【アウディ】「A3 スポーツバック g-tron」を開発 「g-tron」用に電力からガスを製造する工場も建設

2013年3月4日、アウディはカーボンニュートラルな「アウディe-gas」を燃料に使用し、CO2排出量30g/km、最大航続距離1300kmという性能を備えた「A3 スポーツバックg-tron」を開発し、ジュネーブショーでワールドプレミアを行った。なおこの「A3 スポーツバックg-tron」は2013年末に発売するとしている。このg-tronは、CNG(圧縮天然ガス)、アウディが開発したe-gas(メタンガス)のいずれも使用でき、またガソリンも搭載したバイフューエルカーである。またこれに合わせ、再生可能エネルギーを利用した電力とCO2からe-gasを生成するアウディのガス工場も建設している。

「A3 スポーツバック g-tron」は、これまで培ってきた軽量化技術など研究・開発の成果を盛り込み、さらにドライバーアシスト技術など、アウディが持つ最先端技術の総力が結集されて完成した。多くの先端技術の中でも、最も重要な部分を担っているのは、燃料タンク製造など最新鋭のCNGの関連技術だ。ラゲッジスペースの床下に収納される2本のCNGタンクには、1本あたり7kg のガスを最大200barの圧力で充填するようになっている。アウディの軽量化技術を応用して作られたこの新型燃料タンクは、従来型のタンクに比べて27kgもの軽量化が図られているという。

新型燃料タンクはまったく新しい構造で、タンクは3重構造になっている。最も内側にはガスを遮断する性質を持つポリアミドポリマーを採用。その外側に、非常に堅牢な性質を持つポリマー強化材配合のカーボンファイバー(CFRP)製の層がある。さらにその外側に、外部からの耐衝撃性に優れたポリマー強化剤配合のグラスファイバー(GFRP)製の層が設けられている。これらの各層の接着には耐久性の高いエポキシレジンが使用されている。

A3 スポーツバック g-tron に採用されている電子制御式ガス圧レギュレーターも注目されるべき最先端技術だ。軽量、コンパクトに設計されたこの装置は、高圧で保存されているガスの圧力を、状況に応じて5〜9barに減圧してエンジンの燃焼室に供給する。中低速度域で低負荷の運転をする時には低めの圧力で、より多くのパワーやトルクが必要とされる運転の場合には圧力を高めるといった調整を行うことにより、インジェクターバルブからは常に最適な圧力のガスが噴射される。

燃料タンク内のガス圧が10barを下回った場合、エンジンマネージメントシステムは自動的に燃料をガソリンに切り替えるというバイフューエル・システムを採用。CNGモードとガソリンモードのどちらで走行した場合でも、A3 スポーツバック g-tron はまったく同じ出力性能を発揮するという。

標準的な燃費を基に計算した場合、CNG モードでの最大走行可能距離は400kmで、ガソリンモードでの最大走行可能距離は900kmだ。これらを合わせた最大走行可能距離はTDIエンジン搭載モデルとほぼ同じになる。各タンクの残量は、メーターパネルに設置される2つのインジケーターにリアルタイムで表示される。さらに、各モードで走行中の瞬間燃費情報が、ドライバーインフォメーションシステムに表示されるようになっている。

ガス充填用のバルブは、通常の燃料給油口の下に配置される。ガス充填直後や冷間始動時には、エンジンはガソリンモードでスタート。その後、できる限り早いタイミングでCNG モードに自動的に切り替わるようになっている。

CNG/e-gasとガソリンのいずれも使用できる「g-tron」専用1.4 TFSIエンジン

A3 スポーツバック g-tron に搭載されるエンジンは、新型の1.4L・TFSIエンジンをベースに開発された。ベースエンジンからの主な変更点は、シリンダーヘッド、ターボチャージャー、インジェクションシステム、触媒コンバーターなどだ。このエンジンの最高出力は110hp(81kW)、最大トルクは200Nmで、最高速190km/h、0-100km/h加速11秒という動力性能を持つ。

CNGまたはアウディe-gasプロジェクトによって生産されるアウディ e-gas による走行での平均燃費は28.57km/kg(3.5kg/100km)以下で、CO2 排出量は95g/km以下という。A3 スポーツバック g-tron による温室ガス削減効果は、燃料の生産から車輌での走行までの、すべての過程を考慮すると、より一層向上する。特にアウディ e-gas を充填して使用した場合、他の化学的合成によって製造されたガスを使用した場合よりCO2 排出量は低減できる。e-gas 製造工場で使用されるエネルギーに風力発電で得られる電力が使われることを考慮すると、A3 スポーツバック g-tron による総合的なCO2 排出量は30g/km以下となるのだ。

A3 スポーツバック g-tron のユーザーは、通常のCNGガスステーションで手軽にアウディ e-gas を入手することが可能だ。アウディはe-gas プロジェクトを成功させたことで、持続可能なエネルギー連鎖のすべてに関与する初の自動車メーカーとなったとしてる。

この新たなエネルギー連鎖は、まず再生可能エネルギーにより発電し、それを利用して水素やアウディ e-gas を精製する。CO2と再生可能電力を使用してメタンガス(e-gas)を生み出すこの世界初の生産設備は、ドイツ国内のヴェルルテ(ニーダーザクセン州)にまもなく完成する。アウディ e-gas 生産工場において作られた再生可能電力は、水から水素(Audi e-hydrogen)と酸素を取り出す工程で使用され、燃料電池車全体の1日分の使用量に相当する水素を生産することができる能力を持つ。

再生可能エネルギーによる発電からガス充填、使用までの「ウエル to ホイール」

もちろん燃料電池車は普及している状況ではないが、この過程で精製された水素の一部は、メタン精製工程でCO2 と化合され、再生可能化学合成メタンガス、またはアウディ e-gasとなる。生産されたe-gas は、化学的に化石燃料の天然ガスとまったく同等の性質を持っているのだ。そのためアウディ e-gas は、既存の天然ガス供給ネットワークを経由してCNGガスステーションに搬送することができる。このため、電力供給網とガス供給ネットワークが初めて双方向リンクを実現したと表現することができる。

ニーダーザクセン州に建設中のヴェルルテ・プラント

従来は、ガスから電気を製造することは可能であったが、その逆は不可能とされてきた。結果的にアウディ e-gas 生産工場は、これまでは供給過剰の電力を保存できる巨大なキャパシティを誇る天然ガスネットワークに転換して活用するという新たな道を創造したということになる。

アウディ e-gas 生産工場で使用されるCO2は、近隣に位置する公共エネルギー生産事業体・EWEが運用するバイオガス生産工場から排出されるものを利用している。これまで環境への悪影響が懸念されていたCO2 はアウディ e-gas 生産工場で燃料に生まれ変わるわけだ。およそ1000トンのe-gas 生産に対し、約2800トンのCO2 が使用される。このCO2 量は、22万4000本のブナの木が1年間かけて吸収するCO2の量に相当するという。

ヴェルルテの工場から1年間に生み出されるカーボンニュートラルなe-gasの総量 は、1500台のA3 スポーツバック g-tron を1万5000km走らせることができる。この工場は風力や太陽光から発電された大量の再生可能電力を、効率よく場所を選ばずに保存を可能にする方法の確立にチャレンジしてきたアウディe-gas プロジェクトの成果である。アウディが開発した電力からガスを製造する技術は、今後、再生可能エネルギーの発展を著しく加速させると予想される。

アウディAG 公式サイト

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