徴と言えよう。
超軽量技術CFRPがもたらす恩恵
電気自動車の駆動システム(モーターや電池)の重量は、同等の内燃エンジンと燃料満タンのタンクよりも最大200 kg重くなる。故に優れた電気自動車とするためには軽量化技術をブレークスルーすることが、ドライビング・プレジャー、アジリティ、安全性の向上に導く王道なのだ。この技術のメインメニューになっているのがカーボン(CFRP)構造なのである。CFRPはスチールと同等の強度を備えているが、重量は約50%にとどまる。一方、アルミニウムの場合はスチールより30%ほど軽量でしかないのだ。
CFRPの構造から見ると、レジン樹脂加工された炭素繊維の織物からな成るCFRP製コンポーネントのほか、 i8コンセプトでは場所によっては網み上げ成形の特殊な織り方をしたCFRP構造(カーボンフィラメントワインディング)も使用されている。これはカーボン繊維を金型の上で編み物のように織った構造をしている。したがって設計の自由度も高く、必要な接合箇所を減らすことができ、フラットに段差なく結合できる特徴を持ち、高強度の実現に貢献している。
そのため網み上げ成形の構造は、特に衝突時により高い強度が求められる場所、たとえばドアシルやドア本体、Aピラーなどに使用されている。この網み上げでは、金型の直径を調整する製造工程を加えることで、肉厚を最適化することもきわめて容易にできる。さらに結合や連結部品を用いることなく、はるかに複雑な形状のものを作ることができ、なによりも切断による廃棄物も生じないのである。
また、CPRFはリサイクルについてもじゅうぶん考慮されていることも注目に値する。寿命を迎えたCFRPボディは、損傷がないクルマの場合はそのまま再使用することが計画されている。その一方で、損傷を受けたCFRPボディはレジン(樹脂)を分離させ、カーボン繊維を回収して再利用するのだ。
これたCFRPのリサイクルは、BMWのカーボンを生産するSGL社ですでにプラントを備えているという。
i3は電池をアンダーフロアに配置
BMW i3コンセプトもBMW i8コンセプトも、LifeDriveアーキテクチャー(=コンセプト)に基づいて設計されているが、具体的な実現方法はそれぞれのモデルで異なっている。
まずi3コンセプトだが、実は“メガシティビークル”という別称も持っている。メガシティビークルとは、人口800万人以上の都市での使用を想定した都市型モビリティビークル、すなわち純粋なEVとされている。i3コンセプトのハイライトは、その未来的可能性とポテンシャルをカーボンキャビンという新しいアーキテクチャー(設計構造=コンセプト)で実現した、世界初のプレミアム電気自動車ということだ。
具体的な手法として、BMW i3コンセプトはLifeDriveコンセプトの上下水平分割バージョンを採用している。それは電気駆動システムを搭載するために最適化されているもので、ドライブ・モジュールは上部に架装されるLifeセル(CFRP製キャビン)のための強固な基礎の役目を果たしている。
このことにより、ドライブ・モジュールの機能設計の大きな要素となる電池は、航続距離を延長するために可能な限り大型に作られ、この大きなサイズを考慮すると、BMW i3コンセプトで電池を収納するベストな位置はアンダーフロアとされた。この点は先行している三菱i-MiEVや日産リーフと共通の発想であり、低重心でかつ最適な重量配分を実現できるのだ。
搭載される電池はアルミニウム形材によって囲まれ、外部の衝撃から守られる。またフロントとリヤはクラッシュ衝撃吸収構造となっている。電気駆動システムは内燃エンジンよりもはるかにコンパクトにまとめられ、駆動輪を収めるリヤ・アクスル上の狭いエリアに、電気モーターやギヤアッセンブリー、駆動系エレクトロニクスがコンパクトにまとめられている。シャシーは市街地走行でベストな特性を狙い、驚くほど小さい最小回転半径とダイレクトなステアリングレスポンスを実現しているという。
i3は世界初の量産カーボンボディ
