マニアック評価vol73
2011年8月に第4世代となる新型Audi A6(C7)が日本で発表された。Audi A6はその前進であるAudi 100の時代から、「Vorsprung durch Technik(技術による前進)」というスローガンを掲げ、それを具現化してきている。A6はモデルラインアップの中でも、いち早く最先端の技術を搭載するモデルとして知られている。
1982年にモデルチェンジされたC3系のAudi 100では、それまでレーシングカーの最高速を向上させる目的として考えられていた空気力学の概念を、高速走行時の省燃費性能を向上させることを目的として乗用車に取り入れ、空気抵抗係数Cd値0.30の空力ボディを採用。また、前面衝突時にエンジンが後方に押し込まれる力を利用してステアリングを前方に引き込む「プロコンテン」システムを採用し、SRSエアバッグが一般化する以前から車の安全性について先進的な技術を採用し続けてきているモデルなのだ。
また、1997年に発売されたC5系では、空力ボディを推し進め、そのCd値は当時の4ドアセダン車としては画期的な0.28を達成。スタイリッシュなクーペフォルムとセダンの居住性を両立させた、トータル・ラウンドシェイプのエクステリアデザインコンセプトによってカーデザインのトレンドを創り出している。
新型A6においても、技術的な面では5月に発売されたAudi A7とほぼ共通しているものの、革新的な技術が惜しげもなく注ぎ込まれている。詳細の技術解説はアウディA6の詳細解説を参照していただきたい。ここでは実際に新型A6を試乗しクルマのダイナミックな性能についてその特徴をレポートする。
優れた空力特性とアジリティ
A6の伝統でもある空力特性は、新型A6でCd値0.26にまで推し進められ、そのボディ構造は「ウルトラ・ライトウエイト・テクノロジー」と命名された技術によって、軽量かつ高剛性という矛盾を高い次元で両立させている。それはA8やR8に採用されているASF(アウディ・スペース・フレーム)のオールアルミ製スペースフレームボディと、一般的なスチール製モノコックボディとのハイブリッド構造であり、従来型A6のボディと比較して30kgの軽量化がなされている。
さらにフロントデファレンシャルの搭載位置を、従来モデルより71mm前進させることでロングホイールベース化し、前後重量配分の改善が図られている。その違いは走り出してすぐに体感することが可能だ。特に街中でのキビキビとした俊敏さは、これまでのA6モデルにはないFR車に近い感覚のもので、ドライバーのハンドル操作に対して、思った方向にクルマ側がナチュラルにノーズを向ける感覚である。従来のA6では、クルマのノーズをドライバーがハンドル操作によって意図的に、積極的に思った方向に向ける感覚であったことに比べると、その俊敏性は明らかにシャープなものとなった。
従来のA6からホイールベースを65mm延長することで、通常であればそのクルマの動きは鈍重な方向に向かうものであるが、フロントデファレンシャルの搭載位置を変更することにより、エンジンは後退するので、前輪の荷重負担は減ることになる。こうして重量物をなるべくホイールベース内に配置することで重量マスを集中化させ、さらにはバネ上たるボディの軽量化・高剛性化により、これまでのA6に比べよりシャープな俊敏性を実現させている。
延長されたホイールベースは乗心地の面でも効果的に働いており、従来のA6でも十分と感じられたフラットな乗り味をさらに上回るものとなっている。特に高速道路での乗り味は、クワトロシステムの卓越した直進安定性とも相まってアウディのフラッグシップであるA8にも引けを取らない快適さを感じさせるものであった。ただし街中での乗り味は、フラットな乗り味を損ねるほどではないものの、タイヤのロープロファイル化によるものと考えられる、荒れた路面の凹凸を忠実に拾うショックの大きさと、バネ下のバタツキ感が相対的に大きく感じられた。その傾向は2.8FSI quattroに装着する18インチタイヤに比べ、19インチタイヤが装着された3.0TSI quattroの方がより顕著に感じられる。
トルクベクタリングとEPS
またアウディの特徴であるクワトロシステムには、Audi RS5から採用された新世代のセンターデフ「クラウンギヤ式センターデフ」を搭載。ESPシステムの持つ4輪独立ブレーキ制御と協調して、旋回補助機能を持つトルクベクタリングシステムを採用し、旋回時のニュートラスステア化が図られている。さらには新世代のセンターデフとともに、トランスミッションには、デュアルクラッチ式の7速Sトロニックがエグゼクティブクラスのクルマとして初めて採用され、よりダイナミックなドライビングフィールと省燃費性能とを両立させている。
トルクベクタリングの効果は、特にワインディングロードでより顕著に感じられる。従来のA6が前述した通りドライバーのハンドル操作に対して、ステア特性はアンダーステア方向の挙動を示し、クリッピングポイントに向かって減速し、ハンドルを切り込むことでクルマのアプローチ姿勢をバランスさせながらコーナリングラインをトレースする旋回特性であった。しかしながら新型A6では、ハンドル操作の初期段階からステア特性はアンダーでもオーバーでもなく、終始ニュートラルステアの挙動を示し、クリッピングポイントに向かうアプローチ姿勢を、ドライバーが意図的にバランスさせることなく、あくまでも自然に、さもドライバーの運転が上達したかのようにスムーズにコーナリングラインをトレースすることが可能だ。
