マニアック評価vol117
超ド級&最高速プレステージサルーン
ベントレーフライングスパー・スピードに乗ってきた。どんなクルマだっけ?と思う人もいるだろう。そもそもベントレーというブランドは超が付く高級車だし、身の回りにベントレーオーナーが溢れているわけでもない。でも、ベントレーは知っているし、見れば分かるという感じでしょう。
ベントレーフライングスパーは、大ヒットしたコンチネンタルGTの4ドア版になる。世界中でコンチネンタルGTはヒットを続けていて、日本でもフェラーリより多く販売したという年もあったとか。年間600台くらいの台数だ。で、正確なネーミングはベントレーコンチネンタル・フライングスパーとなり、さらに語尾に「スピード」までつけちゃったのが、今回試乗したモデルであり、もっとも高速で走る4ドアと理解すべき。
フライングスパーの歴史は古く、1957年に発売とウィキペディアには書いてあるから55年も前から、もっとも高速で走る4ドアが欧州にはあったことになる。
まずは、フライングスパーの外観。「05年に復活したフライングスパーのフロントとリヤのデザインに変更を加え、アップライトにデザインを一新したフロントマスク。力強さを増したロアエアインテークがベントレーらしいサイドビューを引き立て、リヤバンパーも新デザインとなり、均整のとれた引き締まった外観を演出」と資料には書かれている。
つまり、よく分からない。
細部へ目を移してみると、ダークティントクロム製フロントマトリックスグリルとロアエアインテークが迫力を演出。より大口径になったスパイラル加工を施したエキゾーストテールパイプなど、派手さを抑えてデザインされたコンポーネントがフライングスパー・スピードの新らたな性能を表現している。なるほど、落ちついた演出で、限りなくダンディズムを感じさせると感心。
確かにフライングスパーと比べると、フロント、リヤのデザインが違っていて、オーナーやベントレーマニアからは、うむうむ・・・とうなずく場面だ。だが、タカハシには、顔はコンチネンタルGTに似ているけど、サイズがデカいなぁ。全長5290mm、幅2194mm、ホイールベース3065mmってまず、他にはないサイズで、マイバッハとかと比較すんのかなぁ、と考えつつ、ベントレーはスポーツカー系だし・・・と頭の中を巡る。
W12気筒のエンジンサウンドが心地よく室内に届く
ひととおり外観をなめまわしたあと、運転席に座ってみる。すると、やっぱりベントレーのインテリアの豪華さ、質の高さに圧倒されてしまう。シートは当然のようにレザーなのだが、さすがにベントレー。ただのレザーシートではない。上質でソフトな肌触りのブラックレザーには、キルティングのようにステッチがされ、ソファ家具のような大きさと座り心地をもっている。ヘッドレストにはベントレーのロゴマークが刺繍され、豪華さに磨きがかかる。
きっと、老眼鏡をかけたベテランの職人による手作業なんだろうと、簡単に想像できる。室内に張り巡らされたレザーの量は、なんと牛10頭分というから驚く。使われる部位もきっと、指定していて1頭から取れる量が限られているからなんだろうけど、どこまで贅沢なんだと驚く。
なんだか牛の頭数で豪華さを表現すると、ちょっとリアルか。
乗り込んですぐ目に飛び込んでくるインパネ周りは、シックで大人びたデザイン。天然木を使ったウッドパネルが全面に張り巡らされ、落ち着き感がある。ウッドパネルのカラーも明るすぎないダーク調カラーだ。メータートリムなどにはメッキが施され、はめ込み細工なども施されて、クラフトマンシップを感じさせる部分でもある。シフトレバーはアルミ削りだしの質感にレザーが巻かれた仕上げで、高級な肌触りは手のひらで触れるたびに感じることができる。
まぁ、ベントレーのようなクルマを買う人は、お金をたくさん持っていて、金額よりも価値観で判断している場合が多いと思う。エクスクルーシブな、という表現が増えてくるセールストークで、その価値観にアソビ心が加われば即購入なのだ。なんともセレブな世界観ではあるが。