i3コンセプトのボディサイズは、欧州Cセグメントをベースにしながら、完成度の高いパッケージングを実現している。キーワードは「ダイナミック・コンパクト」で、その構造は「LifeDriveアーキテクチャー」である。超軽量、安全、広い居住空間を実現するためのキーポイントで、革新的なRTM製法で作られるCFRP(カーボン)を使用した軽量化設計のアッパーボディ/骨格を採用している。
さらに、i3コンセプトは世界初の完全な量産カーボンボディという意義も持っている。超軽量なカーボンボディは航続距離の延伸、ハイレベルの衝撃減衰性と高強度を両立させた高い衝突安全性だけでなく、ドライビング・ダイナミクスの向上にも寄与する。さらに、きわめて軽量なボディとシャシーは、駆動用電池関連の重量(約300kg)を相殺する狙いもある。ドライブ・モジュールの床面にバッテリーを配置することで、重心を低く抑えるとともに、重量配分を最適化することが可能となるのだ。
強力なモーター出力と超軽量ボディの恩恵
リヤ・アクスルに配置された出力125kW(170ps)の永久磁石ハイブリッド同期モーターは、すでにBMW Active Eのプレ量産仕様車で採用済みだが、BMW i3コンセプト用は重量と動力性能の点でさらなるチューニングが行われた。このモーターのパワーエレクトロニクスはBMW内製で、きわめて小型で高出力タイプになっている。このモーターは発進時に250Nmのトルクを発生。なおi3とほぼ同じセグメントに属する日産リーフの駆動モーター出力が80kWだから、i3のモーターが5割増し以上に強力であることがわかる。
ドライバーはBMW i3コンセプトの軽量設計の恩恵を直ちに体感できるだろう。なぜなら、BMW i3コンセプトの発進加速タイムが0→60km/hで4秒を切り、0→100km/hでも8秒以内という性能を味わえるからだ。1速のトランスミッションはリヤホイールへ最適な駆動力を伝達し、シフトチェンジによる動力の損失を生じる変速操作は不要で、リミッターが作動する150km/hまで加速が可能なのだ。
ニュートラルポジションのあるアクセルペダルとリニアなステア
i3コンセプトはアクセルペダルにも特徴がある。ドライバーがアクセルペダルから足を浮かせると、電気モーターがジェネレーター(発電機)として機能し、運動エネルギーを電流に変換して電池を充電する。このエネルギー回生はブレーキ効果を生むため、減速に大きく貢献することは言うまでもない。市街地走行では、すべての減速操作の約75%でブレーキペダルをまったく踏むことなく減速でき、きわめて強力な回生&ブレーキであることを意味する。これは従来の電気自動車と異なる点だ。つまり、油圧ブレーキに頼らずに大きな制動力が得られ、さらにこのブレーキ回生機能を積極的に利用した場合、航続距離は最大20%延長されるからだ。そして、ドライバーによる減速要求が一定のレベルを上回った場合のみ、従来のブレーキシステムも作動する。
さらにアクセルペダルだけを使った加減速以外に、フリーホイール(惰性走行)機能も持っている。BMW i3コンセプトにはアクセルペダルの「ニュートラル」ポジションが備わっているのだ。ペダルがこの位置にある限り、ドライバーがペダルから足を浮かせても回生に切り替わらず、電気モーターのゼロトルク・コントロールによりドライブトレインが切り離された状態に保たれる。このため車両は出力を消費することなく、自分自身の運動エネルギーによって惰性走行を行う。この惰性走行モードは航続距離を延長するためには非常に有効な方法なのである。つまり、i3のパワー制御は最新の電車の制御とよく似た特徴を持っているのだ。
ダイレクトな操作感に優れたステアリングは、低速時および旋回時に高い俊敏性をもたらし、駐車操作も容易にしているという。電池はリチウムイオン電池を採用し、水冷&ウォーマーシステム採用。厳冬でも高温時でも安定した出力を得られるようにしている。
航続距離は150kmだが、レンジエクステンダーも搭載可能
i3コンセプトは約150kmの航続距離を持つが、オプションとしてレンジエクステンダー(REx=航続距離延長)が用意されているのもユニークだ。RExは小型のガソリンエンジンで、これがジェネレーターを駆動することでバッテリー充電量を維持し、電気モーターの航続距離を延長する仕組みだ。バッテリー充電量が危機的なレベルに達するとRExが必要なエネルギーを供給する。なおRExと付属のジェネレーターは、スペースに余裕のあるリヤ・アクスルに設置する。この内燃エンジンはSULEV規格に適合し、オートスタート&ストップなどの機能を持っているガソリンエンジンである。
