BMWジャパンは、2014年10月1日に新型「2シリーズ アクティブツアラー」(F45)を発表した。実際に日本に上陸し、デリバリーが開始されるのは12月の予定だ。FR駆動方式にとりわけこだわってきたBMWがついにFF駆動方式を採用したしたのはなぜか。注目の2シリーズ アクティブツアラーを様々な面から探ってみた。
BMW本社の開発本部・車両インテグレーション(運動性能統括設計)部・チーフエンジニア、ニルス・ボルヒャー氏は、2シリーズ アクティブツアラーの開発構想は2009年に始まったと語った。このプロジェクトではすべてをリセットし、パッケージングなどもゼロベースでの開発になったという。
BMWはこれまでCセグメントの1シリーズまでFR駆動方式にこだわってきたが、ボディサイズに制約があるCセグメントでFR駆動方式を選んだ場合、縦置きトランスミッションがほぼすべてキャビン部に入り込む、センタートンネル部の断面積が大きい、リヤアクスルはデファレンシャルを抱えるためリヤフロアを低めるのに制約がある・・・といった点が問題になる。実際、1シリーズではリヤ席の足元スペース、ラゲッジ容量などは弱点になっていたのだ。
従って新たにCセグメントのクルマでスペース効率を重視して開発するためには、フロントにエンジンを横置きするFF駆動方式が必須になる。これまでBMWがFR駆動方式にこだわってきた理由は、運動性能、ドライビングプレジャーに対する執着であり、後輪で駆動し、前輪で操舵することで、トラクション性能と上質で鋭いステアリング・フィーリングを両立させるということであった。なお、今回登場した2シリーズ アクティブツアラー以外に、今後は2シリーズのバリエーションも追加されると予想される。現状では2シリーズ・クーペは1シリーズをベースにしたFRを継承しているが、次期型はFF化されることは間違いない。
キャビンのスペースを優先すれば、現在のコンパクトカーの主流であるFF駆動方式に加えキャビンフォワードのパッケージングを選ぶのは必然だったといえるかもしれない。BMWがこのクルマのターゲットにしている若いファミリー層を調査したところ、80%が駆動方式を知らないという事実が判明し、FF化を後押ししているが、キャビンのスペースユーティリティはきわめて重視されているのだ。しかしもちろん、BMWはFFであってもアンダーステアになりにくく、ドライビングプレジャーを高めるという課題はクリアしなければならない。
言い換えれば、FF方式として広いキャビンと多用途性、快適性を高めながら、ダイナミックでスポーティな操縦性、正確なステアリングなどBMWのDNAを盛り込む必要があったわけだ。
BMWはこうした新たな開発のためにプラットフォーム、主要なコンポーネンツのモジュール化も進めていた。BMWにとって重要なエンジンは、いち早くモジュール設計を徹底し、1気筒当たり500ccの排気量で、1.5L・3気筒、2.0L・4気筒、3.0L・6気筒のモジュール化されたエンジンをラインアップした。これらの新設計エンジンは、ダウンサイジング・コンセプト、ターボ直噴、吸排気可変バルブタイミング(ダブルVANOS)、バルブトロニック(吸気可変バルブリフト)、低フリクション化などを網羅している。つまり、底辺に位置する1.5L・3気筒エンジンでもフル装備で、MINIにも搭載され、その一方でスーパーカーのi8にも搭載されている。
また、新開発パワーユニットはFF(横置き)、FR(縦置き)、プラグインハイブリッド、ハイブリッドに対応でき、世界の最も厳しい排ガス基準に適合できる設計になっている。実際、2013年のフランクフルトショー、東京モーターショーに出展された2シリーズ アクティブツアラーの原型となっている「コンセプト アクティブツアラー アウトドア」は1.5Lエンジンにプラグインハイブリッドを組み合わせており、プラットフォーム、エンジンともに、モーター、リチウムイオン電池を搭載できることを示している。
このモジュール設計されたエンジンは、ガソリン・エンジン/ディーゼル・エンジンも基幹パーツの大幅な共通化も図られているのもミソで、ディーゼル・エンジンはガソリン・エンジンと約60%の部品を共用しているという。そして現在から今後のBMWエンジンは、ガソリンもディーゼルすべてこのモジュール化シリーズとなる。
2シリーズには、1.5L・3気筒(B35B15)、2.0L・4気筒(B48B20)の2機種が設定されるが、いずれのエンジンも出力はトップレベルで、さらにスタート&ストップや減速エネルギー回生、コースティング機能も盛り込み、燃費も高いレベルとしている。なお1.5Lエンジンは圧縮比11.0で標準ターボ、136ps/220Nm。2.0Lは圧縮比10.2でツインスクロールターボを装備し231ps/360Nmを発生する。
動力性能は、218iが0-100km/h加速が9.3秒、最高速200km/h、225iが0-100km/hは6.8秒、最高速205km/h。
横置き用のトランスミッションはアイシン製で、1.5Lエンジンを搭載する208iは6速AT、2.0L・4気筒を搭載する225iは8速ATが採用され、いずれもコーストモード(無動力走行)付きだ。本国仕様ではゲトラグ製6速MTも設定されている。なお8速ATはローンチコントロール(急発進用の制御)も備えている。
