2013年12月11日、ポルシェAGは、ポルトガルのポルティマン近郊のサーキット、アウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルヴェにおいて2014年のWECに参戦する新型LMP1マシンの2013年テストを終了したと発表した。次のテストは、2014年初めに再開されるという。
■ポルシェ
WECのレギュレーションにより、マニュファクチュアラーはトップカテゴリーであるルマン・プロトタイプ(LMP1)にハイブリッド車で参戦するよう規定されている。ポルシェは高効率の高性能ハイブリッドシステムを搭載した全く新しいLMP1レース車両を開発し、テストを繰り返しているしている。このLMP1レーシングカーには直噴4気筒ターボガソリンエンジン、2種類のエネルギー回生システムが搭載されている。回生されたエネルギーはバッテリーに蓄えられ、これをドライバーの操作によって使用することで、パワフルな電気モーターが前輪への駆動力をアシストする4WDシステムだ。ただしWECのレギュレーションにより、燃料の量だけでなく、ブーストと呼ばれる駆動システムで使用できる周回あたりの電気エネルギーも制限されている。
アウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルヴェのテストでは、来季はポルシェのステアリングを握るマーク・ウェバーが初めてポルシェのLMP1マシンのコックピットに乗り込んだ。レッドブルレーシングのF1チームは、ウェバーがまだ契約中であるにも関わらず、テストへの参加を許可したのだ。2014年のポルシェのワークスチームにワークスドライバーとしティモ・ベルンハルト、ロマン・デュマ、ニール・ジャニ、そしてマーク・ウェバーが加わる。
2013年のポルトガルにおける最終テストでは、主にサスペンション、パートナーであるミシュランとの協力によるタイヤのテストが行なわれた。ポルシェのLMP1チームは、これまでユーロスピードウェイ・ラウジッツ(ドイツ)に加え、マニクール(フランス)、モンツァ(イタリア)およびポールリカール(フランス)の各サーキットでLMP1マシンのテストを行なってきた。
ポルシェAGの研究開発担当役員であるヴォルフガング・ハッツは、「私達は、16年のブランクを経て耐久レースのトップカテゴリーに復帰することが簡単なことでないことは常に理解しています。ですから、競争力の高いポルシェのLMP1レーシングマシンの開発に対して私達が注いでいる努力は並大抵のものではありません。現在まで、ヴァイザッハのエンジニア、ドライバーおよびチーム全員は感動的な働きを見せてくれています。私達は、最先端の効率テクノロジーの開発、導入および応用に対する新たなアプローチを模索しています。これは、市販車における総合的なハイブリッドテクノロジーのさらなる改善につながります。最終的に、その最も大きな恩恵を受けるのは、当社のお客様なのです」と語っている。
さて、ポルシェの開発しているLMP1カーのディテールを探ってみよう。2014年レギュレーションにより、自動車メーカーチームはハイブリッドシステムでの参戦が求められるため、どのようなハブリッドシステムにするかが大きな課題となった。システムとしてはKERS(ブレーキエネルギー回生)は最大2基、またはKERS+排ガスエネルギー回生が許される。エンジンはガソリン、ディーゼル、排気量、気筒数は自由で、ポルシェも最も高効率なのはディーゼルエンジンであることを認めているが、あえて2.0L・4気筒ガソリンターボを選択した。そしてハイブリッド用のKERSはフロント・アクスルに配置。このため4WD駆動方式となる。また回生エネルギーを蓄えるのは、これまでポルシェが採用してきたフライホイール式ジェネレーターではなく、アメリカのA123社が開発した高性能リチウムイオン電池としているのも注目される。なおレース中の回生=使用エネルギーはWECの規則により最大8メガジュールと決められている。
モノコックは新レギュレーションに合わせ、クローズドタイプのCFRP製とし、従来よりドライバーの頭周りのスペースを拡大して安全性を向上。また着座位置も新規則に合わせより高くし、従来より広い視界が得られるようにしている。クローズドタイプのモノコックは従来のオープンタイプより一段と高い強度・剛性が得られることは言うまでもない。
2014年マシンにとって、エアロダイナミックスの性能はやはり最も重要なポイントの一つだ。より小さな空気抵抗と、より大きなダウンフォースを両立させることが重要だ。ポルシェは、従来のアウディやトヨタと異なり、フロントはショートオーバーハングのラウンドノーズを採用しているのが特徴になっている。