150kmという航続距離は、LifeDriveアーキテクチャーによる軽量設計だけで実現したわけではない。航続距離をアップするためブレーキエネルギー回生機能と航続距離延長を目的とした機能(ECO PROモード、ECO PRO+モード)も採用している。ECO PROモードをONにすると、すべての機能が最大効率で作動し、たとえばドライバーのアクセルペダル操作に対して要求出力を制限し、空調機能も可能な限り電力消費を節約する。同時に洗練された空力設計と幅が狭く、転がり抵抗の低いホイールが走行抵抗を最小限に抑えて、最大限の航続距離を実現しているのだ。
日常使いを強く意識したユーティリティ
またi3コンセプトは通信機能を装備しており、スマートフォンからアクセス可能なリモート機能により、ボタンをタッチするだけでドライバーに駐車位置を知らせたり、利用可能な最寄りの充電ステーションを示すことができる。そして、離れた位置からプレコンディショニング(事前エアコン稼動)を作動させ、車両の現在の状態を表示することもできるのだ。また、運転中はインテリジェントなアシスタンス・システムが単調な市街地運転のストレスを和らげるなどの機能を装備する。これらの点は限りなく、日産リーフと同様の機能と言えるだろう。
i3コンセプトのライフ・モジュールは、最新の同クラス車と比較してもより広く感じられる室内パッケージを実現している。全長は4mを切っているがロングホイールベース、高い全高で広いキャビンスペースを実現しているのだ。インテリアはラウンジ調のゆったりとした開放感を作り出している。
また、インテリア素材には再生可能な原材料を採用。ダッシュボードとドアパネルには見た目にすぐわかる天然繊維を使用し、ラウンジ調のシートには天然のなめし皮を採用している。これらの天然素材はダッシュボードとドア・エレメントのフローティング(floating)デザインとコントラストをなし、インテリアをモダンな雰囲気に演出している。
ちなみに駆動系コンポーネントはドライブ・モジュール内に格納されるのでフロアにはセンタートンネルが存在せず、フロントおよびリヤの左右座席はウォークスルーとなっている。したがってドライバーはフロントの助手席側ドアから容易に乗り降りでき、たとえば、運転席側を壁に近づけて駐車する場合などでの利便性も高い。そして4シーターであり、開度の大きな観音開きドアを持ち、約200Lのカーゴスペースがあるi3コンセプトは、日常的な使用に有利なパッケージとしている。
◆BMW i3コンセプト主要諸元●ディメンション:全長×全幅×全高=3845×1537×2011mm/ホイールベース=2570mm/車両重量=1250kg/乗車定員=4名/トランクルーム容量=約200L ●モーター:出力=125kW/250Nm ●パフォーマンス:最高速度=150km/h(リミッター付き)/0→60km/h=3.9秒/0→100km/h =7.9秒/80→120km/h=6.0秒 ●航続距離:通常の運転条件=130〜160km/FTP72サイクル=225km ●バッテリー充電時間:標準=100%充電まで6時間/オプション=80%充電まで1時間
i8は4WDを選択し、重量配分50:50を実現
一方のi8はすでに公表されていたビジョン・エフィシェントダイナミックスのコンセプトカーデザインをそのまま使用し、未来志向やインテリジェンス、革新性を備えたスポーツカーであり、エンジンも搭載するプラグインハイブリッドカーとされている。
BMW i8コンセプトは、LifeDriveアーキテクチャー(コンセプト)がスポーツカーにふさわしいタイプに変更され、トップレベルの動力性能と俊敏なダイナミクスを発揮できるようになっている。i8コンセプトのキーポイントはハイブリッド・コンセプト、すなわちフロントの電気駆動システムとリヤのエンジンとを連動させるいわゆるプラグインハイブリッドで、ハイレベルのドライビング・プレジャーを実現しようというものだ。
