BMW・X6はスポーツアクティビティクーペという名称で2008年に登場したクーペスタイルのクロスオーバーSUVだ。6シリーズ譲りのクーペスタイルを採用したことで、従来のSUVより一段とパーソナル色の強いクロスオーバーカーであることを訴求している。
X6は直6ツインターボの3.5L、V8ツインターボの4.4Lの2種類のエンジンを搭載するモデルとMエンジンの搭載モデルをラインアップ。
そして2009年に追加されたのがX6ハイブリッドである。BMWとしては7シリーズのハイブリッド7に続くハイブリッド第2弾である。
ハイブリッド7とは異なり、X6ハイブリッド採用されたのがグローバルハイブリッド・コーポレーションで生まれたハイブリッドシステム(AHS2 )だ。グローバルハイブリッド・コーポレーションは、GM、ダイムラークライスラー(当時)によって2004年に設立が合意され、翌年にBMWが加わり3社の合弁会社として2005年に設立された。本拠はミシガン州にあり、トヨタ・プリウスの成功を見て独自のハイブリッドシステムを開発しようという狙いになった経緯がある。
ここで開発されたシステム、AHS2(市販名称は2モードハイブリッドと呼ぶ)は発電モーターと駆動用の2モーターと3個の遊星ギヤ、4個の多板クラッチを組み合わせたもので、エンジン直後のパワースプリット用と低速用、高速用のトランスミッション側のそれぞれに遊星ギヤユニットを配置するというのが基本レイアウトになる。
2モードと呼ばれるのは次のような作動モードだからである。
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・低速モード:モーター単独でもエンジン動力単独でも、そして、その両方でも駆動力を発生する。遊星ギヤの作動によりギヤ比は電気的CVT、つまり無段変速となる。No1モーターは発電用、No2モーターは駆動用である。
・高速モード:高速走行時や、負荷が大きい状態でエンジンは常時運転。エンジンは発電と駆動を受け持ち、モーターはさらにトルクを増大させるブースターとして作動する。
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この2モードハイブリッドシステムを採用したのは、メルセデスベンツMハイブリッド(アメリカでのみ販売)と、BMW・X6ハイブリッドの2車とシボレー・ボルトである。
BMWは最もパワフルなハイブリッドカーとして、X6にこの2モードハイブリッドシステムを採用し、世界市場で販売することにした。圧倒的な動力性能と、高効率の両立を追求し、単に燃費向上のみのハイブリッドとは異なることを強くアピールする役割を担っているのだ。つまりBMWが主張するエフィシエント・ダイナミックスの象徴ともいえるのだ。
組み合わせるエンジンは強力なV8型ツインターボで、電気モーターとの組み合わせによる総合出力は485ps、780Nmとなる。もちろんパワフルなだけでなく、燃費においてもこのクラストップを実現している。ちなみに0→100km/hは5.6秒。また燃費は9.9L/100km、CO2は231g/kmとなっている。(日本の10・15モード燃費は少数輸入車枠扱いのため未計測)
4.4LのV8型エンジンは通常とは逆向きの吸排気ポートで、バンク外側が吸気、内側が排気というレイアウトになっている。ツインターボと2個の触媒はそのVバンクの谷間に配置されている。燃料噴射は200気圧のピエゾインジェクターを装備する最新エンジンだ。最高出力は407ps。このエンジンは50iにも搭載されているが、ハイブリッド用に手が加えられており、電動ウォーターポンプを備え、ベルトレスでエアコンコンプレッサー、ステアリングも電動化している。もちろん2モーターを備えているので従来型スターターモーターも装備していない。またトルコンの代わりにデュアルマス・フライホイールを装備する。
2モード・アクティブトランスミッションは、3個の遊星ギヤセットと4個の多板クラッチを装備し、クラッチを個別に作動させながら低速、高速の2つのモードレンジで電気的無段変速を可能にしている。つまり2レンジの電気的CVTと4速となる固定ギヤを組み合わせており、ハイブリッドシステムとしては、シリーズパラレル方式となる。
1速、3速、5速、7速には通常のギヤが組み込まれ、偶数ギヤに相当する部分が無段階に変速するCVTとなっている。その仕組みは、エンジン、駆動モーター、充電モーターの3つの動力は常に回転しおり、その切り替えを3つの遊星ギヤで行っているということになる。
低速モードにおいては、60km/h、最長2.5kmまでは電気モーターのみによるEV走行が可能で、よりパワーが必要な場合は即座にモーターがエンジンを始動させるとともに、発電機として作動する。また65km/h以下でパワーが必要でない場合は即座にエンジンはストップするようになっている。これらはトヨタ方式とまったく同じだ。なお、トランスミッションは機構的には無段変速であるが、ギヤシフト/パドル操作により擬似的に7速ギヤとして作動させる。
モーターの出力は91ps(67kW)と86ps(63kW)。またラゲッジスペースのフロア下に格納される電池はニッケル水素式で2.4kWh容量、瞬間最高出力57kWである。ハイブリッドシステムの制御を行うパワーエレクトロニクスは日立製といわれる。もちろんブレーキエネルギー回生も行うが、このときのジェネレーターによるブレーキ回生では0.3gのブレーキ力も同時に発生することができるという。
Xドライブと称される4WDシステムは、センターデフ部に電子制御前後可変配分のできる多板クラッチを装備したフルタイム4WDシステムだ。基本配分は40:60。サスペンションは、フロントがダブルウイッシュボーン、リヤがインテグラルアーム式を採用。
ホイールは20インチサイズ、オールシーズンタイヤは他のBMW車と同様にランフラットになっている。車両重量は50iが2180kg、ハイブリッドは2525kgで、ハイブリッドシステムとしての重量は345kg。
X6はハイブリッドモデルに限らず、オフロードよりはオンロード性能を重視したクロスオーバーSUVクーペという性格が強い。またハイブリッドモデルに限っては、実験的な要素が強いと考えられる。X6ハイブリッドの価格は1490万円で、ベースとなるX6・50iより400万円高くなっている。
文:編集部 松本晴比古