■アウディ
アウディは12月に開催されたFIA表彰式で、2013年WECのマニファクチャラーズ・チャンピオン、ドライバー・チャンピオンの表彰を受け、圧勝に終わった2013年を締めくくった。
その一方で、アウディはシーズン途中から2014年シーズン用のタイヤテストを行なうなど新シーズンに向けての準備は怠りない。そしてレースシーズンの終了と同時に、早くも2014年用マシンのテストを開始している。
そしてこのほど2014年用のアウディ R18 e-tronクワトロの概要が発表された。面白いことに車名はR18がそのまま継続使用されることになったが、テクノロジーは大幅に進化させ、3年連続WECチャンピオンを目指すとしてる。2014年仕様のR18のエクステリアは2013年型と大きく異なっていないように見えるが、実際にはすべてのパーツが新開発されておりかつてないほど複雑になっているという。「2014年型は、WECの新レギュレーションに合わせ、根本的に新世代化されています。従来と同じラップタイムをより少ない燃料で走る必要があるからです」とウルフガング・ウルリッヒ博士は語っている。
アウディ・モータースポーツLMP責任者のクリス・リンケは、「発想を根本的に変えました。出力の追求ではなく、エネルギー消費をどれだけ低減できるかと言う限界に挑戦するのであり、これはエンジニアにかつてない自由な発想を促すことになりました」と語る。
2014年仕様の基本開発やコンポーネンツ単体の開発は2012年後半にスタートしているという。そして2014年仕様はなんと2013年3月にロールアウトしている。新規則に合わせ、パワートレイン、エアロダイナミクス、ボディの寸法、安全性などはすべて新しくなっている。エンジンはV6・TDIで後輪を駆動。KERSはフロントアクスルに配置したe-tronクワトロ方式をキープ。またフライホイールジェネレーター式の蓄電システムを改良。またエンジンに熱回収・電気ターボを採用している。つまりハイブリッドシステムはKERSと排気エネルギー回生という組み合わせを選んだのだ。
TDIディーゼルは高効率の出発点であり、新システムの要点とされる。新V6・TDIは従来タイプより燃費を30%改善していると言う。そしてブレーキ時にフロントのモーター/ジェネレーターで発電された電気エネルギーはフライホイール、ジェネレーターに蓄電される。その一方で、エンジンに装着されたターボは電気ターボに結合されており、排ガスの熱エネルギーは電気的に回収され、過給圧のリミット以上になった場合、余剰の回生電力はフライホイール・ジェネレーターに蓄電されるようになっている。そして加速時には、フライホイール・ジェネレーターに蓄積された電力は前輪のモーターとエンジン用の電動ターボに供給されるようになっている。これらの新ハイブリッドシステムはかつてないほど複雑な制御が必要で、シミュレーションや台状実験を繰り返して総合的なエネルギーマネジメントシステムを作り上げ、2013年10月から実車による走行テストを開始している。
もう一つのポイントは新たなエアロダイナミクスの開発で、例えばボディは100mm狭められ、特にフロントは小さくなっている。更にホイール/タイヤも細くされ、空気抵抗の低減を図っている。全高は20mm高められ1050mmに。そしてコクピットは拡大されている。またフロントホイールカバー部の形状も大きく変更されこの部分でのダウンフォース発生は低減されている。その一方でフロントエンドは大きく革新され、フラップ付きのフロントウイングが採用されている。もちろんこれは角度を変更することでコースに合わせたセッティングが容易になるメリットも備えている。また2013年まで使用されていたリヤ・ディフューザー部への排ガスの使用は禁止されている。
CFRPモノコックはクローズド・コクピットタイプとなり、モノコックの剛性は更に高められている。またコクピット内部は補強布が貼られ、大きな事故での衝撃でコクピットへ外部から金属やカーボン材が貫通するのを防止している。
さらに安全性の観点からホイールと結合される前後サスペンションはの強度も規制され、9t、90kNに絶える強度を備えている。同様に安全性向上のため、リヤのトランスミッション後部にCFRP製の衝撃吸収材も装備されている。
2014年仕様は車両重量の軽減、つまりさらなるウルトラ・ライトウエイト技術の追求も行なわれている。2013年モデルのマシン重量は915kgであったが、2014年モデルは二つ目のハイブリッドシステムを追加しているにもかかわらず870kgまで車両重量を軽減する目標を立てているという。