BMW i8コンセプトのLifeDriveアーキテクチャーは、フロントアクスル・モジュール、パッセンジャー用のキャビン、リヤアクスル・モジュールを組み合わせるというレイアウトを採用し、駆動システムはフロントおよびリヤのアクスル・モジュールに組み込まれており、この両者をCFRP製のライフ・モジュールが結合するカタチとなる。
プラグインハイブリッド車であるBMW i8コンセプトに搭載されるバッテリーは、純粋なEVのBMW i3コンセプトより電池スペースは小さくて済むので、トランスミッションが配置されるセンタートンネル状のライフ・モジュール内のエネルギー・トンネルの内部にレイアウトされている。
こうしてフロントおよびリヤアクスル・モジュールは、キャビンや電池を含み、ひとつの機能ユニットを形成。耐荷重の役割を担うだけでなく、幅広い耐衝撃機能も担っている。もちろんエネルギートンネル内に高電圧の電池を配置することで、車両は低重心で、さらに各アクスルにモーターとエンジンを配置したことにより、50:50の前後重量配分も実現している。
BMW i8コンセプトの前後アクスルは、i8がスポーツカーであることを前提に、ハンドリング特性を重視した設計となっている。フロントのマルチリンクのジオメトリーはキャンバー変化、トー変化ともにリニアな変化をする。また、前輪駆動による影響がステアリングに及ばないように配慮されている。
i8コンセプトのCFRP製キャビン内で、ドライバーはクラシックなスポーツカーのスタイルで着座するポジションとなる。キャビンはモーターとエンジンの間に囲まれ、またキャビンのフロア中央にはエネルギートンネルが縦通する。Aピラーに支点が固定された回転式ドアは広い開口部を生み出し、フロントシートとリヤシートの両方へのアクセスを容易にしている。このBMW i8コンセプトは4座席を備えるため、スポーツカーとはいえ日常的な使用に耐えることも十分に想定されていることがわかる。
i8はエモーショナルなハイブリッドスポーツ
BMW i8コンセプトは、iブランドの中でエモーショナルなスポーツカーと位置付けられる。低い全高、前後を流れるダイナミックで、かつ空力的なデザインがi8コンセプトのキャラクターを物語る。
デザイン的には前後のオーバーハングを切り詰め、電気モーターをアクスルに置いているがボンネットの高さはきわめて低い。また空力デザインを徹底し、ボディ表面の形状により気流をコントロールする手法を採用している。たとえばフロントのエアインテークから流入したエアはフロントのホイールアーチからホイール側面に流され、そのままボディサイドを流れることでエアカーテンを形成する。
ボディ側面全体もストリームフロー、つまり流速の早い気流をスムーズに導き、アンダーフロアは完全にフラットに整形しているなどエアロダイナミクスを極めており、Cd値は発表されていないものの、現時点でトップレベルの仕上がりと言える(コンセプトカーのビジョン・エフィシェントダイナミクスの段階でCd=0.22とされていたため、これに近いと思われる)。
ドアはAピラーを支点とした回転式で、CFRP製のキャビンはきわめて強度・剛性が高いため大きな乗降開口部が得られ、フロントシートだけでなくリヤシートへのアクセスも容易になっている。インテリアは、i3コンセプト共通のテーマを踏襲している。ポーセリンホワイトの構造部、ブラックのテクニカル部、そしてモカブラウンのレザーによる快適セクションで構成されている。
細部のパーツデザインはi3コンセプトと共通しているが、i8コンセプトのキャラクターに合わせ、操作系のレイアウトも含めてよりドライバー・オリエンテッド(ドライバー中心)にレイアウトされる。またキャビン中央のエネルギートンネルにより左右席はセパレートされ、ドライバー重視のスポーツカーらしいデザインと言える。メーターパネル、つまり大型ディスプレイは2つあり、ドライバーは運転状況と外部通信情報関連の操作を選ぶことができる。
高出力の3気筒1.5Lエンジンを搭載
i8コンセプトのアルミ製シャシー&ベースフレーム、CFRP製のキャビンという構成はi3コンセプトと共通だが、コンポーネンツのレイアウトとパッケージングはi8コンセプト独自のものだ。すでに述べたように、i8コンセプトはフロント・アクスル(モーター駆動)モジュール、キャビン(ライフモジュール) 、エンジンで駆動されるリヤ・アクスル・モジュールで構成される。またバッテリーはセンタートンネル内に配置される。