さらにコーナーの立ち上がりでは、加速状態となってもクルマの挙動はニュートラルステアを維持し、終始安心してコーナリングワークすることができる。Sトロニックによるダイレクトなギヤシフトとともにワインディングロードでのスポーティな走行はとても気持ちの良いもので、いつまでも走り続けていたいと感じさせるものであった。
さらには、エグゼクティブクラスとしてA7と同様に新開発の電動アシスト式パワーステアリングが搭載されている。油圧アシスト式に比べ油圧ポンプの駆動によるパワーロスがなく、ステアリングを操作していない状態ではまったくエネルギーを消費せず、省燃費性能の向上に貢献するものであり、カタログ上では100kmの走行毎に約0.1リットルの燃料を節約できるとされている。
一般的に電動パワーステアリングはステアリングフィールが悪く、タイヤのグリップフィールをドライバーに伝え難いとされてきたが、新型A6に採用された電動アシスト式パワーステアリングは、ステアリングのラックギヤ軸と同軸上にリサーキリーティングボール&ナット軸を配置し、ベルトを介して電動モーターによってアシストする新方式で、高いステアリング剛性とダイレクトかつスムーズなステアリングフィールを実現させたものだ。
試乗してみると、ステアリングフィールがスポイルされていることはないものの、高速道路においてハンドルセンター付近での不感帯(=反応しない)が感じられ、ハンドルを切り始めた時の追従遅れが感覚的にではあるが気になった。アシストの効き始めがデジタル的に制御されONとOFFがはっきりとしているような感覚である。ただし、いったんハンドルを操舵してしまえば、そのステアリングフィールはダイレクトかつタイヤのグリップ感を正確にドライバーへと伝えるもので、その特性は俊敏なクルマの動きと相まってダイレクト感に溢れかつシャープな印象である。
NAとスーパーチャージャーエンジン
日本仕様の新型A6に搭載されるエンジンは、スーパーチャージャーを搭載しガソリン直噴を採用するV6型3.0Lエンジンと、同じくガソリン直噴で自然吸気のV6型2.8Lエンジンの2種類である。V6型3.0Lエンジンはアウディのダウンサイジングコンセプトに従って、3.0Lの排気量ながらスーパーチャージャーの過給によって300ps、440Nm/2,900rpm〜4,500rpm を発生させ、同クラスのV8型4.0Lエンジン並の400Nmを越えるトルクをわずか2,000rpmから出力させている。その特性は試乗しても明らかで、低回転からトルク感に溢れSトロニックの小気味よいシフトアップとともに、アクセルを無駄に開けていかなくても自然にスピードが乗っていく感じで、TDI(ディーゼルターボ)エンジンと似たキャラクターである。
一方のV6型2.8Lエンジンは204ps、280Nm/3000rpm?5000rpmを出力し、自然吸気エンジンらしいストレスのないエンジン回転の伸びが特徴的であった。ボアストロークを確認すると84.5mm×82.4 mmと、V6型3.0Lエンジンの84.5mm×89.0mmと比較すると、ボア径が共通しておりアウディのエンジンでは珍しくショートストロークタイプが採用されていることもひとつの要因として考察される。
2種類のエンジンともスタートストップシステム(アイドリングストップ)を搭載し、エンジンのスタートおよびストップに起因する振動や音、そのタイミングに関しては半日試乗した頃にはほとんど気にならないものであった。もちろん交通状況や季節・天候によってはシステムの作動が煩わしいと感じることもあるかもしれないが、逆に試乗し終わった後に一般的なクルマに乗ってアイドリングストップしないとアイドリング時の音と振動が不快に感じてしまうほどであった。
新型A6は現在アウディの持つ最先端の量産技術を惜しげもなく注ぎ込み、現代のどちらかと言えばコンサバティブになりがちなエグゼクティブクラスのクルマにたいする価値観をブレークスルーし、これまでのA6と同様これからのこのクラスのマイルストーンとなるモデルと言える。
ドイツ高級車メーカー御三家の中で、現在販売されているモデルとしては最も後発となった新型A6は、細かいステアフィールや乗り味のラフさ、パーキングスピード(駐車時などの超低速時)でのSトロニックの扱いにくさといったネガティブな面を持ち合わせてはいるが、ライバルであるメルセデスベンツのEクラスやBMWの5シリーズの、どちらかと言えば運動性能は従来モデルの性能を維持したまま、快適性やスムーズネスと現代に求められる環境性能とをどう折り合わせるのか?という視点でのクルマ造りとは一線を画すもので、最先端の技術を集結させることでダイナミックな性能をいったん大きく特化させ、これから個々の性能を調整しバランスさせていく、そんな今後のロードマップを試乗しながら思い描かせるようなモデルであった。直列4気筒2.0Lターボエンジンによるハイブリッドシステムの搭載も予定されていることから、ますますこれからのAudi A6に注目していたい。
●2.8FSIクワトロ 2.8L V型6気筒 ●価格610万円 アバント687万円 ●全長4930mm×全幅1875mm×全高1465mm ●最大出力150kw(204ps)/5250rpm-6500rpm、最大トルク280Nm/3000rpm-5000rpm ●7速Sトロニック(ツインクラッチ) ●3.0TFSIクワトロ V型6気筒スーパーチャージャー ●価格835万円 アバント824万円 ●最大出力220kw(300ps)/5250rpm-6500rpm、最大トルク440Nm/2900rpm-4500rpm 7速Sトロニック(ツインクラッチ)
By 石川博規(テクノメディア)