マニアック評価vol121
640iからデリバリー開始。650iは9月以降
クーペ、カブリオレに続く第3弾。BMW6シリーズに新たに4ドアモデル「グランクーペ」が加わった。すでに国際試乗会でのインプレッションが九島辰也氏によりレポートされているが、2012年6月5日より国内でも販売されているので、あらためて、国内市場の視点からインプレッションをお届けしよう。
今回のBMW6シリーズの4ドアモデル「グランクーペ」のラインアップは640i、650iの2モデルがあり、その違いは搭載されるエンジンだ。640iには直列6気筒+ツインスクロールターボ3.0Lエンジンが搭載され986万円という価格。上級モデルの650iはV型8気筒+ターボの4.4Lエンジンで1257万円という価格で販売される。650iは現在導入が少し遅れていて、9月から10月ごろにかけてデリバリーされるということだ。
今回試乗したモデルは640iのMスポーツパッケージである。BMW6シリーズとしては3代目にあたり、1976年に発表された初代6シリーズは世界一美しいクーペと言われていた。その後継モデルだけに、プレミアム・ラグジュアリーとして追求されたBMWとしては初の4ドアクーペである。
BMW6シリーズのグランクーペは、クーペをストレッチした4ドアモデル。その結果ホイールベースは5シリーズと同じ2970mmで、全長では5シリーズを上回るサイズとなっている。
6シリーズクーペは全長4895mm、ホイールベース2855mm。グランクーペの全長5010mm、ホイールベース2970mm。5シリーズセダン全長4910mm、ホイールベース2970mmとなっている。
高速道路もコーナリングも、どこまでもスムーズ
AutoProve編集部として、グランクーペでもっとも注目したのは走りの性能、特にハンドリングだった。インテリアの豪華さ、ラグジュアリーさ、そして質感の高さは特筆ものですばらしい。エクステリアも4ドアでありながらクーペボディのように滑らかな曲線を描いたデザインとなっているのだが、やはりBMWらしく走りの性能に強い魅力を感じたのだ。
グランクーペの走りのポイントはリヤタイヤの操舵だ。電子制御されたBMWのハンドリングはフロントが車速に応じて切れ角が変化し、アシスト量も変化するアクティブステアリングを搭載。同時にリヤタイヤも操舵し、前後輪統合システムのインテグレイテッド・アクティブ・ステアリングを搭載しているのだ。その結果、走行フィールでは、完成度の高い新しいコーナリングを体験できることになる。
リヤタイヤは、60km/hまではステアリングとは逆の向きに操舵し、60km/hを超えると同位相に操舵する。最大で3度の操舵角があり、低速域では俊敏性、取り回しの良さが強調される。実際の走行ではタイトなヘアピンカーブなどでその威力を簡単に感じることができる。5mを超えるボディの大きさをまったく感じさせずクルクルと旋回するようにコーナーをクリアしていく。舵角が足りず切り足したときには、アンダーステアが出そうなものだが、逆にヨーモーメントが強くなりどんどんノーズがイン側を向いていくのを体験する。
中高速域へ速度域が上がると安定性が高まる。とりわけ魅力を感じたのは高速域での安定性だ。FRの魅力のひとつとして、リヤタイヤが踏ん張りながら駆動を続け、フロントで方向を決定していき、スロットル開度でコーナー出口を目指してコントロールするという醍醐味があるが、グランクーペは違う。
同じようにリヤタイヤで駆動しているが、コーナーを徹底的に滑らかにクリアしていくのだ。つまり、リヤタイヤを踏ん張らせない、スロットルでコントロールしなくても高い速度で駆け抜けることができるのだ。この感覚はリヤタイヤが操舵されているために感じるもので、コーナリングの常識を変えるまったく新しい走り方を実現したモデルといえる。もちろん、速度が高くなりすぎれば、最終的にはリヤタイヤのグリップ限界を超えることにはなるのだろう。
4ドアであっても基本はやはり2+2クーペ
実はBMWの4輪操舵は5シリーズや7シリーズにも搭載されている。他社でも、また過去にもこの4輪操舵を搭載したモデルがいくつかあるが、グランクーペはその制御の完成度が高くなったということだ。おそらく、普通には4輪操舵であることには気づかない。よく曲がり、ハンドリングのいい、さすがBMWだ、という評価が多いのではないだろうか。