フロントはi3コンセプトに使用されているモーターの特性を変更して採用し、リヤは164kW/220ps、最大トルク300Nmのターボチャージャー付き1.5L3気筒ガソリンエンジンで駆動する。以前のコンセプトカー、ビジョン・エフィシェエントダイナミクスの時点ではエンジンは3気筒ディーゼルターボであったが、i8コンセプトではガソリンターボに変更したのだ。これはより厳しい排ガス規制をクリアするためには、ディーゼルよりガソリンが有利と判断した結果だろう。しかし、いずれにしても1.5Lから220psを発生する超高性能エンジンであることは間違いない。
またリヤのエンジンは、高電圧ジェネレーターを駆動する役割も果たしている。この発電機は電池を充電するために機能する。もちろん電池は家庭用電源でも充電できるようになっており、プラグインハイブリッド機能を持っており、約1.5時間で満充電できる。
i8コンセプトのシステム総合出力は260kW、最大トルクは550Nmを発生し、0→100km/h加速は5秒以下、最高速はリミッター作動で250km/hという、スポーツカーにふさわしい動力性能を持っている。なおフロントのモーターは常時駆動し、なおかつ発電用のジェネレーターも備えているために、機能的には2モーターのシリーズパラレルハイブリッドとなり、また同時に前後可変駆動トルク制御の4WDでもある。
トヨタのシリーズパラレル・ハイブリッドと大きく異なるところは、コンパクトな3気筒エンジンとしながら220psと極めて高出力を引き出していることで、モーター駆動とエンジン駆動の比率はECUにより常に最適バランスを得るとしているものの、役割としてはイーブンと考えてよいだろう。
燃費はEUテストモードで3L/100km、NEDCに近いモードで5〜7L/100kmで、この数値はアッパーミディアムクラスのスポーツカーとしては傑出していることになる。またリチウムイオン電池でフロントのモーターを駆動し、リヤのエンジンを停止するEVモードで35kmの距離を走行できるという。ブレーキエネルギー回生はフロントのモーターが担当する。もちろん積雪路やウエット路でも、車両安定性を損ねることなく最大限のブレーキエネルギー回生を行うようになっている。
◆BMW i8コンセプト主要諸元
●ディメンション:全長×全幅×全高=4632×1280×1955mm/ホイールベース=2800mm/車両重量=1480kg/乗車定員=2+2名/トランクルーム容量=約150L
●出力:システム出力=260kW /550Nm/エンジン出力=164kW/300Nm/モーター出力=96kW/250Nm
●パフォーマンス:最高速度=250km/h(リミッター付き)/0→100km/h =4.6秒/80→120km/h=4.0秒
●燃料消費量:EUサイクル=2.7L/100km(CO2:66g/km)
●航続距離:EV時の航続距離=約35km
●バッテリー充電時間:標準=100%充電まで1.45時間
BMW初のドライバーアシスタンス採用
今回の2台のコンセプトカーはともに、安全性では全速度域をカバーするプリベント・アクティブセーフティを採用していることも注目したい。このシステムはルームミラー下部に取り付けられカメラが前方の交通状況を監視し、前走車と衝突するリスクを検知する。その場合、可能な限り事故を回避できるように早期にドライバーに警告するほか、衝突の危険があると判定されると視覚と聴覚による両方の警告信号を発し、同時にブレーキの与圧が行われる。
速度が0〜60km/hではシステムの機能が拡張され、車両だけでなく歩行者をも検知し、危険がある場合は警告を発するだけでなく、自動的に非常ブレーキを作動させる。また市街地での自動縦列駐車機能、渋滞路では自動追従&レーンキープが可能で、45km/hまで自動加速走行できるドライバーアシスト機能も備えているのだ。
なお、BMWはiシリーズの発売時点で、i3/i8は200〜400台/日の生産台数で計画しているという。
文:編集部 松本晴比古