BMW3シリーズに「グランツーリスモ」が加わった。セダン、ツーリングに続く3番目のモデルである。国際プレス試乗会に参加したので、細かい解説と試乗インプレッションをお伝えしよう。
欧州での冬期試乗会は、雪が降らず穏やかな気候の地中海沿いで開催されることが多いが、今回もイタリア南部に位置するシシリー島だった。
今回の取材でBMWのグランツーリスモの造り方の定石が判った気がする。5シリーズ・グランツーリスモと同じように、3シリーズ・グランツーリスモもホイールベースを伸ばし、車高を上げ、少し高いルーフからハッチバックにかけてなだらかなラインで下がり、後席のレッグルームを広くし、ラゲッジルームも広くするというものだ。 3シリーズ・グランツーリスモのボディは全長4824mm、全幅1828mm、全高1508mmで、3シリーズ・ツーリングと比べると全長は200mm長く、全幅は17mm広く、全高は81mm高い。ホイールベースは110mも長く2920mm。このホイールベースは中国で製造され中国だけで販売される3シリーズ・セダンのロングボディと同じである。
3シリーズ・ツーリングと比べると、前席のヒップポイントは59mm高い。内訳はタイヤ径により15mm高くなり、サスペンションで25mmとシートレールのかさ上げが19mmで合計59mm。これによりBMW X1とほぼ同じヒップポイント(路面からの高さ)になり、乗り降りがしやすい高さになっている。
Mスポーツサスペンションを採用したモデルは標準モデルより10mmローダウンされているので、この場合のヒップポイントは、タイヤ15mm、サスペンション15mm、シートレール19mmで合計49mmアップになる。グランツーリスモのホイールベースは110mm伸びたことで、後席のレッグスペースが72mm拡大している。残りの38mmはリヤシート位置をリヤアクスルに対して、前方にレイアウトするために使っている。これによりホイールハウスの影響を受けないフラットなバックレストになっている。このグランツーリスモ専用のリヤシートにより、3シリーズ・セダンやツーリングより後席3人乗りが楽になっているわけだ。
ラゲッジスペースは520Lで3シリーズ・ツーリングより25L大きくなっている。40:20:40に分割されるリヤシートのバックレストを前に倒すことにより1600Lまで容量を拡大できる。ラゲッジスペースにはアルミ製のレールが左右に通っており荷物を固定するフックも付く。ランフラットタイヤを履くのでスペアタイヤ用だった場所は収納スペースになっているのだ。
エクステリアはほとんどのパーツがグランツーリスモ専用になっている。3シリーズとの共通部品はドアミラーとドアハンドルだけだという。そしてフロントの見た目はちょっと大きな3シリーズという印象だ。それはフロントにあるキドニーグリルがひと回り大きくなり、少し高い位置になったせいだろう。ボンネットは30〜40mm高くなり、ルーフも高くなったのでバランスを取ってあるのだ。
空力はセダン、ツーリングより凝っている。ヘッドライトの下のフォグランプの脇から空気を取り入れてタイヤハウス内に出すまでは共通だが、タイヤの後ろ側でできるタービュランスを消すために、タイヤハウス内の後ろ側から空気を吸い出し、フロントフェンダー後部の「フ」の形をしたエアブリーザーから排出している。こんな努力があるためか、Cd =0.28と優秀なレベルにある。
グランツーリスモはリヤゲートを備えるため、デッキ部分が短いが、ここに可動式のスポイラーが付く。このアクティブリヤスポイラーは110km/hで自動的に上がってくるが、運転席ドアにあるパワーウインドウスイッチの手前にある専用スイッチでマニュアルでも動かせる。
フロントウインドウとAピラーはツーリングに比べると角度が2度立ち上がっている。そのままルーフへとラインが続き、運転席の頭上でピークとなりリヤデッキに向かってなだらかに下がっていくというフォルムだ。このため運転席の座面からルーフまでが1048mmでツーリングより22mm増えている。後席はルーフが後ろに向け下がってきているが974mmでツーリングよりプラス1mmと同等レベルだ。ダイナミックなデザインにするために左右のウインドウは内側に少し倒れ込んでいるが圧迫感はあまりない。
