
2016年9月26日、BMWジャパンは燃料電池プロトタイプの5シリーズ・グランツーリスモを公開した。このプロトタイプは2015年7月に南フランスで行なわれたBMWイノベーションデーで世界初公開されている。
その5シリーズ GT 燃料電池プロトタイプは、9月23~25日に長野県軽井沢で開催されたG7軽井沢・交通大臣会合(参加国:日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、EU)に参加するドイツの交通大臣とともにやってきたのだ。

このG7軽井沢・交通大臣会合では自動車、道路に関する自動運転を含む最新技術の開発・普及、交通インフラ整備と老朽化への対応のための基本的戦略などが討議されているが、同時に自動運転やFCVのデモンストレーションも行なわれたのだ。

5シリーズ GT 燃料電池プロトタイプ(BMWは燃料電池車をFCEVと呼ぶ)は、既存の5シリーズ・グランツーリスモをベースに、トヨタ製の燃料スタックを採用。燃料スタックやFCEV補機、制御システムはフロントのエンジンスペースに配置され、FCEVで問題となる水素タンクは拡幅されたセンタートンネルにレイアウトしている。
そしてリヤ・アクスルの床面に、1KWhのリチウムイオン・バッテリー、リヤ・アクスルに電動モーター+2速減速で駆動されるFR駆動方式を採用している。燃料電池車とはいえ、きちんとブランド・キャラクターが反映されていることを示し、BMWの掲げるエフィシェント・ダイナミックスを実現しているという。

また、パーッケージング的にリヤ席が2名乗車とはなっているが、ドライビング・ポジション、居住スペース、ラゲッジスペースを含めこれまでのクルマと同等の使い勝手になっていることも特徴だ。車両重量は2100kg程度。

今回のプロトタイプ車で各種の実走テストを行い、実証実験の結果FCEVが量産化技術として完成したことが確認された。このためこれまでのBMWのエフィシェント・ダイナミックス戦略、つまりツインパワー・ターボ・テクノロジー、そしてBMW eDriveテクノロジーを搭載したインテリジェント・コントロール式プラグイン・ハイブリッド・システムと電気自動車に次いで、この燃料電池とeDriveテクノロジーを組合わせたFCEVが4番目の柱として追加されることになった。簡単に言えば、ダウンサイジング技術、PHEV技術、EV技術の3本に加えてFCEVがあたらに加わったということだ。

BMWは2013年にトヨタの業務提供を結び、2020年までにFCEVの実証済みコンポーネント群を作り上げるというトヨタとの共同目標を掲げた。それが実現したといえるわけだ。

結果的にはトヨタの燃料電池スタックを使用し、BMWオリジナルの出力180kW(245ps)の電気モーター、パワー・エレクトロニクス、一時的なエネルギー貯蔵装置である高電圧のリチウムイオン・バッテリーの組み合わせとなり、BMW iモデル、BMWブランドのプラグイン・ハイブリッド・モデル用のBMW eDrive テクノロジーを活用しているのがわかる。



センタートンネル形状に合わせた水素タンクを搭載し、ドイツで産業用に標準化された700bar の圧縮水素ガス(CGH2)と、BMWが特許を取得している350barの圧力で水素ガスを極低温貯蔵するクライオ圧縮水素容器テクノロジー(CCH2)のいずれも使用できるようにしている。クライオ圧縮水素は、専用のクライオポンプで低温圧縮してガスを凝固させ、水素密度を高める技術だ。水素タンクには水素ガスの場合は4.5kg、クライオ低温凝固ガスの場合は7.1kg充填でき、航続距離は圧縮水素ガスで450km、クライオ低温凝固ガスでは700kmとなる。
動力性能は、0-100km/h加速が8.4秒、最高速度180km/hで、強力なモーターによる気持ちよい加速など、BMWらしいダイナミックな走りも実現しているという。
なおBMWは燃料電池車に使用する水素は化石燃料由来の水素ガスは使用せず、再生可能エネルギーから生まれた電力の余剰分を電気分解して水素ガスを生成し、これを使用するというから興味深い。これは余剰電力の電力エネルギー・キャリアとして水素を使用するというドイツ政府のエネルギー戦略に合わせた方針だ。
いずれにしてもBMWは、燃料電池技術は、すでに実績を重ねているeDriveテクノロジーを組み合わせることで、BMW iモデルはもちろん、将来的にはBMWブランドの量産モデルにも採用する技術は確立させたといえる。しかし、BMWは市販に移行するためには燃料電池のコストの大幅な低減と、水素インフラの整備の拡充が必要と考えており、FCEVの市販化は2020年頃と想定している。