雑誌に載らない話vol24
新型BMW X3(F25)に試乗する機会があり、高速道路やワインディングをテストしてみた。すると、ハンドリングのベンチマークであるBMW社のハンドリングにはさらに磨きがかかり、とくにパワーステアリングが実にリニアな反応を示し、とても快適にドライブできた。
さてそのパワステだが、一般的には油圧アシストであり、最近では電動でのアシストが増えてきている。このX3の資料によれば「電気機械式」となっている。だからいわゆる電動アシストのことであると合点していた。しかし、電動アシストにしては非常に操舵フィールがよく、出口に向かってRがきつくなるようなコーナーでも実にリニアに操舵できるので、この電動機械式というのは、どのような仕組みになっているのか調べてみることにした。
システムはZFレンクシステム社がBMWに供給しているもので、ZF-LS社とボッシュの合弁会社が製造しているものだ。通常、電動パワーステア(EPS)は、コラムモーター式(EPS c)が多く、また、VWゴルフ、メルセデスなどに採用されているEPS dp(デュアルピニオン式)のどちらかの仕組みが採用されている。がしかし、第3のEPSが存在していたのだ。
その第3のEPSを積極的に採用しているBMWでは「電気機械式」という表現を使用しているが、正式にはEPS apa(paraxial drive、またはaxially parallel layout =ラック軸並行式)と呼ばれるものである。
↑左)ラックはベルトを介して駆動される。→ベルトはコンチネンタルグループ製
ZFレンクシステム社では、高性能スポーツカー、中上級クラス用SUVなど大入力用と位置付けているもので、構造的にはサーボモーターで駆動されるコッグドベルトにより、リサーキュレーティングボール式のシャフトを伸縮させることでスピンドルシャフトと一体のステアリングラックを作動させるというものだ。
つまりモーター→コッグドベルト→ボールナットによりラック軸を作動させるので、きわめてフリクションが小さく、13kN以上という大トルクを発生できる。そして、ベルトドライブのためモーターの取り付け位置の自由度が高い、といったメリットがある。
またこのシステムでは低騒音でノイズ遮断性能に優れているため、ステアリングラックをサブフレームに固定マウントできるのも強みで、これによりダイレクトなステアリングフィールを得ることができるとしている。絶妙な操舵フィールはこのあたりの取り付けも大きく影響していると想像できる。
BMWでは2006年モデルのBMW1、BMW3シリーズから採用が始まり、現在では最新のX3までカバーされている。なおこのシステムに採用されているベルトはコンチテック社製の5度斜め歯ベルトで、きわめて薄型だがカム駆動用タイミングベルトの技術を援用しているという。ただ、ステアリング用という条件から、-40度〜120度Cに耐える、つまりエンジン用タイミングベルトよりはるかに低温に耐える仕様になっている。
文:編集部 松本晴比古
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