ここまで書いておきながら、このグランクーペはアジリティを売りにしたモデルではないとも伝えたい。というのは、元気よくワインディングを走り、楽しむということではなく、高速コーナリングでも低速コーナリングでも頑張らなくてもスムーズに、コーナーを撫でるように滑らかにコーナリングするからだ。グランクーペほどのプレミアムなモデルには「頑張る」という行為がなくても素早く、俊敏にコーナリングしていくのが、さも当然といった雰囲気だからである。
スポーツカーの楽しみでもあるコーナリングが、6シリーズグランクーペではさりげなく俊敏というカタチに変貌し、ゴージャス感とマッチする大人の世界観へと導いているモデルと感じたのだ。
走りをコントロールするデバイスも最先端の制御が行われている。「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」という制御があり、そこにはSPORT+/SPORT/COMFORT/COMFORT+の4つのモードがある。どのように、制御されているのか?という点については表を参照してほしい。
表中のパワートレーンで、制御変化があるのはエンジンレスポンス、ATシフト・プログラム、AT変速スピードである。また、シャシー&サスペンションでは、パワーステアリングのアシスト量、インテグレイテッド・アクティブステアリング制御(4輪操舵)、ダンピング特性(ダンピング・コントロール装着車)、ロール特性(ダイナミック・ドライブ)が変化する。そしてDSCはダイナミック・スタビリティ・コントロールで、アクション的には横滑り防止装置がSPORT+のときだけ解除される。
グランクーペのドライビング・パフォーマンス・コントロールのモード選択に関わらず、ATシフトレバーを助手席側へ倒すだけで、スポーツモードとなり、シフト・プログラムが瞬時に変更される。このときメーター内にはS3、S4という表示がされる。常にマニュアルモードで走行する場合は、再度ATレバーを助手席側へ倒すと、マニュアルモードに固定できる。また、通常のDレンジで走行中にパドルシフトを操作するとM3、M4と表示されマニュアルモードに切り替わるが、加速している間はマニュアルモードのままで、加速をやめるとATモードへ戻る。
インテリアの居住性についてだが、フロントはBMWらしくドライバーオリエンテッドなデザインで構成されている。パドルシフトやシフトレバーでのギヤチェンジもZF製8速ATだが、DCTのようにクイックにレスポンスする。スポーツモードのDレンジではダウンシフトのときにブリッピングもするというスポーツ性があり、運転していて楽しい。
4ドアであるからリヤシートの居住性についても触れておこう。結果から言えば、このスペースを重視するなら5シリーズセダンがいい。サイドウインドウを内側に倒し、ルーフを絞り込んだデザインにしているために、後頭部側面が狭い。頭が触れてしまうことはないが、やや閉塞感を感じる。とはいえ、前席との距離やソファのような大きさのシートなどはプレミアムクラスに相応しいものであることは言うまでもない。
5人乗車はできることになっているが、フロントから繋がる大きなコンソールがリヤシートまで到達しているために、見るからに無理があり、実際は2+2という使い方になる。また、トランク容量も460Lでこのサイズとしては決して大きいとはいえないが、6:4の分割シートもあり、トランクスルーという小技も盛り込まれている。
新たに誕生してきた4ドアのグランクーペは、ベースとなった6シリーズクーペのダンディズムを犠牲にすることなく、逆に走りには磨きをかけつつ、実用域を拡大したモデルであると言えるだろう。
BMWをよく知るユーザーで資金豊富な人には、ただ高級なインテリアであっても食指は動かない。やはりそれなりのラグジュアリーさやプレミアム感は持ちながらも、オリジナリティがなくては魅力を感じない。それがBMWの場合、走り、そしてハンドリングの価値観がBMWらしさであり、魅力であると訴え、6シリーズのグランクーペには大人なハンドリングを提供しているということだろう。