ステアリングのセンターには堂々とベントレーのロゴがあり、当然のようにレザーが巻かれている。もちろん、ステアリングヒーティングシステムも装備されている。また、エアベントの開閉をするノブもアルミ削りだしであり、天然木、アルミ、メッキ加飾と豪華さが伝わってくる。
というように、いちいち豪華さを感じ、これでもかって言うほどに素敵さに惚れてしまう。
そのスペシャルなインテリアに入り込む音を防ぐために、防音ガラスをサイド、リヤのウインドウに採用している。防音3層構造のボディアンダートレイ、ホイールアーチライナーなど、騒音を低減する工夫はいたるところに施されている。文字通り、クラス最高レベルというキャビンの洗練度をもったモデルと言える。
しかしながら、エンジン音はわずかに聞こえてくるのに感心する。走行時の風切り音やタイヤのロードノイズはほとんど車内に入り込まないのに、である。これはもちろん意図されたもの。欧州のクルマづくりには「操作音、動作音」はドライバーに聞こえるようにするという考え方があるため。超豪華プレミアムスーパーサルーンといえども同じなのだ。もちろん、W12気筒のエンジンサウンドは心地よく、優越感に浸れる瞬間でもある。
搭載するエンジンは、フォルクスワーゲン製のW12気筒。パワーは凄まじく、449kw/610ps、750Nm/1700rm-5600rpmというもの壮絶なスペックだ。フルタイムの4WDでZF社製の6速ATを搭載している。最高速は322km/h、0-100km/hは4.8secで到達、とバカっ速い。サスペンション形式はフロントがウイッシュボーンタイプで、リヤはマルチリンクのエアサスペンションだ。
最適にチューニングされたスプリングとダンパーを装備したアルミ製ダブルウイッシュボーンを採用し、専用デザインの20インチ・マルチスポークアロイホイールとピレリP-ZERO UHPタイヤが装着されている。フライングスパーより10mm低い車高、サスペンションの改良、緻密になったステアリングのチューニングによって、アジリティとボディコントロールを飛躍的に高めている。と書かれている。
はぁ?資料頼み。
車速感応型サーボトロニックシステムのチューニング精度を高め、フロントのサブフレーム取り付け強化、さらに硬度のあるリヤブッシュを使用することで、ステアリングレスポンスを改善している。なんて書くと、ゴージャス感に水を差す気分になるが、どれほど素晴らしいかはお伝えしておきたい。
フライングスパー・スピードをドライブさせると、スロットルはやや重めで、ゆっくりと踏み込むとW12気筒がドロドロドロっと唸りだし、ゆっくり動く。ステアリングは思いのほか軽く、実際の操舵力はコンパクトカーなどと同じ程度に感じるほど軽い。徐々に速度上げるが、シフトアップされていくのは感じない。もちろんエンジン回転が2000rpmに到達するようなことはなく、それでも周りのクルマの流れに乗れるどころか、気づけば先頭を走っているほどだ。
フライングスパー・スピードに搭載されるハイスペックなパワーユニットの魅力をもっと感じてみたいものだが、国内ではほぼ不可能だ。暴力的ともいえる加速をするんだろうなぁ、という想像の域を出なかった試乗だが、乗った瞬間から、とてつもなく強いもの、無敵の武器を手に入れたかのような、安心感と余裕が芽生える。
お金持ちには、単純に豪華な装備やハイスペックなユニットを搭載しただけでは、食指は動かない。普段から豪華なものには慣れているからだ。豪華さの中にも愛嬌やオリジナリティ、アソビ心がなければ真のお金持ちには刺さらないのだ。とはいえ、無邪気に余裕を感じている自分を客観視でき、なかなか体験出来ない経験をさせてもらった試乗だった。
価格:2600万円 (税込み)
■主要諸元