【BMW】 新しいBMW1シリーズは、走りのステージをさらにアップデート

マニアック評価vol67

↑試乗動画での解説はラジオ番組でコメンテーターを務めていただいたモータージャーナリストの桂 伸一氏

BMW1シリーズが7年ぶりにフルモデルチェンジされた。その内容は新型のFプラットフォーム、新型のN13型4気筒エンジン、新型のボディデザインというオールニューでの登場である。モデルラインアップは116i、116iスポーツ、116iスタイル、120i、120iスポーツ、120iスタイルの計6グレードという構成だ。

BMW1シリーズの画像

この違いを簡単に説明すると116iと120iはともに1.6L ターボ+8速ATという組み合わせだが、過給圧の設定でスペックが異なる。116iは136ps/4400〜6450rpm、220Nm/1350〜4300pmで、120iは170ps/4800〜6450rpm、250Nm/1500〜4500rpm。いずれも1500rpm付近から4500rpmあたりまでの広いバンドで最大トルクが出るという、最新の出力特性にしている。

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↑120iスポーツのエンジンルーム

出力増と燃費改善を両立させた新エンジン

この1.6L+ターボはニューエンジンで、PSAグループと共同開発したプリンス・エンジン(コードネーム)が1シリーズに搭載されたのではない。プリンス・エンジンはBMWミニ、プジョーの308や508、シトロエンのC4やDS4などに搭載されている恐ろしく汎用性の高いエンジンであるが、この1シリーズには新たに開発された1.6LエンジンとしてN13型が初めて搭載されている。

このN13型エンジンについて少し触れておくと、これまで1シリーズ、3シリーズに搭載されていたN43Bに代わるニューエンジンである。シリンダーブロックはアルミ製で、ボア×ストロークこそ従来型と変わらないが、それ以外はすべて新設計となっている。ヘッドまわりではバルブトロニックが採用されてポンピングロスを低減、そしてダブルバノスでは吸排気バルブの開閉時間をコントロールして高効率化されている。これに燃料圧力150barの高精度インジェクターで直接シリンダー内に噴射する直噴となっている。

そしてターボはツインスクロール・ターボで、低回転からパワー/出力が出るように小型のタービンが1基搭載されている。このユニットをBMWではツインパワー・ターボ・テクノロジーと呼び、先代モデルに比べて10〜20kWの出力増を達成し、同時に燃費は10%程度削減されているユニットだ。

さらに新開発の8速ATやオンデマンド制御される電動の補器類、アイドリングストップ機能、ブレーキエネルギー回生システムなども効率改善に貢献。これにより116iの新旧比較では最高出力で11%、最大トルクで38%も向上。10・15モード燃費は14.2km/Lから17.6km/Lへと、24%も改善されている。ちなみに新型は全モデルがエコカー減税対象となっている。

黒に赤が鮮やかなスポーツと、ホワイト基調のスタイル

さて、話を戻すと、グレードのスタンダード、スポーツ、スタイルの違いは装備の違いであり、スタンダードに対してスポーツはキドニーグリルにブラックを効果的に使ったカラーとしたり、フロントバンパー下部フォグランプ部をブラックアウトにするなど、精悍な印象のモデルだ。インテリアでもレッドステッチをあしらったレザーステアリングや同じくレザーのシートを採用している。

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↑スポーツのグリルはブラックに見える
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↑ブラックレザーに赤いステッチがスポーツの特徴

一方のスタイルは文字通りスタイリッシュさを狙ったモデルで、ホワイトを効果的にあしらっている。キドニーグリルはフィンのサイドがホワイトに塗られていたり、専用デザインのフロント・リヤスカートもホワイトに塗られるなど爽やかな印象で仕上げてある。さらにホワイトホイールも選べるようになっている。内装色として用意されているのはホワイト、ブラック、グレーのみで、どれを選んでもモノトーンの組み合わせとなる。

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↑スタイルはホワイト基調のシックなインテリアに

先代よりスタンダードで5万円の価格アップとなるのだが、先代と比較してインテリアの質感アップ、アイドリングストップの装備、バイキセノンランプ搭載、8速AT、リヤシートとフロントシートバックとのクリアランス拡大、居住性の向上などの優位点があることなどからも、実質的には値下げと考えていいだろう。

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↑初代に比べると圧倒的に“使える”リヤシート
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↑同じく使えるカーゴスペースに

