20144月1日、インゴルシュタットのアウディ本社は今シーズン用の新型「R18 e-tron クワトロ」のコクピットは、人間工学的な面で進化させ、操作系が以前にも増してロジカルな配列となり、機能が大幅に高められていることを発表した。
■アウディR18 e-toronクワトロの新コクピット
今日のレースではドライバーがレース中に行なう作業が増加している。安全性の確保、スピードの制御、そして正確なドライビングに注意を払うだけでなく、今年からはレース中の燃費を向上させる作業も求められる。新レギュレーション(後述)により1周あたりの最大燃料消費量規制が実施され、違反するとペナルティの対象となる。仕事量が増えたドライバーの集中力を保つために、R18のコクピットは人間工学的な改良を行なったのだ。
アウディスポーツ技術部門リーダーのマーティン ミュルメイアー博士は「2014年シーズン開幕前から、ドライバーへの負担軽減策について検討を重ねてきました。その結果、ペダル類からステアリングホイールの機能、そして操作パネルに至るまで、コクピットのあらゆる部分を一新することになりました。さらにレギュレーションの変更にともなってシートポジションも刷新されています」と説明する。
革新的な変化としては、2ペダル化が図られていることだ。クラッチペダルを廃止し、クラッチ操作はステアリングホイールに取り付けたパドルで行う。ドライバーのルーカス・ディグラッシは、この方式のアドバンテージについて「別カテゴリーのマシンで、既にこの方式を経験していますが、これまでよりクラッチ操作が簡単になりました」とコメントしている。
インスツルメントパネルやステアリングホイールの操作系も一新されている。LMPプロジェクトリーダーのクリス・レインケは「ドライバーが頻繁に操作するものはステアリングから手を離さずに操作できるようにしました」と言う。このために新しく開発されたマルチファンクション・ロータリースイッチが、ステアリングホイールに装着されている。ドライバーは、2つのプッシュボタンを操作するだけで、マシンのバランス調整に重要な、トラクションコントロールとブレーキ制動力配分の機能を切り替えることができる。燃料タンク内の燃料が消費され、マシンのバランス調整が必要となった場合ドライバーは各機能を簡単に調整できるようになっているのだ。
ドライビングポジションの改善という人間工学的な進化は、新しいレギュレーションから生まれた。今年からコクピットのサイズとシートの設置位置が変更され、ドライバーに多くのメリットをもたらしている。これまではかなりフラットな姿勢でドライブしていたが、これからは上半身を起こした姿勢でドライブする。「新しいシートポジションになり前方の視界が広くなりました。さらに、サイドウインドーを通じての横方向の視界も広がりました。これでライバルとバトルする時の負担が大幅に軽減されると思います」と、ルーカス・ディグラッシはコメントしている。
■2014シーズンのハイブリッド新規則
2014年シーズンから、LMP1に参戦するワークスチームはハイブリッドシステムを搭載することが求められ、さらに昨年までのハイブリッド車の規則をさらに発展させ、より高効率で、燃費を向上させることが必要になっている。また搭載するハイブリッドシステムはKERS(減速エネルギー回生)×2、またはKERS+排気熱エネルギー回生のいずれから選択できる。トヨタはKERS×2、アウディとポルシェは後者を選択している。
またハイブリッドシステムは、エネルギー回生量をクラス分けし、それぞれのクラスごとの燃費が決められ、それをオーバーするとペナルティが課せられる。エネルギー回生量のクラス分けは、2MJ(メガジュール)、4MJ、6MJ、8MJと4区分されているが、エネルギー回生量が多い=モーター駆動によるブースと効果が大きい=より燃費向上が要求されるという巧妙な規則になっている。メガジュールはエネルギー、仕事、熱量、電力量の単位で、1ジュール = 1W・1秒 = 1ワット秒を意味し、1メガジュールは1kWのシステムが1000秒間に行なう仕事を意味する。
ちなみに、アウディ(4.0L・ディーゼル)は2MJ、トヨタ(3.7L ・ガソリン)とポルシェ(2.0ターボ・ガソリン)は6MJを選択している。つまりトヨタとポルシェはモーター駆動による依存度が高く、アウディは逆によりエンジンの燃費効率を高めるという戦略になっている。また、ガソリン車とディーゼル車ではレース中に求められる燃費が違う(当然、ディーゼルの方がより良い燃費にする必要がある)点と、燃料タンク容量が異なる。
総合的に見て2013年より25%以上の燃費向上を果たさなければならないので、各車ともいかに燃費で優位に立ち、かつより速いかという技術競争という観点から見て興味深いレースシーズンになる。