プラットフォームは、「UKL1」と名付けられたスケーラブル(拡張可能)タイプだ。搭載エンジンからもわかるように、2シリーズのプラットフォームは新型MINI共通で、新型MINIのほうが一足先に発売されている、ただしボルヒャー氏によればアーキテクチャーは同じでも実際のロワボディの作りは相当に異なっているという。それはイギリス・オックスフォード工場と、ドイツのライプチヒ工場の違いであり、クルマのコンセプトの違いであるとも言える。言い換えればそれこそがスケーラブル・プラットフォームの特徴なのだ。なお、このFFプラットフォームには「UKL2」も存在し、これは今後登場する新型1シリーズ、X1に採用されるという。
2シリーズ アクティブツアラーは、その車名のように多用途ワゴン的な要素を盛り込んだヤングファミリー層向けのMPV(多目的車)で、直接的なライバルはメルセデス・ベンツBクラスだ。パッケージングは、ショートノーズ、フォワードキャビンでグリーンハウスのボリュームが大きなハッチバック、ということで従来のBMWとはまったくプロポーションが異なっており、スポーティさやダイナミックさは希薄である。
ドライビングポジションは、セミ・コマンドポジションとし、従来のBMWのクルマより着座ポイントが高められ、前後の足元スペースが広げられている、さらにリヤシートは130mmの前後スライドを備え、リヤシートバックは-1.5度~28.5度まで3段階のリクライニングができる。シートバックの折り畳みは40:20:40。そしてラゲッジスペースは468L、後席を畳むと1510Lとなる。
2シリーズ アクティブツアラーのエクステリア・デザインを担当したBMWデザイン部門エクステリア・クリエイティブディレクターの永島譲二氏は、ミニバン、MPVらしくなく、BMWのDNAを盛り込んだダイナミズムが感じられるデザインを目指したという。
そのため、全体のフォルムはウェッジシェイプを強調。フロントマスク、サイドパネルはダイナミックさを強調する凹凸面を採用している。キャビン全体は小さく低く見せるためにAピラー角の倒し角度を強めに。そしてサイドウインドウの面積を狭くし、Cピラー部はホフマイスター・キンク(折り返し)を採用するなど、BMWのデザイン・アイコンも盛り込むとともに、スポーティさが感じられるフォルムとしてまとめられている。さらに空力性能はCd=0.26とクラストップレベルに仕上げられている。
2シリーズ アクティブツアラーは、ライバル車に対して乗り心地、コーナリング進入やブレーキ時の滑らかな挙動、コーナリング性能、正確で気持ちよいステアリングなどで上回ることが求められた。もちろんその前提として、FF駆動方式でもBMWらしい操縦性、ステアリングフィーリングを実現しなければならなかった。
サスペンションは、フロントがシングルジョイント・ロアアーム式のストラット、リヤはマルチリンク式で、いずれもシンプル、軽量、高剛性、低コスト化などの要素が追求されている。フロント・ロアアームはL字型の高張力鋼によるハットレスの溶接板金構造としている。またハブキャリアはアルミ鋳造製。ステアリングはCセグメント向けのシングル・ピニオンアシスト式を初採用し、低摩擦、トルクステアを感じさせない正確で滑らかなステアリングフィーリングを追求している。オプションとしてバリアブル・スポーツステアリングも設定されている。正確で滑らかな操舵フィーリングを実現するためフロント部分の骨格の剛性が大幅に高められ、ストラット・アッパーマウントはアルミダイキャスト材を採用。ドライブシャフトは、トルクステアを抑制するため左右等長の3ピースタイプ。
またシャシーの制御では、DSC、DSCオフモードでは電子制御LSD、さらに滑りやすい路面でもトラクションとステアリングを最大限に確保する新開発のパフォーマンスコントロール・システムを新採用している。これは滑りやすい路面でプレビュー制御によりトラクションと前輪グリップ力を確保することで、強いアンダーステアを発生させることなくステアリング操作通りにカーブを走行できるというものだ。BMWがトラクションの確保と弱アンダーステアな操縦性にこだわりを持っていることがわかる。
ボルヒャー氏によれば、スラローム、ダブルレーンチェンジなどのテストでも、明らかにライバル車を上回る結果を得てると語り、MPVというキャラクターにもかかわらず運動性能、走りは従来のBMWのダイナミクスを備えていると断言している。
2シリーズ アクティブツアラーは、ドライバー支援システムも積極的に採用。標準仕様(スタンダード除く)でも常時通信接続によるSOSコール/テレサービス、レーンデパーチャーウォーニング、前車接近警告、歩行者検知機能付き衝突回避・被害軽減自動ブレーキ、LEDヘッドライトなどを装備。オプションではドライビングアシスト・プラス、つまり全車速追従型アダプティブクルーズコントロール、ヘッドアップディスプレイの追加を選択できる。こうしたドライバー支援システムの採用など、クラスを超えた装備を備えているのもアピールポイントだ。
2シリーズ アクティブツアラーはBMWにとって歴史的なFFモデルであり、また初のコンパクトMPVである。今後はこのプラットフォームをベースに多くの車種が展開されると予想される。12月に導入されるこのクルマの仕上がり具合が楽しみである。