土砂降りの雨だったゆえに味わえた本質

さて、その走りだが、会場として袖ヶ浦フォレストレースウエイと一般公道という舞台が用意されたものの、土砂降りの雨で、レースであれば中止となるような酷い雨の中での試乗となった。コース上にはいたるところで川が流れ、池のような水たまりもいくつかできてしまうほどの雨だったが、かえってこの悪コンディションであったために1シリーズのレベルの高さを味わうことができたのかもしれない。

最初に試乗したのは136ps仕様の116iベースグレードで、タイヤは205/55-16、ランフラットタイヤを履いたモデルからだ。コース上のコンディションを考えると、とても全開で走る勇気がわかないので、まずはシフトレバーをドライブポジションで走り出し、スロットルは一般公道を走る程度の走り方で8速ATの感触をチェックすることにした。すると2000rpmまで回ることなく、どんどんシフトアップをしていくのだ。もちろんアクセル開度でシフトアップの回転数は変化するのだが、あっという間に8速のトップギヤにまで滑らかにシフトされていく。

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↑120iスポーツに標準の225/45R17タイヤ

その滑らかなシフトを味わうと、エンジンを回してみたくなり、スロットルを開けレッドゾーンの6500rpm付近まで引っ張ってみる。全速域ロックアップなのでダイレクト感があり、トルコンのようなスリップした感触はほとんど感じられない。パドルシフトも装備されているので、DSGに引けをとらないスポーツドライブが楽しめるのは間違いない。

ちなみに、この1シリーズからはシフトバイワイヤーとなっており、搭載されるミッションは5シリーズにも採用されているZF製の8速ATである。このミッションの特徴には、8速でありながら6速ATと同等のサイズというコンパクトさも挙げられ、中身については対応トルクが異なることからクラッチやトルコン、そしてギヤそのものも1シリーズ用のものに変更されていると思われる。

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エンジンは、滑らかな吹け上がりをみせ、これまで搭載していたN43Bより静かでシルキーな雰囲気がある。1シリーズにはBMWオリジナルのエンジンが搭載され続け、そのアイデンティティは守られている。つまり、PSAと共同開発したプリンス・エンジンは搭載せず、1シリーズ専用に搭載しているエンジンである。今後3シリーズには搭載されるだろう。

不思議なほど安定したコーナリングに脱帽

コース上は相変わらずの大雨で、コンディションは最悪なのだが、そんな中でも1シリーズのハンドリングは落ち着いていて、ナチュラルに操舵できている。特にコース上の川となった部分や池の通過、フルブレーキングといった状況でも安心感が常にあり、恐怖を感じることがないのだ。

それには電子制御のアクティブセーフティの働きが挙げられる。安心感があるとはいえ、極端にスリッピーな路面であることは間違いないのだが、タイヤが滑ることなく制御されている。少しでもグリップ力に変化が起きればESPが働くのか、あるいは4輪のブレーキを制御し、空転を検知した場合はすぐさまコーナリングが滑らかになるコーナリング・ブレーキシステムが働くのか、クルマは安定してコーナリングをする。

もともとハンドリングには定評のあるBMWだが、高速域でハンドリングの切れ味を追求すると、切れすぎてリスキーになるが、可変ギヤステアリングシステムや素早いステアリング操舵にも追従する次世代電動パワーステアリングのEPSを採用するなどして、この問題を解決し気持ちいいハンドリングを実現している。

また、かなり強いブレーキングでもノーズダイブやピッチングは小さいと感じられ、常にクルマが自分のコントロール下にあるように操舵できるのも安心感につながる。ストレートでも豪雨にステアリングを取られることなく、直進性は高い。そしてこのような状況にも関わらず、小舵角にも確実にクルマは反応し、姿勢を変えてくれる。だから自分の限界を超えるような速度で走っていてもスピンしたり、コースアウトすることなく安定してサーキットを走行することができてしまうのだ。まさに、自分のドラテクが上達したかのような勘違いを起こさせる制御レベルだろう。

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ライバルたちの追従を許さないアップデートぶり

さて、一般道に出てみると、この安定した走りは公道ではさらに上質な滑らかさと、しっとりした乗り心地を感じさせてくれる。それは静かな室内も好影響なのだろう。さまざまな音が入り込んではいるものの、オブラートに包まれたように穏やかに聞こえてくるので疲れない。

まさにセグメントを超えた乗り味とドライビングフィールが得られ、新たなベンチマークとなるだろう。そして追従するメーカーにとっては、またひとつハードルが上がったのかもしれない。

文:編集部 髙橋 明
試乗動画解説:桂 伸一氏(モータージャーナリスト)

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