実際に乗り込んでみると、シートのヒップポイントが高めなので腰に負担が掛からず乗り降りできるのが良い。ドアはサッシュレスだからコンフォートオープン(リモコンキーのアンロックボタンを長押し)してウインドウを下げるとさらに楽に乗り込める。リヤドアのウインドウもサッシュレスだが、5シリーズ・グランツーリスモと違って三角窓が付かないタイプになったためウインドウは全開にはならない。
ダッシュボードは3シリーズそのものである。運転席からの眺めはアイポイントが少し高くなったことに違和感はなく、普通に3シリーズを運転している感じだ。ダッシュボードの上面に対してボンネットが少し高い位置にあることで、セダンとツーリングとの差を感じるくらいだ。
違和感がないのはハンドリングのせいもある。車高が高くなり、当然重心も高くなり、アイポイントも高くなっているが、3シリーズそのもののハンドリングだ。直進や微小操舵時の反応やハンドルの手応えはほどよいダイレクト感と安定性で安心できる。コーナリングでも過度のロールはなく安定性は高い。ホイールベースが伸びているが特に回頭性が落ちることもなく、安定感とうまくバランスがとれている。つまり3シリーズらしいノーズの入りが素直で気持ち良いハンドリングは継承されているということだ。
今回試乗したのはターボディーゼルの320d、ガソリン6気筒ターボの335i、この2グレードだった。この他にディーゼルには318dがあり、ガソリンは320i、328iが本国では用意されている。 320dは直列4気筒2.0Lのターボディーゼルである。すでに日本にも導入されているエンジンで、184ps/4000rpm、380Nm/1750−2750rpmのパワーとトルクを発揮する。約1.6トンのボディだが、これだけのトルクがあるからエンジン回転数を高くしなくても楽々走りストレスがない。8速ATがどんどん高いギヤ比を選ぶため高速道路ではエンジン回転数は低く、静かで燃費の良い走りが実現できる。アクセルペダルを踏んだだけモリモリとトルクが湧いてくる感触はターボディーゼルの味で、これは病み付きになる。
日本にはガソリンエンジンが導入されることになると思われるが、そのネーミングの通り長距離ドライブに適したこのクルマのキャラクターにはディーゼルエンジンが合っていると思う。
335iは6気筒3.0Lのツインスクロール・シングルターボエンジンで、306ps/5800rpm、400Nm/1200−5000rpmのパワーとトルクを発揮するお馴染みのエンジンだ。日本に導入されている新型3シリーズでは335iはなくなり、同じエンジンを使うアクティブハイブリッドになっているから、久しぶりに純粋な335iに乗った。
320dに比べて335iの車重は大人1人分重くなるが、低回転から発生する太いトルクと、高回転まで軽く回るパワフルなエンジンは車体を軽く感じさせる。ハンドリング性能も前後荷重配分が50対50なので、6気筒ターボエンジンの重さも感じることなく、軽快な走りができた。
試乗した335iグランツーリスモ・Mスポーツパッケージが装着していたタイヤはコンチネンタルのスポーツコンタクト5というハイパフィーマンスタイヤで、前225/45R19、後255/40R19であった。ドライビングパフォーマンスコントロールにより、コンフォート、スポーツ、スポーツ+から走り味を選べるが、硬めのスポーツを選んでもタイヤのゴツゴツ感もあまり感じない。19インチとオリジナルから2インチアップしているのにもかかわらず意外なほど快適な乗り心地だった。
このグランツーリスモは、どんな人たちが喜ぶクルマなのかを考えてみた。スポーティさと純粋なハンドリング性能や取り回しの良さならオリジナルの3シリーズが最適だろう。しかし後席に人を乗せたときの快適性を求めるなら、もう少し長いクルマが良い、しかし5シリーズのボディでは大き過ぎるというユーザーにはジャストフィットのモデルかもしれない。
後席のスペースは5シリーズ・セダンよりゆとりがありそうだが、横幅やシートの包まれ感なども含め快適性は5シリーズ・セダンに分があるのは間違いない。このあたりはきちんと棲み分けができているようだ。長距離ドライブに適したグランツーリスモだが、市街地で使うときには車幅が広くない後席にゆとりがある3シリーズというニーズにも応えられそうだ。
BMW3シリーズグランツーリスモ諸元