【歴史】アウディ V型10気筒エンジンを紐解く

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2019年はアウディのV型10気筒エンジン誕生から10周年となる。そのため、アウディはV10エンジンの10周年を記念した特別限定モデル「R8V10ディセニアム」を発表した。世界で222台の限定生産という希少なモデルで、おそらく日本にも数台は割り当てられるだろう。
【歴史】アウディ V型10気筒エンジンを紐解く

V10エンジンの歴史的な背景

アウディのV型10気筒エンジンの歴史を振り返ってみよう。自然吸気5.2L・V10エンジンは、2009年初頭にR8に搭載されてデビューした。ミッドシップ・スポーツカーのR8は2006年にデビューしているが、この時点では4.2L・V8 FSI直噴エンジンを搭載していた。そしてこのV8は、A8用とは違ってドライサンプ化された専用チューニングが行なわれている。

初代R8 5.2 FSI クワトロ
初代R8 5.2 FSI クワトロ

そして2009年春にR8に5.2L・FSIエンジンを搭載した「R8 5.2 FSIクワトロ」が発売された。このモデルは最高出力525ps/8000rpmを発生する自然吸気の高回転型エンジンだ。常識的なスーパーカーはV型12気筒を搭載する例が多いが、アウディはなぜかV型10気筒を搭載した。

V10エンジン10周年記念の限定モデル「R8 V10ディセニアム」
V10エンジン10周年記念の限定モデル「R8 V10ディセニアム」

実はF1グランプリでは2000年から2005年まで車両レギュレーションによりV12が禁止され、最大気筒数にはV10を採用していたのだ。アウディがF1グランプリにエンジンを供給しようとしたのかは不明だが、V10エンジンはモータースポーツ・イメージの強いエンジンとなっていたわけだ。

実際にアウディだけではなく、BMWもM5 、M6に5.0Lの高回転型V10エンジンを搭載した。またポルシェもスーパーカーとして少量生産したポルシェ カレラGTには5.7LのV10エンジンを搭載するなど、フラッグシップ・スポーツカー用はV型10気筒エンジンとなっていたのだ。

2010年仕様のV10エンジン
2010年仕様のV10エンジン

さらにトヨタも2010年にF1用エンジンのイメージを継承した4.8Lの超高回転型V10エンジンを搭載したLFAを発売している。

アウディはV10エンジンを市販のR8に搭載しただけではなく、2009年にFIAのGT3規格の市販レーシングカー、「R8 LMS」にもV10エンジンを搭載し、FIA GT3ヨーロッパ選手権に出場している。

アウディ V10エンジンの特長

V10は、アウディのクワトロ社(現在のアウディ・スポーツ社)が開発したレースでの使用も想定した超高性能エンジンだ。2009年に登場した「R8 5.2 FSIクワトロ」用のエンジンはV10エンジンの第1世代になる。

このエンジンはそれまでのV8エンジンを10気筒化させた仕様で、ライナーレスのクランクケース、シリンダーヘッド、バルブ駆動システムなどは共通で、バランスシャフトを備えたクランクシャフト、デュアル・スロットルなどが新開発されている。

2019年型のR8
2019年型のR8

90度V10で、排気量は5204cc、ボア×ストロークは84.5mm×92.8mmというロングストロークタイプだ。もちろんこれはエンジン全長をできるだけ短縮するためだ。エンジンブロックは、高強度アルミ合金製で低圧チル・ダイキャスト法で製造される。40個のバルブの駆動はフィンガータイプのローラーロッカーアームを介して行なわれ、バルブクリアランスを自動調整するため、油圧ラッシュアジャスターを備えている。カムシャフト駆動は2ステージのチェーンで行なわれる。

2015年に登場した第2世代のR8では、このFSIエンジンは徹底的な見直しを受け、インテークマニホールドに燃料噴射システムを追加し、直噴・マニホールド噴射併用のデュアル噴射式を採用し、排出ガスを改善。またシリンダーオンデマンド(COD)システムを採用し、部分負荷状態で片バンクの5気筒を休止させることで燃費も向上させている。

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5.2L・FSIエンジンのポテンシャルも引き上げられ、よりシャープなレスポンスのエンジンとなり、販売開始時には、540ps、610psのバージョンを選択することができた。また、最新のアップグレードでは、570ps、620psのラインアップになっている。

最新仕様はガソリン粒子フィルターも装備
最新仕様はガソリン粒子フィルターも装備

R8 V10ディセニアムのエンジン特徴

モータースポーツの技術を投入したこのV10ユニットの大きな特長は、今では貴重な最高8700rpmまで回る高回転型エンジンであること、搭載位置を低くすることができる純レース・エンジンと同様のドライサンプ潤滑システムを採用していることだ。

V10エンジンのバンク角は90度で、クランクシャフトは左右のバンクで共通のクランクピンを使用し、点火タイミングは54度と90度の不等間隔となっている。1-6-5-10-2-7-3-8-4-9の点火順序とされ、独特なパルスを持つこのエンジンならではのエキサイティングなサウンドを生み出している。

570ps仕様(左)と620ps仕様のエンジン性能曲線
570ps仕様(左)と620ps仕様のエンジン性能曲線

最高回転数は8700rpmで、ピストン速度は平均26.9m/sにも達し、これは最新のF1マシンのエンジンを凌ぐ数値だ。このピストン速度では反転ポイントで約2トンの荷重に相当する加速度を受けるが、このエンジンではそうした荷重を盛り込んで耐久信頼性を確保している。またこのV10エンジンはランボルギーニ・ウラカンにも搭載している。

そして、このV10エンジンは、サーキットでも大きな成功を収め、2009年にはR8 LMSがGT3クラスに搭載してレースデビュー。2012年にはR8 LMS ウルトラが、2015年には第2世代のR8 LMSがレース参戦している。第2世代のR8 LMSは2018年の秋にアップグレードが施され、一方、2018年初頭にはアウディ・スポーツ社のカスタマースポーツプログラムにFIA GT4規定に沿ったR8 LMS GT4が投入された。

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GT3、GT4のGTカテゴリーのレースカー用エンジンと市販バージョンに搭載されている5.2L・FSIエンジンとの違いは極めて小さく、デュアルインジェクションシステムが廃止されていること、エアインテークにエア・リストリクターが設置されたこと、制御ユニットのマッピングが変更されていること、そしてクランクシャフトのベアリング・ホルダーが改良されていることなどだ。

また、このV10エンジンは、アウディのハンガリーにあるギョール工場で製造されており、ほぼハンドメイドで組み立てられている。そして、このV10エンジンをレースで使用する場合のメンテナンスのサービス間隔は1万km、初回のオーバーホールまでの間隔は2万kmに設定され、モータースポーツの世界で驚異的な耐久性である。

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このエンジンを搭載するR8 LMS GT3は2018年末までに総合ドライバーランキングで62回の勝利を挙げ、クラスランキングではさらに78回のタイトルを獲得。ニュルブルクリンクを始めとするGTカーの24時間レースでは、11回の総合優勝を成し遂げている。さらにこのGT3スポーツカーは、最近10年間で12時間レースで7回勝利、24時間レースでは3回の勝利を収めており、GT3用エンジンとして多くの実績を積み重ねている。

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